表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書術道  作者:
―青龍編―
69/70

63.降りし新月




腰まで流れる艶やかな漆黒の長髪。

病人のように青白い肌。

整いすぎた顔立ち。

伏せられた瞳を縁取る、長い睫毛。

男物の白装束に黒の羽織。


ゆっくりと降り立った人物――朔夜。


龍麗の頭上に音もなく立ち、静かに目を開く。

切れ長の双眸。

白を多く含んだ三白眼が、場を射抜く。

白装束の女が即座に額を地につけた。


「……遅い。」


低く、感情の揺れを一切含まぬ声。


「申し訳ございません! 邪魔が入りまして……」


言い終える前に、朔夜の関心は別へ移っていた。

視線が滑り、火夜で止まる。

そして、わずかに目を細めた。


一拍。


ゆっくりと、深く、頭を垂れる。


「久方ぶりにございます。朱 火夜様。」


その言い回しに、火夜の胸がざわめく。


記憶を辿る。

名を手繰る。

時間をかけて、ようやく辿り着く。


遅れたのは当然だった。


“朔夜”という名から思い浮かぶ姿と、

目の前の人物があまりにも違いすぎたからだ。


――死んだと、聞いていた。


記憶の中の朔夜は猫背で、常に俯いていた。

癖のある長い黒髪。

小さな声。

怯えた視線。


いつも――()()の背に隠れるように立っていた。


だが今は違う。

龍の頂に立ち、この場すべてを見下ろしている。


「……お主……!」


掠れた声が漏れる。

朔夜の口角が、わずかに上がった。


「覚えていただけて光栄です。」


火夜が人を覚えていることは稀だ。

それでも忘れなかったのは――

()()の親友だったから。


その空気の変化に戸惑ったのは、火夜だけではない。

額を地につけたままの白装束の女もまた、息を呑んでいた。

朔夜に仕えて数十年。

火夜との面識など一度も聞いたことがない。

それどころか――

朔夜は自分と火夜の因縁を知っていたはずだ。

なぜ、黙っていた。

なぜ、今まで一言も――

思考を遮るように、朔夜が静かに口を開く。


「つもる話もございます。ゆるりと語り合いたいのは山々ですが――」


瞬間。


天が裂けた。


轟音とともに一条の光が落ち、朔夜と火夜の間を断ち割る。

強烈な閃光。

爆ぜる衝撃。

誰も目を開けてはいられない。


――静寂。


「失礼いたします。」


朔夜の声だけが、澄んで響いた。

やがて光が消え、視界が戻る。

そこに、誰の姿もなかった。

朔夜も。

白装束の女も。

そして龍麗も。


残されたのは、焦げた大地と、重く沈む夜だけだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ