満月 最終王決定戦(中)
時間差で本日最終話まで行きます。
候補者が二人に絞られた今、闘技場の緊張感と高揚感は頂点に達する。
影人達の歓声や声援で闇の世界全体が揺れているようだった。
「リゲル様とノックス様の対決だ……!!」
「でもノックス様の方が圧倒的に不利よ……!」
「どっちが勝つんだ……!?」
王座の行方が目の前に切迫し、抑えきれない民たちの興奮をノックスとリゲルも感じ取っていた。
リゲルは蛇のような鋭い眼光でノックスを睨みつける。
魔力があふれ出し、周囲が音を立てて凍り付いていく。
「俺かお前か……決着つけようぜ……ノックス!!」
挑発するや否や、リゲルは一歩踏み出し、ノックス目掛けて氷を帯びた矢を放つ。
ノックスは咄嗟に大剣を振り上げる。
金属音と共に矢が弾かれた。
だが次の瞬間、足元が凍り付く。
「っ……!」
氷が蛇のように這い、ノックスの動きを奪おうとする。
リゲルは笑った。
「大して見えてねぇんだろ? その目じゃ、無謀だ」
空中に無数の氷の矢が生み出される。
観客席がどよめいた。
「あれを全部避けるなんて……!」
「終わりだ……!」
だがノックスは退かなかった。
『聴覚、触覚、嗅覚……すべてを総動員しなさい』
脳裏に浮かぶのは、ルナの声だった。
大剣を握る手に力を込め、全神経を総動員させる。
次の瞬間、リゲルの矢が一斉に放たれた。
氷の雨が闘技場を埋め尽くす。
「俺は見えてなくても……戦える!」
ノックスは地を蹴った。迫り来る氷の矢を、炎の大剣で薙ぎ払う。
砕けた氷片が頬を裂き、視界をさらに白く染めた。だが、不思議と恐怖はなかった。
耳を打つ風の音。
肌を刺す冷気。
氷が空気を裂く微かな震え。
見えなくとも、わかる。
ルナとの訓練の中で、彼は何度も見えないものを感じ取ってきた。
リゲルの次の一撃が来る。
ノックスは咄嗟に身を捻った。
氷の矢が肩を掠め、そのまま背後の壁を凍り付かせる。
「ちっ……!」
初めてリゲルの表情から余裕が消えた。
「なんで避けられんだよ……!」
リゲルは苛立ちのまま魔力を解放する。
闘技場全体に氷柱が突き出し、逃げ場を奪うようにノックスへ襲い掛かった。
観客席から悲鳴が上がる。
だがノックスは止まらない。
凍てつく地面を踏み砕きながら、一歩、また一歩と前へ進む。
「お前は……王の器じゃない……!」
ノックスの声は静かだった。
「だったらなんだ!!」
リゲルが叫ぶ。
怒りと憎悪で顔を歪め、矢を番える。
「お前に何がわかる!!」
氷の矢が放たれる。
ノックスは大剣でそれを弾いた。
だがリゲルの攻撃は止まらない。
「俺は必死だった!!」
魔力が膨れ上がる。
闘技場の床が凍り付き、無数の氷柱が棘のように突き出した。
「誰よりも勉強して!!」
一本。
「血のにじむような訓練をして!!」
また一本。
「誰よりも努力した!!」
氷柱が次々とノックスへ襲い掛かる。
観客席がどよめく。
リゲルの叫びは、氷より冷たく、鋭かった。
「俺には家柄もねぇ!」
「味方もいねぇ!!」
「だから全部、自分で掴み取るしかねぇんだ!!」
氷の嵐が吹き荒れる。
ノックスは炎を纏いながら前へ進む。
凍てつく地面を踏み砕きながら。
一歩。
また一歩。
「それなのに……」
リゲルの声が震える。
「なんで、いつもお前ばっかり……!」
矢が放たれる。
ノックスは身を捻って避けた。
リゲルが怒っていたのではない。
認められたかったのだ。
ずっと。
ただ。
認めてほしかった。
ノックスは大剣を握り締めた。
胸の奥が痛む。
(こいつも苦しかったんだな……)
ずっと。
自分とは違う場所で。
だが。
「……だから王になりたいのか?」
ノックスが問う。
「当たり前だ!!」
リゲルが即答する。
「王になれば証明できる!」
氷の魔力は爆発しそうなくらい膨れ上がる。
「俺の方が優れていたって!」
「俺の方が正しかったって!」
ノックスは静かに目を閉じ、大剣を構える。全身は炎に包まれ、激しく燃え上がった。
「違う」
「……!」
「王は証明するためになるもんじゃない」
炎が燃え上がる。
「守るためになるんだ」
リゲルの瞳が揺れた。
「綺麗事を……!」
「そうかもしれない」
ノックスは認めた。
「俺はお前みたいに賢くない」
炎が広がる。
「お前みたいに努力家でもない」
一歩。
「でも」
また一歩。
「誰かのために戦うことだけはやめたくない」
ルナの顔が浮かんだ。
仲間達の顔が浮かんだ。
闇の国の人々の顔が浮かんだ。
「だから」
ノックスは大剣を構える。
「俺は負けない」
次の瞬間。
地面が爆ぜた。
炎を纏ったノックスが一気に距離を詰める。
「っ!!」
リゲルが弓を構える。
だが遅い。
狼のような勢いで迫るノックスに、わずかに体勢を崩した。
ノックスはその隙を逃さない。
剣の切先がリゲルの腰を掠る。
フッ……
青い炎は、音もなく消えた。




