満月 最終王決定戦(下)
刹那、青炎が掻き消え、闘技場は一瞬時が止まったかのような沈黙が訪れた。
次の瞬間、闘技場は地面を揺らさんばかりの熱狂の渦に包まれた。
悲鳴のような歓声の中、リゲルは膝をつき弓を握りしめたまま、唇を歪めて笑った。
「やっぱり……俺じゃダメなのか……ずっと誰かに嫉妬して、認められたくて、必死で王を目指して……でも結局、手に入らなかった……」
ノックスは大剣を支えに立ちながら、息を整えて言葉を返す。
「俺は……この闇の世界の皆を守りたいと思って王を目指していた。お前みたいに、野心とか名声のためじゃねぇ」
それを聞いたリゲルの赤い瞳がわずかに揺れ、深い悔しさと納得が交錯する。
「いくら学問で勝っても、武術を磨いても……ずっとお前には負けてる気がしてた。大して頭良くねぇのに、人を惹きつけて、誰かを守ろうとする強さが……そんなお前が……羨ましかった」
己の負けを認め、打ちひしがれているリゲルに、ノックスは手を差し伸べる。
「リゲル、俺は……お前がずっと血の滲むような努力をしてきたのを知ってる。でもルナにしたことは、今も許せない。」
「けど……後悔してるんだろ。お前なりに変わろうとしてるのも、知ってる……ずっと、自分と戦ってきたことも。俺は、お前が積み重ねてきたものをちゃんとわかってる」
一瞬、リゲルは目を伏せ、それから静かに笑ってノックスの手を取り立ち上がった。
「……そうか。悔しいが、王にふさわしいのはお前だ。ノックス、お前しかいねぇ」
観客の歓声に背を向け、リゲルは歩き去っていった。その背中には敗北の影が差していたが、不思議と誇りの色も残っていた。
観客の歓声を背に受けながら、その歩みには敗北の影と共に、どこか吹っ切れた誇りも漂っていた。
「ノックスが勝ったぞー!!」
闇の民の熱気と歓声で、空気が沸騰しそうだ。
ふと気が付くと、ルナが走って闘技場に降りてきていた。
「ノックス!!」
砂塵の闘技場に立つノックスのもとへ駆け寄ると、胸へ――強く抱きついた。
「ルナ……! 俺、やったよ......!」
ノックスはルナを強く抱きしめながら、これまでのルナと過ごした日々を思い出していた。
学問を教えてくれた時も、光を失っても――
どんなときでも、ルナだけは、絶対に見捨てなかった。いつもそばで誠実に支えてくれた。
ルナはその胸に顔を寄せ、震えを押し殺して言葉を紡いだ。
「……あなたならできると……わたくし、信じていましたわ」
それは誇りと信頼を込めた労いの一言だった。
民衆は一瞬息を呑み、次の瞬間に歓声と拍手が爆発した。
「天女様が……!」
「ノックス様と......!」
抱きしめて労ったあと、ルナは少しノックスから離れると、ふっと柔らかな笑みを浮かべる。
「……わたくしからのお祝いですわ」
その言葉と同時に、ルナの掌から球のような金色の光が舞い上がる。闇の天を彩るように、星屑の光がいくつも弾けた。白銀の光が夜空を覆い、観衆の顔を照らす。流れ星のように輝く光の筋が空から降ってくる。
「わぁぁぁぁっ!」
闇の民達は歓声を上げ、拳を突き上げた。ルナの美しい光の魔術に感激し、全身で喜びを叫んでいた。
そんな民たちの様子を嬉しそうに眺めていたルナは振り返り、ノックスに小さく囁く。
「……あなたの勝利のお祝いです。そして――新しい時代の幕開けのお祝いでもあります。」
天女は真っ直ぐにノックスを見上げる。 青く輝く瞳には覚悟の光が宿っていた。
「ノックス。……あなたに、差し上げたいものがもうひとつあります。」
ノックスはルナの突然の言葉の意味が理解できず、息を呑む。
「えっ……? 何?」
ルナの唇から紡がれたのは、衝撃の言葉だった。
「――わたくしの目ですわ」




