上限月 決戦準備(下)
月は次第に満ちていき、満月の夜がどんどん近づいてくる。
二人は今宵も月の塔の下で剣を握り、鍛錬を続けていた。
ルナが鋭く踏み込み、低い姿勢から剣先をノックスの炎めがけて突き上げる。
ノックスは素早く後ろへ飛び退き、すぐさま逆の足で踏み込み返す。
「まだ動きが単調ですわ」
ルナの剣が風を裂き、ノックスの左肩をかすめる。
「……くそっ」
刃を受け止める衝撃が腕に響く。
ノックスは腰の炎を背にかばいながら、剣を横に払ってルナの一撃を弾く。炎が一瞬揺らめいたが、まだ消えてはいない。
二人の剣が何度も打ち合い、金属音が夜空に響く。
ルナが一瞬、横薙ぎに軌道を変えた――その隙を逃さず、ノックスは体をひねり、逆にルナの腰へと剣を走らせた。
シュッ――ルナの炎がふっと消える。
ルナの瞳が驚きでわずかに見開かれた。
「……やった!」
「ふふ……この短期間で、わたくしの炎を消すなんて、大したものですわ。 自分の炎を守り切ることもできましたわね。」
「これなら、あいつらにも勝てるかもしれない……!」
「当然ですわ。わたくしの教え子ですもの」
二人は楽しそうに笑い合い、剣を納めた。
「当日は魔術も使えますから。あなたの炎の魔術も駆使して、守備を固めてください。」
「そうだな、一番やっかいなのはリゲルだな...…おれは近距離戦だけど、あいつは遠距離から攻撃できるから」
「鞭と太刀は間合いを調整すればいい。弓は矢を扱う以上、必ず隙ができるはずです。そこを狙えばいい」
さすが百年もの間、数々の候補者と対峙してきただけある。言葉に説得力がある。
「ルナ、俺のためにありがとうな...…」
ルナがノックスの腰の炎をちらりと見やり、満足そうに微笑む。
「あなた自身の努力の賜物ですわ。やはり候補者である以上、戦闘の腕前は伊達ではありませんわね。でもまだ一週間ありますから気を抜かないように」
ルナの青い瞳がわずかにやわらぎ、月の光を映した。
「そういえば、頑張ったご褒美をあげないとですわね」
そういうとルナがつかつかとノックスに近づいてきた。
何だろうとノックスが首をかしげた瞬間、ルナはノックスの首根っこをつかんでぐいと顔を引き寄せ、その頬に軽く唇を触れさせた。
「......!」
唇が頬に触れた一瞬、温かな光が肌の奥に染み込んでいく。それはまるで光の記憶が心臓にまで届いたかのようで、鼓動が強く跳ね上がった。
熱と安らぎが同時に押し寄せ、ノックスは目を見開いたまま固まる。 頬に残ったぬくもりが、鼓動と一緒にいつまでも離れなかった。
「さ、今日は終わりにして、明日から最後の仕上げをしましょう……顔、赤いですわよ?」
そう言い残して、何事もなかったかのようにすたすた歩いていくルナ。背を向けたルナの長い銀髪が、夜風にふわりと揺れる。
(……まだ、言葉にはできないけど……もう俺たちは、同じ気持ちで繋がってる)
その背中を見つめながら、ノックスは耳の奥まで赤くなったまま、無言で後を追った――。
――最終決戦まで、あと七日。




