表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮球  作者: カミツキ
3年目の海

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
100/101

第100話 ここにある

 第4ピリオドの開始を待つ海で、あかりが一度水面へ上がった。


 まだ潜っていない。


 その前に、美咲とあかりの間へ入っていた選手の足が動く。

 優奈はあかりから視線を外さなかった。結は水面から、あかりが空けた内側を見ている。

 凪は、先に動いた選手へ体を向けた。


 開始の笛が鳴り、四つの潮核が区画へ放たれる。


 あかりは左足から水へ入り、外側へ戻った。優奈の手も同じ方向を示す。

 同時に、結の指が内側へ動いた。


 あかりが空けた場所へ三人目が入ろうとする。凪がその正面へ入り、進路を狭めると、選手は一度足を止めた。その下を渚が通り、沈んだ砂地の方へ深さを変えた。


 美咲が先に潮核を受け取る。

 胸と手足へ青い発光ラインがついた。


 花が右足へ触れると、美咲は一秒目で体を外へ向けた。花は引かれながらも、発光ラインへ置いた手を離さない。


 美咲は二秒になる前に、潮核を内側へ離した。

 そこへ入るはずだった三人目は、まだ凪の前にいる。

 潮核は誰にも届かず、白い砂地が沈んだ場所へ落ちた。


 渚がさらに深く潜る。


 水面では真っすぐ進んでいた潮核が、途中から岸側へ曲がった。七海が見つけ、陽が位置を残した潮流だった。


 渚は端へ触れ、ゴールゾーンから外へ軌道を変える。赤い発光ラインが一瞬つき、すぐに消えた。


 西条付属の攻撃が切れる。

 渚は浮上せず、下の潮流を追った。

 岸側へ曲がった先で潮核へ追いつき、今度は両手で受け取る。赤い光が胸と手足へ広がった。


 西条付属の選手が近づく前に、渚は花へ潮核を離す。


 花は美咲への接触を終えた位置から戻り、砂地の縁で受け取った。息を整える間はなく、胸に残った空気のまま、あかりへ向き直る。


 あかりが花へ近づいた。


 花は正面から押し切らず、見えなくなった砂地の縁に沿って深さを変えた。下の潮流へ右足だけを入れる。


 あかりの手が左足へ触れた。


 花は接触されたまま、右腕で水を掻く。一度目は浅く、体がほとんど進まない。もう一度掻くと、水面近くを中央へ進む水が肩へ当たり、足元を岸側へ曲がる水が腰を引いた。


 二つの向きが重なったところで、花の体が半歩だけゴールゾーンの内側へずれる。

 二秒になる前に、潮核を沈めた。


 スコア:西条付属高校 2-三原中央高校 2


 花が水面へ上がり、短く息を吸った。

 結の声が風の中から落ちてくる。

 花は右手だけを上げ、呼吸が戻る前にもう一度潜った。


 西条付属も止まらない。

 美咲が水面へ上がった。


 優奈は、美咲がどちらの肩から潜るかを待つ。

 美咲は潜らなかった。


 水面に残ったまま、区画全体を見ている。


 水中では、あかりを含む四人が距離を広げた。美咲が空けた場所を埋める選手はいない。四人だけで潮核へ向かい、必要な場所を一つ空けたまま動いている。


「戻らん」


 結が美咲を見た。

 あかりが潮核を受け取る。


 花が右足へ触れた。


 一秒目で、あかりは花を引いたまま中央へ進んだ。


 水面の美咲が右手を動かす。


 三人目が凪の外側へ回った。


 凪が進路を塞ごうと向きを変えた瞬間、美咲が水面から潜る。砂地の縁を通らず、空いた場所へ上から入った。


 優奈が美咲へ視線を戻した時には、あかりの手から潮核が離れていた。

 美咲が受け取る。


 ゴールゾーンまで半歩。


 結が内側を示し、渚が下から枠へ入った。凪も三人目を離れ、美咲の正面へ戻る。


 美咲は潮核を抱えたまま一度沈んだが、渚の肩が先にゴールゾーンへ入った。凪も正面へ戻っている。

 無理には沈めず、潮核を外へ離した。


 西条付属は得点できなかった。


 それでも、三原中央が決めた分担は一度崩れた。


 優奈が水面へ上がる。息を吸おうとして、一度咳き込んだ。口元の水を拭い、美咲を見る。


「戻る動きがありません」

「ずっと上から見とる」


 結も水面に残った美咲から目を離さない。

 凪は、水中に残る四人を見た。

 美咲が上から入る前に、三人目が先に動いている。

 空いている場所を作ったのは、美咲ではない。


「上じゃない」

 凪は三人目を指した。

「先に動く人」


 優奈の視線が、美咲から三人目へ移る。

 心春が見つけた選手だった。


「美咲さんが上がった時だけ、その人を見ます」

「空いた方は、うちが見る」


 結が頷いた。


 試合が再開してからも、西条付属は美咲を水面へ残した。


 あかりが進み、花が触れる。


 水中の三人が位置を替え、美咲が空いた場所へ上から入る。


 優奈は美咲を追わず、三人目の足が動く瞬間だけを見る。結の指が空いた側へ動くと、凪が受け渡しの間へ入り、潮核の下には渚が残った。


 西条付属の攻撃は続いたが、追加点には届かない。


 三原中央も、奪った潮核を最後の一人まで運べなかった。


 残り時間が一分を切る。


 美咲が、もう一度水面へ上がった。


 優奈も浮上した直後だった。十分に吸いきる前に潜り、水中に残った四人へ視線を置く。


 最初に足を動かしたのは、三人目だった。


 あかりと美咲の間へ入る。


 結の指が、その選手の空けた内側へ向いた。


 凪は三人目が潮核を受ける場所へ行かず、空いた側へ入る。


 あかりが潮核を持った。


 胸と手足へ青い発光ラインがつく。


 花が右足へ触れた。


 あかりは一秒目で下の潮流へ近づき、花を引いたまま水を蹴る。芽衣が前半から続けたように、花も押し返そうとはせず、発光ラインから手を離さない。


 二秒になる前に、あかりは三人目へ潮核を離した。


 青い光が移る。


 水面の美咲が潜り始める。


 三人目は潮核を長く持たず、美咲へ戻そうとした。


 優奈は一度目の蹴りでは届かなかった。


 伸ばした指先の前を、潮核が通る。


 もう一度だけ水を蹴り、三人目と美咲の間へ体を入れた。受け取ろうとはせず、潮核の端だけに指を当てる。


 一瞬だけ赤い発光ラインがつき、軌道が下へ変わった。


 潮核は、白い砂地があった場所へ落ちた。


 水面からは見えない。


 下の細い潮流へ入ると、岸側へ曲がる。


 潮核が曲がる先は、凪にも見えていた。


 右足で水を蹴る。


 足先だけが動き、体は前へ出ない。


 もう一度蹴るより先に、渚の背中がその場所へ沈んでいた。


 渚は、優奈が触れる前から深さを変えている。


 水面ではなく、その下を見ていた。


 潮核が曲がる先へ入り、両手で受け取る。


 赤い発光ラインがついた。


 西条付属のゴールゾーンまで、沈んだ砂地の縁を一つ越える距離だった。


 美咲が水面から追いつき、渚の左足へ触れた。


 渚は一秒目で下の潮流へ右足を入れる。


 腰が岸側へ引かれた。


 そのまま進めば、ゴールゾーンの外へ流れる。


 渚は逆らわない。


 左肩を下げ、岸側へ運ばれながら体の向きを変えた。美咲も深さを変え、左足の発光ラインから手を離さずについてくる。


 二秒。


 渚がさらに沈む。


 美咲の指が一度、発光ラインの端へ滑った。すぐに手を伸ばし直し、渚の足首へ追いつこうとする。


 その指先より先に、渚がもう一度水を蹴った。


 潮核を抱えたまま、ゴールゾーンへ沈む。


 美咲の手が、消えた赤い光の後を通った。


 スコア:西条付属高校 2-三原中央高校 3


 美咲はすぐには浮上しなかった。

 ゴールゾーンの中へ手を伸ばし、沈んだ潮核へ触れてから水面へ戻る。


 西条付属は、すぐ残る潮核へ向かった。


 あかりが水面を強く蹴り、誰より先に沈む。美咲も息を一度吸っただけで、その後を追った。


 あかりが潮核を受け取り、青い発光ラインをつける。


 花が右足へ触れた。

 三人目の足が先に動く。

 優奈の手が上がり、結が空いた側を指す。その先へ凪が入り、三人目と美咲の間を塞いだ。


 あかりは花を引いたまま、潮核の下へ手を回す。


 離す前に、試合終了の笛が鳴った。


 青い発光ラインが消える。


 スコア:西条付属高校 2-三原中央高校 3


 結は水面からスコア表示を見た。


 一度。


 もう一度。


「優勝?」


 花が水面へ上がる。


「三点入れたじゃん」

「ほんまに?」

「ほんまに」


 結が両手で水面を叩いた。


「優勝じゃ!」


 岸で、芽衣、七海、心春、陽が立ち上がった。

 優奈も浮上し、渚はゴーグルを上げても、まだ自分が沈めたゴールゾーンを見ている。


 凪は右足を伸ばし、水面で息を吸った。

 岸の遥香が記録を閉じる。


 三谷が桟橋の端まで来た。


「上がってこい」


 あかりも水面へ上がった。


 岸にいる芽衣を見る。

 芽衣も、あかりを見る。

 昨日のように、どちらも手は振らなかった。


 美咲は花へ顔を向ける。

 花も水面から見返した。


 白い砂地は、もう見えなかった。


 潮は、まだ上がっている。


 その下で、細い泡だけが岸側へ曲がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ