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潮球  作者: カミツキ
2年目の海

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40/92

第40話 止まらない

 第3ピリオドの笛が鳴った。


 芽衣が下がり、花が水に入った。

 凪も続く。


 庄原北の圧が、また来た。


 速さは変わっていない。

 でも、疲れていない。


 それだけが、怖かった。


 凪が潮核へ向かった。

 先に体が来る。

 腕が深く水を引いている。

 重い流れが、相手から来ていた。


 足先で潮を確かめる。


 何も教えてくれない。


 いつもなら、ここで分かる。

 潮の向き。

 速さ。

 次に動く場所。


 何もない。


 潮核を拾った。

 ゼッケンが赤く光る。

 右から、重さが来た。

 ゼッケンに指が触れた。


 一秒。


 前へ出ようとすると、止まらない体が来る。


 二秒。


 凪は沈めた。

 逃がした。でも追ってくる。


 三秒の手前。手を放した。


 また右から来た。


 次も、右だった。


 花が動いていた。


 潮核を持った庄原北の選手が来る。

 前へ出た。体を入れる。

 押される。押し返す。足で引っ張る。


 ゼッケンに指が触れた。


 三秒タッチ。


 一秒。


 押し込まれる。


 二秒。


 足が水面に近づく。

 花は下がらなかった。


 三秒。


 青い光が消えた。


 同じことが、続いた。


 庄原北が来る。花が止める。


 来る。止める。


 花の肩が、少しずつ下がっていった。


 凪が潮核を拾うたびに、重い流れが来た。

 足先の感覚は、何も返さなかった。


 第3ピリオドが終わった。


 スコアは動いていなかった。



インターバル。


 岸壁に上がった凪に、澪が近づいた。


 凪の口が少し開いたままだった。


「流れが読めなかった」


 澪が凪を見た。


「人が起こしとる。腕で水を引いて、流れを作っとる」


 凪の目が、水面を向いた。


「ただ、三回とも右から来た。潮じゃないけど、腕の癖がある」


 澪の目が、一度だけ水面へ向いた。


「渚」


 渚がベンチから立った。

 凪と目が合う。


 凪は何も言わず、場所を空けた。


 澪が肩で息をしながら、陽の前に立った。


 「あと少しじゃ」


 陽がゆっくり頷いた。



第4ピリオドの笛が鳴った。


 渚が水に入った。


 重さが、すぐに来た。


 腕が引いている。水が動いている。

 潮じゃない、もっと近い圧。


 渚の体が一瞬だけ押された。


 でも、右から来た。


 また、右から来た。


 三回目の瞬間、体が先に動いた。


 流れが来る前に、そっちへいた。

 考える前に、足が向いていた。


 庄原北の圧は、まだ落ちなかった。


 澪の腕が、一拍遅れた。


 重い流れを全部腕で引いてきた体は、疲れを隠さなくなっていた。


 陽も同じだった。


 庄原北が、二つの潮核を同時に動かした。


 一つ目を持った選手が、正面から来る。

 澪と陽が前に出た。二人で一人を止めた。


 それが、限界だった。


 澪が一瞬だけ水面に顔を出した。


「外、もう一枚!」


 結の声が飛んだ。


 澪が潜る。

 その前に、別の潮核を持った二人目が外を抜けた。

 さらに内側にも、青いゼッケンが走っていた。


 二人。


 ゴールゾーンへ向かっている。


 花が、前に出た。


 左。


 遅い。


 右。


 腕。


 泡。


 青。


 ゼッケンに触れる。


 一秒。


 重い。


 二秒。


 腕。


 左、届く。


 青。


 三秒。


 白。


 水面の結が、息を吸った。


「止めた」


 結の指が、水面で止まった。


「まだ行くん」


 腕。


 押し返す。


 ゼッケン。


 熱い。


 光。


 足。


 三秒。


 沈まない。


 白。


 音。


「うわ」


 結の指が、まだ水面に残っていた。



同じ頃、渚は流れの中にいた。


 澪と陽が止めた潮核が、水の中でこぼれた。

 庄原北の選手が引いた水の流れが、そのまま教えてくれた。


 潮ではなかった。

 でも、流れだった。


 そっちじゃない。こっちだ。


 体が先だった。


 流れてきた潮核を、渚が受け取った。

 ゼッケンが赤く光る。


 誰もいなかった。


 渚の手が、潮核を沈めた。


 赤い光。


 試合終了の笛が鳴った。


 スコア:三原中央 3-庄原北 0


 花が水面に出た。


 両手を上げた。


「よっしゃ!!!!」


 声が、会場の外まで届きそうだった。


 芽衣が水を蹴った。


 花が振り返る前に、芽衣が抱きついた。

 目元が赤かった。


「泣いとるん?」


「泣いとらんよ」


 芽衣はそう言ったまま、花の肩に額を押しつけた。


 花の両手が、一瞬だけ宙で止まった。

 それから、芽衣の背中を一度叩いた。


「守ったじゃろ」


 芽衣は返事をしなかった。

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