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部屋の奥にで、オペレーターたちの動きが慌ただしくなる。
「閣下。報告です」
先ほど支持を伝達しに行った村井が、顔を強張らせて赤川の執務デスクへ駆け寄ってくる。
「どうした、村井」
「はっ。只今、日本政府より緊急の回線が入りました。、閣下との直接対話を要求しております」
赤川は指先に挟んだ短く残る煙草を灰皿へ押し擦り、揉み消した。
村井へ視線を向け、静かに告げる。
「わかった。こちらへ回せ」
「はっ。直ちに」
赤川は受話器を取り上げ、ゆっくりと左耳に当てた。
「……日本解放戦線代表、赤川だ。用件を聞こう」
「君……、一体何やっているのか分かっているのか。これは明白なテロ行為だぞ」
受話器の奥から、激高した男の荒い鼻息と怒号が鼓膜を刺す。
赤川は眉ひとつ動かさず、揺るぎない声調で言葉を返した。
「おや、開口一番のご挨拶にしてはずいぶんと不作法ですな。名乗る余裕すら失うとは、やはりこの国の権力構造は根底から腐敗しているみたいですね。そう思いませんか、内閣総理大臣殿」
赤川は少し笑う。
まるで、愚図る子供をあやすかのように。
「今すぐ、この暴挙を止めろ。さもなくば……」
「アメリカの軍事力でも頼み、我々の制圧に動くかね」
受話器の向こう側の空気が、凍りついたように無言となる。
「どうやら、図星みたいですね。貴殿らは昔から変わらぬな。自分たちで立ち向かうことをせず、人任せだ」
「黙れ。我が国の防衛力を舐めるな。自衛隊を出動させれば貴様らごときテロ組織など一瞬で瓦解する」
赤川は、高々と笑う。
「……何が可笑しいんだ」
「いや……失敬。あまりにも世間知らずで、失笑を禁じ得なかった」
「何だと……」
「いざ戦争となれば、真っ先に潰走するのが目に見えている。人を殺めた経験すら持たぬ不殺の兵に、死線をくぐり抜けてきた我らを阻むことなど不可能だ」
「貴様……」
「貴殿らは口を開けば「国のため国民のため」と謳っているが、実際のところ国民から搾取した血税を自らの懐へ流し込むことしか頭にない。ゆえに我々が、民に代わってその腐臭漂う政府に鉄槌を下すのだ」
「テロリストの詭弁だ。今すぐ投降しろ」
「貴殿らの歪んだ精神が改まると言うなら、今すぐにでも手を引こう。だが、甘い汁を吸い続ける愚行を重ねると言うなら、戦うまでです」
「……」
総理大臣の激昂は影を潜め、重苦しい沈黙が受話器を支配した。
「用件は以上ですかな。では、内閣総理大臣殿。去り際に一つ、教訓を授けよう」
「……なんだ」
「口は災いの元、という言葉を忘れないことだ」
赤川は一方的に受話器をフックへ戻した。
ポケットから新たに煙草を取り出して咥え、静かに火を点ける。
紫煙の向こうで、瞳は冷たく澄み渡っていた。




