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潮球  作者: カミツキ
2年目の海

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20/36

第20話 2年目の初戦

試合前日。

三原駅の噴水前で、澪のスマホが鳴った。

潮球運営委員会のアプリ。通知が来ていた。


  【試合会場】

  三原中央高校 vs 常水館高校

  会場:大崎上島沖区画B

  集合時刻:9:30


遥香が澪のスマホを覗き込んだ。


「大崎上島ですか。同じ三原なのに、うちらの海じゃないんですか?」


「会場は運営が決めるんじゃ。こっちに選択権はない」


澪は噴水の方を向いたままだった。

遥香が一歩踏み出した。


「地区予選って、全部で何戦あるんですか?」


「6戦。3敗したら終わり」


噴水の水音が、そこで一度大きく聞こえた。


「一敗目から、もう重いんですね」


「そういう大会じゃ」


遥香が空を見上げた。


「……6戦か」


結が隣で首を傾げた。


「大崎上島か。去年経験しとるし、うちらに有利じゃない?」


「相手も経験しとる。油断するな」


澪が歩き出した。

港の方から、フェリーの汽笛が届いた。



翌日。

フェリーで大崎上島へ渡った。


新入生三人が、デッキに出ていた。

遥香が風の中で海を見ていた。


「島に渡るって、静岡じゃあまりなかったんですよね」


「太平洋は島が少ないけんね」


結衣が欄干に手をかけた。


「瀬戸内は多い」


渚が遠くを見た。


「どこ見ても島がある」


凪は水面を見ていた。

フェリーから見る流れは、港から見るのと違う。速い。

島と島の間を、流れが走っている。


試合会場が近づいてきた。



審判がボードを掲げる。


  【本日の潮況】

  時刻:10:00

  方向:東→西秒速0.4m

  特記:島影あり・南側に潮止まり

    干潮まで2時間


花がボードを見た。


「去年と似た条件じゃ」


澪が凪を見た。


「凪、読めるか」


「南側の潮止まり、位置を確認します」


凪が水面に手を当てた。流れがここで変わっている。

南側だ。島影の影響が出ている。


「分かりました。南側の境界線、把握できます」


澪が全員を見渡した。


「今日から交代ができる。渚、第3ピリオドから出てもらう」


渚が頷いた。いつもより静かな頷きだった。


「結衣と遥香は今日は見とけ。自分が出たらどう動くか、考えながら見ること」


結衣が頷いた。遥香も続いた。



笛。全員が海へ。


常水館が動いた。去年と同じだった。小早川蓮が前に出る。速い。

でも、去年より少し読める。


小早川の泳ぎは力で押してくるタイプだった。

流れを読むより、先に距離を詰めて体で奪う。凪は南側の潮止まりへ向かった。

小早川の動線から外れる場所で、潮核が来るのを待った。


陽のサインが出た。Bパターン。

常水館が一瞬迷った。去年と動きが違う。その隙に花が第二潮核に飛びつく。

ゼッケンが光る。ディフェンスが二人来た。花が体ごと押し進んだ。

止まらなかった。


赤い光。ブザー。


スコア:常水館 0-三原中央 1


水面に上がった結が声を上げた。


「やったん!」


澪が水中から顔を出した。


「続けるぞ」



第2ピリオド。


常水館が動きを変えてきた。Bパターンへの対応を修正してきた。

陽のサインの前に動く。読まれ始めていた。


「Cパターン」


澪が水面に顔を出した。全員が散った。


凪は南側を意識しながら動いた。潮止まりの境界線。

去年と同じ場所に、今日もある。干潮に向かって、少しずつ位置がずれている。


常水館のディフェンスが凪を追ってきた。南側へ来させない意図が見えた。


その分、澪へのマークが薄くなった。


陽が気づいた。合図なしに、澪へ向けて潮核を流した。


澪が受け取る。

ゴールゾーンへ。ディフェンスが間に入った。三秒カウントが始まる。

澪が沈めた。深すぎた。


失速した。


常水館が拾う。

そのまま攻撃に転じた。速い。

三原中央のディフェンスが追いつかない。


青い光。ブザー。


スコア:常水館 1-三原中央 1


第2ピリオド終了。



インターバル。


澪が渚の前に立った。


「渚、行けるか」


「行けます」


「凪の代わりじゃ。この流れは、経験した方が早い」


渚が凪を見た。


「先輩、何が見えてますか」


「南側の潮止まりに、流れが集まってきてる。干潮が近いから、もう少ししたら動く」


「動く?」


「潮止まりが解ける瞬間があるんよ。そこに潮核が流れ込んでくる」


渚が水面を見た。しばらく、ただ見ていた。


「なんとなく、分かる気がします」


凪は渚を見た。

去年の自分が言いそうな言葉だった。



第3ピリオド。

凪が上がった。渚と交代した。


最初は動きが雑だった。流れには反応している。でも形になっていない。

常水館のディフェンスに弾かれる。潮核を拾えない。


そのとき、陽がサインを出した。左手を上に。流れが変わった合図。

全員が左へ動いた。


渚だけ、右へ行った。


澪が一瞬止まった。サイン無視だった。

でも渚の軌道は、はっきりと何かを追っていた。


水面の結が手を激しく左へ振った。


渚が止まった。一秒だけ。


その一秒で、右側の流れが変わった。渚が感じていた流れは、本物だった。

でも、タイミングを逃した。常水館のディフェンスが間に入った。


渚が水中で方向を変えた。体に、力が余っていた。


澪が南側へ向かった。渚がついてきた。今度は、ちゃんとついてきた。


澪が止まった。渚も止まった。

潮止まりが、解け始めた。

流れが動く。潮核が南側へ流れ込んでくる。


渚が先に動いた。

潮核を拾った。ゼッケンが光る。

初めての、本番での光だった。


常水館のディフェンスが来る。渚が深く沈めた。

少し深すぎた。失速した。でも澪が受け取った。ゴールゾーンへ。


赤い光。ブザー。


スコア:常水館 1-三原中央 2


第3ピリオド終了の笛が鳴った。


水面に上がった渚が、凪を見た。


「深すぎました」


「うん。でも、感じてたでしょ」


渚の口元が少し動いた。


「感じてました」



第4ピリオド。


小早川が変わった。


深く潜って、浮かぶ。

泡の中から出てくるたびに、位置が少し前になっていた。


読めている。

でも、止められない。


三原中央のディフェンスが追いつけない。


1点返された。


スコア:常水館 2-三原中央 2


同点。


最後の潮核が一つ。流れの切れ目の手前で、ゆっくり揺れていた。

澪と小早川が同時に動いた。


小早川の方が速かった。体力が違う。第4ピリオドなのに、まだ余力がある。


澪が南側へ切れた。小早川がついてくる。潮核から遠ざかる。


その瞬間、花が動いた。


誰も見ていなかった位置から、潮核の前へ入った。

澪が南側の流れを引きつけている間に、境界線が動いた。

流れ込んでくる。花が拾う。ゼッケンが光る。


小早川が引き返してくる。速い。三秒カウントが始まった。


花がゴールゾーンへ向かった。ディフェンスが正面に立ちふさがった。

花が体をぶつけた。止まらなかった。相手を引きずりながら、前へ。


赤い光。ブザー。


試合終了の笛。


スコア:常水館 2-三原中央 3



「勝ったん!」


結の声が海に響いた。


渚が両腕を上げた。

陽が空を見ていた。

結衣と遥香がベンチから拍手していた。


澪が全員を見渡した。


「次も気合入れるぞ」



帰りのフェリー。


デッキに出た凪の隣に、渚が来た。


「今日、ありがとうございました」


「何が?」


「あの時のアドバイス。感じ方、少し分かった気がします」


凪は渚を見た。


「渚、潮読みって、学校で習った?」


「習ってないですよ。中学のときから、なんとなく分かるだけで」


凪は水面を見た。瀬戸内の島々が、夕方の光の中に浮かんでいた。


渚は「なんとなく分かる」が当たり前だと思っている。

それが何を意味するのか、凪にはまだ言葉にならなかった。

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