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書術道  作者: 濵元 翠
―青龍編―

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65.秘め火






胸の奥へ、奥へとしまい込むのには理由があった。


誰にも触れられたくないからだ。


それは、白装束の女自身も含まれる。

お慕いしていると口にすることさえ憚られるほど、遠いお方。

そんな方から向けられたまなざしと、労いの言葉。

この美しい思い出を、誰にも触れさせたくない。


――最近、自分の中に生まれた雑念にも。


その原因は、あの女だった。

少し前に、朔夜が連れてきた女。

あの女を見た瞬間、白装束の女はようやく合点がいった。

朔夜が長年捜していたもの。

その正体が、わかった気がした。

朔夜には、長い間追い求め、捜し続けているものがある。

それが人なのか、物なのか、あるいは何かの事柄なのか。

確かめる術はなかった。

ただ、それを追い求める朔夜の姿に、白装束の女は惹かれていた。

朔夜に縋らなければ生きる術がなかった。

それは事実だ。


だが今は違う。


自分を救ってくれた。

だからこそ、この方のために生きていきたい。

そう、強く願っている。

それは、単なる憧れでも尊敬でもない。

もっと熱を帯びたもの。

だからこそ、気づいてしまった。

自分が朔夜を見るときと同じまなざしを、朔夜もまた向けていた。


――あの女に。


なんで。

憎い。

誰だ。

どういう関係なの。

気持ち悪い。

次々と湧き上がる負の感情が、身体中を駆け巡る。


嫉妬。


そう認めざるを得ないほど、わかりやすい感情だった。

女は、朔夜を拒み続けている。

花の牢に囚われながら、沈黙を貫いていた。

朔夜が何を言おうと、何をしようと、まるで存在しないもののように振る舞う。

強がっているわけでもない。

高慢に振る舞っているわけでもない。

ただ、そこには強い意志がある。

そして、それが許されるだけの高貴な雰囲気を纏っている。

朔夜にさえ届かないような存在。

そう感じるのは、朔夜の接し方からではない。

彼女自身が、生まれながらにしてそういう人間なのだと思えた。


珍しい、雪を思い出させる白銀の長髪。

紅桔梗色の瞳。

何事にも動じない精神力。


牢に入れられているのは、あちらのはずなのに。

こちらが閉じ込められているような、窮屈さを覚えることさえある。

それもまた、白装束の女には気に入らなかった。


そして――

そんな彼女に、怒ることすらない朔夜も。


普段なら眩しすぎる朝日さえ、朔夜の微笑みの前では、柔らかな思い出を彩る額縁の一部にすぎない。

なのに。

朔夜は、あの女へ無邪気な笑顔を向ける。

その笑顔を見ていると、胸の奥が締めつけられる。

だからこそ――

先ほど、自分にだけ向けられた朔夜の微笑みを。

白装束の女は、誰にも触れられぬよう、胸の奥へとしまい込む。

大切に。

大切に。

自分だけのものとして。


それでも――

白装束の女自身も知らぬ間に、その夢は熱を帯びていた。




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