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扉の先に広がっていたのは、壁一面の巨大なモニターと無数の通信機。
そして、紅い軍服に身を包んだ者たちの熱気だった。
赤川と鴨井が足を踏み入れた瞬間、オペレーターたちは一斉に立ち上がり、行き交っていた兵卒も足を止めて敬礼をする。
「閣下。お疲れ様です」
胸元には幾重もの勲章をちりばめた一際体格の勝る男が深々と頭を下げた。
「ご苦労。状況はどうだ」
赤川は歩みを緩めず、淡々と問いかける。
「はっ。現在、とくに大きな変化はございません」
「そうか。帝のご様子はどうだ」
「はっ。京都御所にいる兵の報告によりますと、帝は夕食を召し上がられ、現在は静養されているとのことです」
「いつ政府側の奇襲があるか分からん。引き続き厳重警戒するよう伝えよ」
「はっ。直ちに」
男は鋭く敬礼し、通信兵たちの元へ足早に去っていった。
赤川は部屋の最奥、重厚な圧迫感を放つデスクへ向かい、黒い本革の椅子に、ゆっくりと腰を下ろす。
「鴨井。中国の李 毅然へ繋げ」
「はっ」
鴨井は、すぐさまデスクにある黒電話の受話器を取り上げ、暗号ダイヤルを指で回す。
受話器を赤川に渡し、通話が開始する。
「赤川総司だ。貴殿から受け取った武器は、どれも一級品で部下も喜んでいる」
「おや、赤川さんですか。それなら良かったです。噂はこちらまで流れてきてますよ。どうやら事態は順調のようですね」
「実は一つ、折り入って頼みがある。戦闘機を三機ほど日本の九州上空に飛ばして欲しい」
「九州へ、ですか……。一体、何を企んでおられるのですか」
「九州全土へナパーム弾を投下してもらいたい」
受話器の向こう側で、瞬時に呼吸が途絶えた。沈黙が落ちる。
「……赤川さん。さすがにそれは出来ませんよ。我が国の機体がナパーム弾を落としたとなれば即座に国際問題だ」
赤川はポケットから煙草を取り出して咥え、静かに火を点けた。
深く吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出す。
不敵な笑みを浮かべながら、李 毅然に語りかけた。
「……李君。君は絵を描くのは好きか」
「絵……ですか。嗜む程度には」
「機体に、鮮烈な赤丸を描いてくれ。周囲をわずかに白く縁取った、見事な「作品に仕上げてもらいたい」
「……偽旗作戦ですか」
「いいや。日本政府が九州奪還を試みた際、手違いで自国の爆撃機が事故を起こした。ただそれだけの悲劇だ」
「なるほど……。恐ろしいお方だ」
「勿論、相応の対価は払う。日本時間で明後日の12時に」
「いいでしょう。取引成立だ」
受話器を戻し、赤川は煙草を吸いながら鴨井に指示をする。
「鴨井。現地へ向かう幹部たち伝えろ。「29日12時に作品を届ける」とな」
「はっ。承知しました」
鴨井は一礼すると、一刻の猶予もない足取りで作戦室を後にした。




