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潮球  作者: カミツキ
3年目の海

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70/90

第70話 岸から、見る

土曜の朝。


 乗船口の前に、大きな道具鞄が七つ並んでいた。


 凪。結。陽。渚。遥香。七海。優奈。


 芽衣の肩には、小さな鞄しかない。心春も同じだった。


 二人とも、ドライスーツを持ってきていなかった。


 花の鞄は、どこにもなかった。


「来たんじゃね」


 結が芽衣と心春を見た。


「見るだけです」


 芽衣が答えた。


 心春は芽衣の隣で頷いた。


 三谷は二人の足元を見たあと、乗船券を渡した。


「今日は出場登録に入れない。それでいいな」


「はい」


 芽衣の返事は早かった。


 心春は一拍遅れて、同じ返事をした。


 凪は自分の鞄の肩紐を握り直した。


 来てくれた。


 でも、海へ入るものは持っていない。


 昨日、会場には来てほしいと言った。出なくてもいいとも言った。


 その通りになっただけだった。


 船が岸を離れた。


 窓の向こうで、三原の建物が小さくなっていく。海面には朝の光が細かく散り、船の後ろに白い航跡が伸びていた。


 芽衣は窓際に座らなかった。心春と並び、通路側の席に座っている。


 凪は二人の向かいへ座った。


 話しかける言葉は見つからなかった。


 船が揺れるたび、床に置かれた七人分の道具鞄が同じ方向へ傾いた。


 佐木島の岸へ着く。


 前に来たときと同じ競技区画だった。


 黄色い浮標。水中のゴールゾーン。審判用の簡易テント。


 花が試合後に腕を冷やしていた岸壁には、潮況ボードが立っていた。


【計測時刻 8:30】

【方向 競技区画東側→西側 秒速0.3m】

【特記 岸壁側に浅い戻りあり】


 凪は岸壁の近くへしゃがみ、水面へ手を伸ばした。


 表面の流れは西へ向かっている。岸壁へ当たった水だけが、浅い位置を反対へ戻ってきた。


 前の試合より、戻りが細い。


 それでも、三原港で何度も使ってきた形に近かった。


「うちら向きですね」


 遥香が潮況ボードを見ながら言った。


「うん」


 凪は手を水から上げた。


 有利な海だった。


 花がいなくても、海まで分からなくなったわけではない。


 遥香がホワイトボードを出した。


【第1ピリオド】


 石塚凪

 村上結

 木梨陽

 沖野渚

 和田七海


【交代】


 望月遥香

 西宮優奈


 七人の名前だけだった。


 芽衣と心春は、少し離れた場所からボードを見ている。


 遥香はマーカーのキャップを閉めた。


「最初は岸から見ます。西条付属が前回と同じ形なら、第2ピリオドから入ります」


「同じじゃなかったら?」


 七海が聞いた。


「もっと早く考えます」

「考えるのは岸で?」

「海に入ってから考えると遅いので」


 七海は口を閉じた。


 西条付属の選手たちが、岸壁の向こうから来た。


 先頭に加茂あかりがいる。大きな道具鞄を肩へ掛け、その後ろを西高屋美咲が歩いていた。


 鏡山の姿はない。


 それでも、歩く間隔は崩れていなかった。


 鞄を置く位置。潮況ボードを見る順番。ドライスーツを広げ、発光ラインを確認する手。


 あかりが三原中央へ顔を向けた。


 芽衣を見つける。


 二人の間にあった距離が、まっすぐ縮まった。


「今日は出んのん?」

「出ません」

「怪我?」

「違います」


 美咲の目が、芽衣の肩から足元へ動いた。


「ドライスーツ、ないね」


「持ってきてません」


「そっか」


 あかりはそれ以上聞かなかった。


「分かりました」


 西条付属の方へ戻っていく。


 美咲も続いた。二歩進んだところで一度だけ振り返り、芽衣の右足を見た。


 芽衣の足は動いていなかった。


 試合開始前。


 西条付属の五人が海へ入った。


 あかりが先頭。美咲が半歩後ろ。その間隔は、岸で準備していたときと同じだった。


 三原中央も続く。


 結は水面近くへ残り、陽は少し深い位置へ入った。渚と七海が先へ出る。


 凪が最後に水へ入る。


 冷たさが首まで上がった。


 足元では、岸壁から戻る浅い水が、主流へ逆らっている。


 読める。


 笛が鳴った。


 四つの潮核が水面へ放たれた。


 七海が一番近い潮核へ向かった。速い。西条付属の選手より先に触れる。


 手の発光ラインが赤くついた。


 そのまま七海は次の位置へ向かう。


 陽のサインはまだ出ていなかった。


 受ける選手も動き切っていない。


 七海が潮核を浅い戻りへ流した。潮核は岸壁側へ戻り始める。


 凪が追う。


 届く前に、西条付属の一人が間へ入った。潮核を拾い、青い発光ラインがつく。


 七海はもう別の潮核へ向かっていた。


 結の声が水面から落ちてくる。


「七海、早い! まだ終わっとらん!」


 七海が顔を上げた。


 その間に、西条付属が潮核を深い層へ流した。


 美咲が受ける。


 渚が前へ出た。美咲の胸へ触れようとする前に、美咲は潮核を手放した。


 青い発光ラインが消える。


 潮核は主流へ乗り、あかりの前へ浮いた。


 あかりが掴む。


 胸、手、足の発光ラインが青くついた。


 渚が反転し、あかりの左足へ触れた。


 一秒。


 あかりは止まらない。


 渚が接触を保ったまま、水を蹴る。


 二秒。


 岸壁から戻る浅い水が、二人の腰へ横から当たった。あかりは主流側へ体を傾ける。渚の手が足から滑った。


 接触が切れる。


 凪は、その先の流れを見ていた。


 あかりが進めば、深い位置で美咲へ流す。美咲はもう主流の出口へ向かっている。


 本来なら、そこへ行くべきだった。


 凪の体は、あかりへ向かった。


 手の発光ラインへ触れる。


 計測が零から始まる。


 あかりの足が、主流を蹴った。


 凪は手を離さずについていく。


 一秒。


 あかりが体を横へ倒す。凪の肩が引かれた。


 二秒。


 目の前が、青い発光ラインだけになる。


 足元の流れが見えない。


 あかりの手が開いた。


 潮核が深く沈む。


 青い発光ラインが消え、凪の三秒タッチも終わった。


 美咲が受け取った。


 凪が気づいたときには、美咲の青い光がゴールゾーンへ向かっていた。


 陽が追う。


 届かない。


 ブザーが鳴った。


 スコア:西条付属高校 1-三原中央高校 0


 凪は水面へ上がった。


 息を吸う。


 岸には芽衣がいた。


 芽衣の右足が、岸壁の端へ半歩出ていた。


 目が合うと、足は元の位置へ戻った。


 残りの潮核では得点が動かなかった。


 西条付属は、岸壁側の浅い戻りへすぐには入らなかった。


 美咲が一度触れ、深さを変えてもう一度確かめる。その後ろで、あかりが待っていた。


 分からない流れへ飛び込むのではなく、美咲が測り、あかりが使う。


 鏡山がいなくても、二人の順番は止まらなかった。


 第1ピリオド終了の笛が鳴った。


 スコア:西条付属高校 1-三原中央高校 0


 凪が岸へ上がる。


 遥香はタオルを渡す前に聞いた。


「なぜ加茂さんへ行ったんですか」


 凪は呼吸を整えた。


「渚の手が離れたから」


「西高屋さんの位置は見えていましたか」


「見えてた」


「では、そちらへ行くべきでした」


「うん」


 凪はタオルを受け取った。


 分かっていた。


 それでも、離れた手を見た瞬間、体が動いた。


 花なら離さなかった。


 芽衣なら、もう一度追った。


 いない二人の代わりに、自分が触れ続けようとした。


 結果、流れを見失った。


「凪先輩があかりさん追ったとき」


 心春の声がした。


 全員の顔が向く。


 心春は芽衣ではなく、ホワイトボードを見ていた。


「陽先輩の右、空いとった」


 陽が心春を見る。


「どれくらい」


 心春は水面へ指を向けた。


「七海先輩一人分くらい」


 七海が自分を指した。


「うち一人分?」

「もう少し狭いかも」

「なら、うち入れたじゃん」

「七海先輩、次の潮核行っとった」


 七海の口が閉じた。


 心春は言い終えると、芽衣の隣へ戻った。


 遥香がホワイトボードの名前を見る。


「第2ピリオド、七海さんと交代します。私が入ります」


「分かりました」


 七海はすぐに頷いた。


 戻りたいとは言わなかった。


 一度交代すれば、この試合には戻れない。


 凪は芽衣を見た。


「見えた?」

「見えました」


 何が見えたのかは、聞かなかった。


 第2ピリオド。


 遥香が海へ入った。


 結が水面。陽がサイン。凪と渚が流れへ入り、遥香が二人の間隔を揃える。


 あかりが前へ出ても、凪は追いすぎなかった。


 美咲の位置を見る。


 浅い戻りへ流れる潮核を見る。


 あかりの青い光が近づいても、凪は一度止まった。


 渚が足へ触れる。


 遥香が美咲の進路へ入る。


 凪は潮核が離れる先へ向かった。


 あかりが手放す。


 美咲へ届く前に、凪が触れた。


 手の発光ラインが一瞬だけ赤くつき、潮核の向きが変わる。保持する前に離れたため、光はすぐに消えた。


 陽が拾う。


 赤い発光ラインがついた。


 三原中央が初めて、西条付属の連動を途中で切った。


 陽は浅い戻りへ潮核を流した。渚が受ける位置へ向かう。


 しかし美咲が先に入った。


 さっきまで避けていた戻りへ、迷わず体を置く。


 潮核が来る場所を、もう覚えていた。


 渚の手より先に美咲が掴んだ。


 青い光。


 遥香が胸へ触れる。


 美咲は一秒で潮核を離した。


 得点にはつながらなかった。


 それでも、第1ピリオドにはなかった動きだった。


 佐木島の海を、西条付属も使い始めている。


 第2ピリオドは、両校無得点で終わった。


 スコア:西条付属高校 1-三原中央高校 0


 インターバル。


 遥香は岸へ上がると、すぐホワイトボードへ向かった。


「西高屋さんは、浅い戻りへ入るまでが早くなっています。次は、こちらの優位ではありません」


 優奈が水面を見ていた。


「あかりさん、潮核を持ったら三回同じ幅で蹴ります」


 遥香のマーカーが止まる。


「三回?」


「一回。二回。三回目で、深く流すか、そのまま前へ行く」


 優奈の指が、自分の膝を三度叩いた。


「同じです」


 凪はあかりを見た。


 西条付属の岸で、美咲と話している。美咲が水面を指し、あかりが一度だけ頷いた。


「第3ピリオド、陽さんと優奈さんを交代します」


 陽はサイン表を優奈へ渡さなかった。


 代わりに、浅い戻りと主流の境目を指した。


「ここ、途中で細くなる」


 優奈が頷く。


 陽は岸へ下がった。


 芽衣はそのやり取りを見ていた。


 花がいない。


 自分も入らない。


 それでも試合は、交代して続いていく。


 第3ピリオド。


 あかりが潮核を拾った。


 青い発光ラインがつく。


 一回。


 優奈の体が動く。


 二回。


 あかりが主流へ入る。


 三回目の蹴りが出る前に、優奈が深い位置へ入った。


 あかりの手が潮核を離す。


 優奈の指先が先に触れた。


 潮核の軌道が上へずれる。


 赤い発光ラインが一瞬だけつき、消えた。


 凪がその先へ入る。


 潮核を掴んだ。


 胸と手足が赤く光る。


 あかりが戻ってくる。


 凪はあかりを見なかった。


 岸壁へ当たった水が、浅い位置を戻っている。その先に遥香がいる。


 凪は潮核を浅く流した。


 赤い光が消える。


 遥香が受け取る。


 あかりは凪の方へ来ていた。美咲は遥香へ向きを変える。


 遥香は保持を続けなかった。


 渚がゴールゾーンの手前へ入る。


 潮核が主流を横切った。


 渚が掴む。


 赤い発光ラインがついた。


 美咲が届く前に、渚がゴールゾーンへ沈めた。


 ブザー。


 スコア:西条付属高校 1-三原中央高校 1


 水面から結の声が落ちた。


「もう一個!」


 凪はすぐに次の潮核へ向かった。


 岸で七海が両手を上げている。


 芽衣は動かなかった。


 口だけが、三度数えるように動いていた。


 西条付属の次の攻撃。


 あかりが潮核を持つ。


 一回。


 優奈が前へ出る。


 二回。


 さらに深い位置へ入る。


 あかりの足が止まった。


 三回目が来ない。


 優奈も止まる。


 その横を、美咲が通った。


 あかりは二回目の位置から潮核を手放していた。


 美咲が受け取る。


 胸と手足が青くついた。


 遥香が追う。


 美咲は浅い戻りへ入った。岸壁側へ押される前に体を横へ倒し、流れが細くなる場所を抜ける。


 優奈があかりの拍を読んだ間に、美咲が別の拍を作っていた。


 凪が追いつく前に、青い光がゴールゾーンへ沈んだ。


 ブザー。


 スコア:西条付属高校 2-三原中央高校 1


 優奈は水面に出ると、すぐあかりを見た。


 あかりはもう、三回同じ幅では蹴っていなかった。


 第3ピリオド終了。


 インターバルへ戻った優奈は、ゴーグルを外さなかった。


「変えられました」

「うん」

 凪が答えた。

「見えてたのに」

「見えたから、変えたんだと思う」


 優奈はあかりではなく、美咲を見た。


 美咲は潮況ボードの前にいた。第1ピリオドには書かれていなかった何かを、チームのノートへ書き足している。


 岸壁側に浅い戻り。


 それだけでは足りない。


 どこで細くなるか。誰がどう使うか。三原中央がどこへ入るか。


 美咲は試合の中で増やしていた。


 遥香が全員へ顔を向ける。


「交代はしません。残り十分です」


 凪は頷いた。


 岸の芽衣を見る。


 芽衣の右足は、さっきより岸壁へ近かった。


 第4ピリオド。


 三原中央は浅い戻りへ潮核を集めた。


 凪が流れを読む。遥香が位置を揃える。渚が前へ出る。優奈は相手の一歩目を見る。


 結の声が水面から届く。


「右! 凪、今!」


 凪が潮核を掴んだ。


 赤い発光ラインがつく。


 ゴールゾーンまで、浅い戻りを使えば届く。


 遥香が前にいる。


 渚がその外側へ入る。


 凪が潮核を手放した。


 戻る水が、潮核を遥香へ運ぶ。


 あかりが間へ入った。


 潮核ではなく、遥香が受ける場所へ先に体を置く。


 遥香は掴めない。


 潮核がその横を抜けた。


 渚が追う。


 美咲が渚の足へ触れた。


 まだ保持していないため、三秒タッチにはならない。それでも、渚の進路は半歩外へずれた。


 潮核は主流へ戻った。


 西条付属が拾う。


 青い発光ラインがついた。


 あかりだった。


 優奈が一歩目を見る。


 凪はあかりの進路ではなく、美咲の位置を見た。


 一回。

 二回。


 あかりは三回目を出さない。


 美咲が浅い戻りの境目へ入る。


 凪もそちらへ向かった。


 あかりの手から潮核が離れる。


 美咲が受け取る。


 凪は正面へ入った。


 美咲の胸へ手を伸ばす。


 触れた。


 一秒。


 美咲は戻りの中へ体を入れた。


 凪もついていく。


 二秒。


 美咲の手が動く。


 あかりへ返す。


 凪は潮核の方へ手を伸ばさなかった。接触を続けても、美咲の保持はもう切れている。


 青い光が消えた。


 あかりが受ける位置へ、遥香が入っている。


 届く。


 そのはずだった。


 潮核はあかりの手前で沈んだ。


 岸壁からの戻りが細くなる場所。


 美咲は、そこへ深さを合わせていた。


 あかりの下を通り、別の西条付属の選手が受け取る。


 青い発光ラインがつく。


 渚が追う。


 間に合わない。


 ゴールゾーンへ青い光が沈んだ。


 ブザー。


 スコア:西条付属高校 3-三原中央高校 1


 岸で、芽衣の右足が前へ出た。


 三度目だった。


 すぐ隣で、心春は芽衣を見ていなかった。


 ゴールゾーンの手前を見ている。


「遥香先輩の左」


 声が漏れた。


 遥香には届かない。


 それでも心春は水面から目を逸らさなかった。


「あそこ、空いとった」


 試合終了の笛が鳴った。


 スコア:西条付属高校 3-三原中央高校 1


 凪は水面に浮かんだまま、足元の流れを確かめた。


 岸壁側の浅い戻りは、まだ残っている。


 読み違えたわけではない。


 三原中央に有利な海だった。


 西条付属は、その海を試合の中で覚え、三原中央より先へ使った。


 岸へ上がる。


 七海がタオルを持ってきた。


「次行くの、早すぎました」


「うん」


 結が受け取ったタオルを七海の頭へかぶせる。


「でも気づいたなら、次は待てるじゃろ」


「次、出られんかったですけど」


「今日の次じゃなくて、次の試合」


 七海はタオルの下で頷いた。


 優奈はあかりの足を見ていた。


「あれ、途中から二回になりました」


「二回だけじゃないと思います」


 遥香がノートへ書きながら答えた。


「次は一回かもしれません」


 優奈の顔が上がる。


「じゃあ、読めないです」


「今日のままなら」


 遥香はペンを止めなかった。


 心春が水際へ近づいた。


「遥香先輩」


「はい」


「最後、左が空いとった」


 遥香が顔を上げる。


 心春は水面を指した。


「あかりさんが右へ行ったとき。遥香先輩の左に、一人入れた」


「芽衣さんが言いましたか」


 心春は首を横に振った。


「うちが見た」


 遥香は指された場所をノートへ書いた。


 心春はその文字が書き終わるまで、水面を見ていた。


 西条付属の片付けが終わった。


 あかりと美咲が、三原中央の方へ来る。


 あかりは芽衣の前で止まった。


「前に、次は勝ちに来ますって言いました」


「覚えてます」


「うちは来ました」


 芽衣の指が、小さな鞄の肩紐を握る。


「はい」


「今日は勝ちました」


 あかりは海へ顔を向けた。


「でも、芽衣さんには勝ってません」


 芽衣は答えなかった。


 あかりも待たなかった。


「失礼します」


 三原中央の全員へ頭を下げ、西条付属の荷物へ戻っていく。


 美咲だけが残った。


「三回」


 芽衣が顔を上げる。


「何が?」


「あかりが潮核を持ったとき、右足が三回出とった」


 芽衣の目が、自分の右足へ落ちる。


「数えたんですか」


「見えたけん」


 美咲はそれだけ言い、あかりの後を追った。


 西条付属の二人が並ぶ。


 歩く間隔は、朝と同じだった。


 三原中央も荷物をまとめた。


 七人分の濡れたドライスーツを入れたバッグは、朝より重くなっていた。


 凪が持ち上げようとすると、反対側の持ち手が先に上がる。


 芽衣だった。


「持ちます」


 二人でバッグを持ち上げた。


 中に、芽衣のドライスーツは入っていなかった。

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