第83話 途中から
三原駅前では、やっさ祭りの旗が通りの両側に並び始めていた。夕方の風が抜けるたび、赤や青の布がばらばらに返り、駅前広場の向こうからは太鼓の音が途切れながら届いてくる。
部活を終えた心春たちは、ポーバの窓際に三人で座っていた。心春のカップには氷だけが残り、七海のカップには飲み物がわずかに残っている。
「心春、やっさ行くじゃろ?」
「行くよ。花ちゃんらと」
「じゃあ途中で合流しようや」
心春の手が、カップの縁で止まった。
「……合流?」
「うちと優奈。優奈も行くじゃろ?」
「まだ決めてない」
「行かんの?」
「行くけど」
「じゃあ三人とも行くじゃん」
優奈がストローを外した。
「七海、もう三人で行くことにしとるじゃん」
「だって行くんじゃろ?」
「行くけど、時間も決めとらん」
「心春もまだなんじゃけ、一緒に決めればええじゃん」
「優奈、港側の方が会いやすいよね」
「駅前よりはね」
断ったつもりだった。
「うち、花ちゃんらと回るよ」
「うん。じゃけ、そのあとでええよ」
「そのあと?」
「途中で合流って言ったじゃん」
「港側なら、人ちょっと少ないじゃろ」
「でも屋台少ないじゃん」
心春は残っていた氷をストローで押した。
* * *
店を出ると、冷房で冷えていた腕へ夕方の熱が戻ってきた。三人が駅前の通りを歩くあいだにも、旗の向こうから太鼓が聞こえ、練習帰りらしい法被姿の人たちが反対側の歩道を駅へ向かっていた。
「合流するだけなら港側でええじゃん」
「そのまま何か食べたい」
「じゃあ屋台あるとこまで戻ればええよ」
「二度手間じゃん」
交差点へ着くと信号が赤になり、三人の前を車が続けて通った。
「七海」
「ん?」
「優奈ちゃんと二人で行った方が楽じゃないん?」
「そりゃ楽よ」
やっぱり。
「長いけえね。優奈とは」
赤信号の下を最後の車が抜けていった。青へ変わり、三人で横断歩道を渡る。
向こう側へ着いたところで、七海が続けた。
「でも、心春とも行きたいじゃん」
心春の足が止まった。
「……なんで?」
「なんでって」
「心春と遊びたいけえ誘っとるんじゃろ」
「部活一緒じゃけえ?」
「それもあるけど」
「じゃあ何?」
七海はすぐには返さなかった。
「……行きたいって思ったけえ?」
「なんで七海が聞くん」
優奈が笑った。
「急に理由聞かれても分からんじゃん。行きたいって思ったけえ誘ったんよ」
「理由ないん?」
「いる?」
三人の横を自転車が通り過ぎ、風に押された旗が頭上で大きく鳴った。
「うちさ」
二人が歩き出す前に、心春は続けた。
「花ちゃんとか芽衣ちゃんとおる方が楽なんよ」
「うん」
「……それでええん?」
「何が?」
「七海らとおるよりよ?」
「うん」
今度は心春が返せなかった。
「……じゃあ、なんでうちも誘うん?」
「三人でずっと回るって言ってないじゃん」
七海は歩き出しながら続けた。
「花先輩らと回るんじゃろ? うちと優奈も回る。途中で会って、一緒に回りたいとこだけ回ればええじゃん」
「……途中で」
「じゃけ、最初からそう言っとるじゃん」
「七海、一日ずっと同じとこにおれるタイプでもないしね」
「今それ関係ないじゃん」
「あるよ。屋台見つけたら勝手に消えるじゃん」
「消えんわ!」
優奈が先へ進み、七海もその横に並んだ。心春も二人の後を歩く。
「じゃあ、時間決まったら言えばええん?」
「うん」
「花ちゃんらも一緒でええ?」
「ええよ」
「そこは聞いてみる」
「じゃあ決まったら送って」
「分かった」
駅前の方から太鼓が続けて鳴り、風を受けたやっさの旗が、三人の頭上で一斉に揺れた。




