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赤川の言葉が落ちた瞬間、室内の空気が氷結した。
幹部たちの顔に困惑と戦慄が走る。
「閣下。それは一体、どういう事でしょうか……」
沈黙を破ったのは渡部だった。
「我々、日本解放戦線は西日本を改め、大和を築くために起ち上がりました。九州地方も例外ではありません。焦土化するということは、全てを……いや、民をはじめ、我々の同志すら皆殺しにするおつもりですか」
渡部は勢いよく立ち上がり、怒りを露わにする。
しかし直後、我に返った渡部は自分の非礼に気付き、赤川に深々とお辞儀をして、席に戻った。
「渡部。貴様が言っている事は痛いほど理解できる。だが、これは避けられぬ過程だ」
赤川の視線は微動だにしない。
まるで不変の巨岩のごとく、いかなる激情にも揺らぐ気配がなかった。
「閣下。その意図をお聞かせ願えますか」
静かに問いを投げかけたのは、石森桜だった。
「足止めだ。九州地方を焦土化している隙に、中国・四国地方を平定を完了させる」
赤川が話し終えると、扉を叩く規則的な音がした。
「閣下。鴨井司令官がお見えです」
「入れ」
ゆっくりと扉が開き、直立した姿勢の鴨井が現れる。
「鴨井永人、只今到着いたしました」
鴨井は隙のない動作で敬礼した。
「ご苦労だった。今後の作戦について話している最中だ。着席せよ」
「はっ」
鴨井は規則正しい足取りで進み、赤川の隣へ着く。
「鴨井。ちょうど九州の件を詰めていたところだ」
「はっ。九州戦線は膠着状態にあり、四国の舞台を増援として向かわせる手筈は整えております」
鴨井の発言に驚いた渡部が、再び立ち上がる。
「なに……。九州へ増援を出しただと。閣下、どういう事ですか」
再び、怒りを露わにした渡部は、声を荒げて発言する。
しかし赤川は、冷静で静かに発言する。
「渡部、そして諸君。残酷な事はわかっている」
「でしたら、理由をご説明ください。これでは単なる無差別テロと変わりません」
赤川は渡部から視線を外し、鴨井へ顔を向けた。
「鴨井、九州地方は焦土と化す」
「焦土……ですか。ならば即刻、味方を撤退させないと」
「いや、知らせる必要はない。これから向かう増援部隊にも伏せておけ」
「なぜ……ですか……」
鴨井は赤川の発言に困惑していた。
鴨井だけではない。その場にいる幹部たちも鋭い眼差しで赤川を見ていた。
赤川は正面を向き、静かに語る。
「今現在、西日本各県庁を襲撃している第一強撃隊は、金で雇った与太者だ。このまま置いていても、いずれ反乱を起こすであろう。だが、すべてを送り出してしまうと今の状態を維持できない。だから一部だけを九州に送る」
「お待ちください。そうだとしても、焦土化するってことは一般人も巻き込まれるのではないですか」
席を立ち、声を荒げたのは、まだ若い石森桜だった。
「石森。確かにその通りだ。だが……それが他国の攻撃であっても、同じことが言えるか」
「それは……どういう意味でしょうか」
石森は、困惑した顔で赤川を見る。
「焦土化、すなわち空爆だ。だが、我々の戦闘機ではなく他国の戦闘機を利用する。例えば……そうだな。日章旗が描かれた戦闘機とかだな」
あまりにも奇抜な作戦に、鴨井をはじめ、幹部たちは言葉を失う。
石森は、すぐに冷静さを取り戻して赤川の思惑を語った。
「つまり、日本の戦闘機で空爆させて、あたかも日本が、九州地方を攻撃したと思わせることでしょうか」
「その通りだ。九州の民は、日本が攻撃してきたと勘違いし、日本政府を信用できなくなる。しかし日本政府も馬鹿ではない。我々、日本解放戦線の仕業と思う。だが、我々は民の暮らしを第一に考えている。ここで否定を続ける」
「……恐れ入りました」
石森は、深々とお辞儀をして、静かに着席した。
「九州の件は、こちらで対応する。諸君らは直ちに支度を行い、明日正午に現地へ向かえ」
「はっ」
幹部たちは一斉に立ち上がり、赤川に敬礼する。
「九州地方焦土作戦の日程は、決まり次第、各部隊に報告する」
話し終えた赤川は、ゆっくりと立ち上がり、後ろに両手を回して組む。
敬礼している幹部たちを見ながら激励を送る。
「諸君。この腐れ切った日本を正し、新たな時代と大和魂を迎えよ。幸運を祈る。解散」
幹部たちは手を下ろし、赤川に深々とお辞儀をして、一人また一人と明日という時代の夜明けへ向かった。




