お色直し
一旦お色直しに控え室に戻った私は、かのん君のほっぺたをぎゅうっとつまんだ。
「あたたっ」
「もう、調子のりすぎ! 恥ずかしいったら」
「花嫁と花婿のキスは定番でしょ~」
「だとしても……心の準備ってものがあるでしょう」
へそを曲げた私をかのん君は笑いながら後ろから抱きしめた。
「じゃあ、今なら?」
「今ならいいかも……」
そういうやいなや、かのん君が私の唇を奪った。ふふ、私達やっぱりちょっと舞い上がってるかもしれない。
「あの……お着替えを……」
そんな事をしていると、とても申し訳無さそうなスタッフの人が来て二人して赤面する事になった。
「うん、綺麗。似合ってるよ」
「かのん君もカッコいい」
お色直しのドレスはブルー。かのん君が似合うと言ってくれた色、そして思い出の水族館の色、沖縄の海の色。かのん君はさっきの白のタキシードとは違って、ちょっとだぼっとしたユニセックスなターコイズブルーのスーツ姿だ。
「さあ、そろそろ行こう」
「うん、皆が待ってる」
今度は庭からでは無く、会場のドアから入場する。温かい拍手に包まれて、私達は席に着く。
「それでは新郎新婦によるキャンドルサービスです!」
かのん君と一緒に各席を回る。
「やだー、綺麗な花嫁さん」
「ありがとうございます」
かまいたち虹朗はレインボーの着物姿だった。会場の誰より、下手したら新婦の私より目立つ。でもそれがかまいたち虹朗なのだ。
「すごい綺麗なお着物ですね。私も色打ち掛けと迷ったんですよ」
「じゃあ、もう一回結婚式しちゃいなさい」
あははは、とかまいたちさんは笑ったけど、一回で十分だな……。そこから移動して今度はさくらちゃんとアレクとレネさんのいるテーブルへ。
「さくらちゃん、さっきはありがとう」
「一杯念を込めて置いたから、新居に置いといてね」
「おめでとうの念だろ、素直じゃないな」
「アレクのばか!」
さくらちゃんは真っ赤になって、アレクの肩を叩く。それをレネさんが冷たい目で見ている。
「最近ずっとこうなの」
そういうレネさんは黒のオールインワンパンツのドレスで長い手足が映えて美しい。うちの会社の連中がチラチラ見ている。
「私、寂しいわ」
レネさんさえその気になれば簡単そうだけど。まぁ人の心はそう単純じゃないか。そこからまた移動して会社の方々。
「君がかのん君かぁー」
「いや、イケメンだな」
以前はやいのやいの言った部長も課長も本物のかのん君を目の前にして汗をかいていた。
「かのん君、今度遊びに行っていい?」
「もちろん!」
「やったー」
桜井さんはちゃっかりとお宅訪問の約束をかのん君から取り付けていた。それから親戚や両親の席をまわってキャンドルサービスが終わった。
「……やばい、手震えてる」
「大丈夫?」
心配そうにかのん君が私を覗き混む。この後に迫っているイベントの事を考えるの心拍数の上昇が激しくなる。
「真希ちゃん、俺もバックバクだから心配しないで」
「余計に心配になるよ……」
そう、この後のイベントは「両親への手紙」だ。普通は新婦だけみたいなんだけど、かのん君もやりたいと言ったので二人でやることになった。
「さあ、行くよ」
かのん君が私の手を引く。そしてステージの端に二人して立つとスポットライトが私達を照らした。
「それでは新郎新婦お二人からご両親にお手紙のプレゼントです。どうぞご両親は前に」
かのん君と私の両親がステージへとやってくる。とうとうこの時が来た。何度も書き直した両親への手紙。どうか受け取って欲しい。
「それでは新婦、真希さんからのお手紙です」
私は渡されたマイクを手に、手紙を広げた。
「お父さん、お母さん。今日の日を二人と迎えられてとても嬉しいです。」
情けない位に自分の声が震えている。そんな私にかのん君がそっと手を添える。大丈夫、俺もいるよと言葉にはしなかったけど伝わった。よし、がんばろう。
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