十三夜 アンバーの苦悩
満月が近づいた十三夜月。
月の塔に行くと、アンバーはいなかった。
部屋は散らかっており、机の上には開きっぱなしの本が放置されている。
(おかしい、いつもなら丁寧に片付けているはずなのに。)
嫌な予感がして塔を探し回ると、奥の扉が半開きになっていた。
階段を駆け上がると屋上庭園の端で、アンバーが手すりを乗り越えようとしていた。
「アンバー!! 何やってるんだ!」
飛び降りようとしている天女を軽々と抱え、柵から遠ざける。
「離してよ!! もう、こんな生活、耐えられない! あと二日でまた恐ろしい満月の夜が来る!! どうせ私はいつか殺されるんだ! だったら、自分で終わらせたい……! 私が死んでも、また別の天女が来るからいいでしょ!!」
「……アンバー、君は……」
言葉が詰まる。いつも明るく笑っていた彼女が、こんなにか弱い顔を見せるなんて――
「あなただって...…私のことなんて同情してるだけでしょ? 屠殺される家畜の運命を哀れんでるだけけ……!」
「違う!!」
思わず声が大きくなる。自分でも驚くほど強く、否定の言葉が出た。アストライオスはアンバーの頬に優しく手を添える。
「同情なんかじゃない……! 私は......いつしか君と過ごす時間が楽しくて...…君が笑っている顔をずっと見ていたい。そのためなら、何だってする。だから、君には生きていてほしい……」
それを聞いたアンバーの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。アストライオスは、生まれて初めて見るその光景を――美しいと思った。
「……なんで……そこまで……」
「私にとって...…君の笑顔は特別なんだ...」
その瞬間、アストライオスは自覚する。
(これは同情ではない……抱いてはいけない感情なのはわかっているが……抑えられない……)
理性とは裏腹に、守りたいという衝動が胸の奥で燃えている。
「……うぅっ、うわぁぁん……」
アストライオスは子供のように泣きじゃくる天女を抱きしめ、初めて感じるぬくもりに胸が震えた。
「アンバー、君は一人じゃない。私が守る」
「……どうやって? あなただって、王になるためには私の目が必要でしょ……」
涙でぐしゃぐしゃになりながらも、琥珀色の瞳は美しく輝いていた。
「......君の目を狙うふりをして、ほかの候補者を妨害する。そうすれば君は生き続けられる。」
「でも……そしたら……永遠に王が決まらないよ...…」
「私は....それでも構わない。王の座よりも、君を守りたい……」
その日から、彼の心はただ一つ――
琥珀色の光を、守り続けること。




