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下弦月 決戦準備(上)

 アストライオス王の葬儀も終わり、候補者たちはそれぞれ満月の決戦に向けて準備を始めていた。


 ノックスが訓練所に向かおうとしたとき、リゲルとばったり会った。

「よぅ……ノックス、目はどうだ? 光の世界は散々な目にあったな……」

 その声にはわずかながら気遣いが滲み、いつものような嫌味たらしさはなかった。


「前と同じようには見えないな……でも、全力を尽くす」

 それを聞いたリゲルは、声に力が宿った。

「そうだな……これでやっと、本物の勝負ができる。王の座を奪うのに、血塗られた迷信なんていらねぇ」

「ノックス……お前の目が見えないからって、手加減はしねぇからな。今度は本気で叩き潰してやる。――真剣勝負でな」


 野心と闘志を燃やしたリゲルはそう言って去っていった。


 ◇


 ノックスは、訓練所で一人、鍛錬していた。  

 光の世界で目を焼かれてしまったことで、盲目ではないものの視野がぼやけてはっきり見えない。


(王候補者続けるって言っちまったけど、こんなに見えないんじゃ、絶望的だな.......リゲルにも宣戦布告されたけど……こんなんで俺、勝てんのか……?)

 心が折れそうになりながらも大剣を振り回すが、距離感がよくわからない。 


「苦戦していますわね」


 後ろからルナの声が聞こえる。 


「……いつからそこにいたんだ?」 


「最初から見ていましたわよ。ちょっと休憩しませんか」 

 そう言ってルナは水をくれた。 


「俺、やっぱりあんまり見えないんだよ...…こんなんであの三人と戦うなんて…...不可能な気がしてきてさ...…あの時、候補者やめとけばよかったかな...…」


 ルナは優しくノックスの手を握ってくれた。天人のぬくもりが氷のように冷めきった心を焚火のように温めてくれる。  


「あなたは、光を失っても、わたくしのためにこの闇の世界を変えてくれました。皆が安心して暮らせるように、民を守るために王になりたいのでしょう? あなたなら、絶対に王になれることを証明できるとわたくしは信じています」


「でも、どうやって戦えばいんだ……炎自体は燃えてるからうっすら見えるけど……」


「わたくしがこの百年間、どうやって逃げ生き延びてきたと思います?」 


 ルナはそこら辺に刺さっていた剣を引き抜く。


「候補者達は皆、攻撃ばかり仕掛けてくる。当たり前ですよね、わたくしを半殺しにして動けないようにしないと目を奪えないのですから。……でも、わたくしの腕力ではあなた方を倒すことができない。それならばと、守備を最大限まで高め、逃げ続けてきたのです」 


 ルナは炎がともった小さなガラス瓶を自身の腰につける。 


「視力だけではなく、他の感覚を研ぎ澄まして、感じるのですよ。そうすれば、守りを固めることができます。あなたはあの三人の炎を奪うのではなく、自分の炎を守り続ければいいのです」


 そう言ってルナはノックスの腰にも炎が入ったガラス瓶をつける。  


「さぁ、五感を研ぎ澄まし、わたくしの攻撃を避けてみなさい」 


 そういうとルナが凄まじい速さでノックスに攻撃を仕掛けてくる。

 剣が風を幾度となく切り、刃物のような風圧を感じる。

 威力は大したことはないが、とにかく速い。


「うおっ...…!!」 


 剣で攻撃を跳ね返すが、気圧されるノックス。 

 奪目の儀ではルナはいつも逃げ回っていたため、まともに反撃を受けたことがなかった。

 でも攻撃の速さだけで言えば、影人のだれよりも速い。 


「今日は満月じゃないし、そもそも月光の弱い光では、陽光の福音も大したことありませんね...…」


(これが大したことないなら、光の世界にいる時のルナはどんだけ速いんだ……!)


「余力があるなら、わたくしの腰の炎を消してくださいね」  


 そう言うや否や、ルナが凄まじい速さで踏み込み、剣を振るった。


 一閃――ノックスの腰の炎が吹き消される。

 一瞬の出来事に、ノックスは言葉を失った。


「る、ルナ...…!速すぎる……!」 


「弱音は結構。わたくしが満月の夜まで、みっちりとしごいてあげますわ」 


 こうしてルナの鬼教官訓練が幕を開けたのだった。


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