感謝
「お父さん、お母さん。今回の結婚の挨拶に行った時、かのん君が芸能人という事でとても心配してましたね。私は子供の頃からあんまり要領良くなくて、不器用でした。それは大人になってもあんまり変わらなくてきっと東京でうまくやれてるか心配だったと思います。だけど、私今の自分がそんなに嫌いじゃないんです。ううん、そう思えるようになったんです。こんな自分だからかのん君に会えた。かのん君が私に自信を与えてくれた。そんな風に思えるようになりました。そして今日、かのん君と一緒になれて幸せです。これからもずっと一緒にいられるように努力します。お父さん、お母さんの二人は私の目標です。今までありがとう。それから、これからもよろしくおねがいします」
言い切った途端に涙がこぼれる。見ると、お父さんは顔をくしゃくしゃにして泣いていて、お母さんも涙ぐんでいた。
「それでは、新婦から花束贈呈です」
お母さんに花束を渡すと、お母さんが私を抱きしめた。
「ありがとうね」
「うん」
さ、次はかのん君の番だ。かのん君はさっきから小さな咳ばらいをしている。
「かのん君」
「う、うん。大丈夫」
かのん君はギクシャクのした動きで手紙を開いた。気持ちを落ち着かせるためか、一度大きな深呼吸をする。
「えー、父さん、母さん。今までありがとう。ありがとうってのは、その……好きにさせてくれてありがとう。自分のスタイルが万人受けしない事は自分がよく分かってます。なかには俺を大嫌いだって人もいると思う。それでも俺らしさを抑えないでいてくれてありがとう。高校の時、俺はこの見た目でクラスから孤立しました。それでも笑ってお帰りっていってくれる父さんと母さんがいたから大丈夫だった。この度、真希さんを俺は伴侶に選びました。真希さんは父さんと母さんと同じ様に『それでいいよ』って言ってくれる人です。毎日、呪文みたいに俺を褒めてくれます。真希ちゃんが側に居れば、何があっても自分を見失わないで居られるって思います。そんな真希ちゃんを絶対幸せにしたいので、俺は頑張ります。二人にはそんな俺の姿を見ていて欲しいと思います」
かのん君の両親も泣いていた。温かく見守っているようで、やっぱり心配もしていたんだろう。かのん君のお母さんは花束を貰って泣き崩れていた。
「お二人の温かいスピーチに拍手を」
司会の言葉に会場から拍手があがる。私達は涙ぐみながらその音を聞いていた。
「長田、絶対こっちに投げてよ」
桜井さんが圧をかけてくる。
「……」
レネさんが無言でキャッチの練習に励んでいる。
「ちょっと! 身長にハンデがあるんだから遠慮しなさいよ」
そんなレネさんにさくらちゃんが噛みついている。
「真希さん、分かってるわよね」
そして私に向かってにっこりと微笑んでいる。ああ、なんでこんな恐ろしいイベントを組み込んでしまったんだろう。そうだ、もう疲れてぼーっとしている間に決まっていたのだ。何って? それはブーケトス。
「それでは新婦は後ろを向いて、ブーケを投げて下さい!」
「真希さーん!」
ええいままよ。私は思いきりブーケを後ろにぶん投げた。キャーという黄色い声が上げる。そしてどよめき。え? どよめき?
不思議に思って振り返るとそこには信じられない光景が広がっていた。
「いえーい真希さん」
「いえーい」
そこにはさくらちゃんを抱えたアレク。そしてさくらちゃんの手にはブーケ。
「アレク、良くやったわ」
「痛いっ、暴れるな」
呆然としている女性陣、そして男性陣は腹を抱えて笑っていた。
「くくくっ、嘘だろーさくらー」
かのん君も笑っている。私もなんだかおかしくなって笑い出してしまった。ああ可笑しい。あ、ドレスがキツい。
そんな笑いの中で私達の結婚式が終わった。
「あっという間だったなぁ」
「うん、大変だったけどやってよかった」
二次会も終わった帰りのタクシーの車内、私とかのん君はぐったりとしながら今日の余韻に浸っていた。
「ホテルに泊ってもよかったかな」
「ううん、私は家がいい」
帰ろう、私達の我が家へ。タクシーは滑るように自宅へと着き、私達は玄関の扉を開けた。
「せーの」
「大丈夫?」
体格のさほど変わらないかのん君が私を抱き上げて玄関を通る。なんでも欧米の風習だとかなんとか。
「さぁ、どうですか」
「ほっとした。やっとおうち帰ってきた……それからやっと二人きりになれた」
私がかのん君の胸に顔をうずめると、キスの雨が降ってくる。
「それじゃ、がんばっちゃおう」
「何?」
「ほら、初夜ってやつ」
かのん君たら。私達はもつれるようにソファでキスを繰り返した。ああ、神様ありがとう。捨て猫みたいだった私の前にかのん君という天使を使わしてくれて。
「私、幸せ」
「俺もだよ、真希ちゃん」
ずっとずっと一緒にいられますように、そう願いをこめながら私は目を閉じた。
終わり
これにて完結です。ありがとうございました。




