居待月 天女のぬくもり
(この温かい感じ、なんだろう……光の世界にいるときのような、光に包まれたような幸福感...…)
気がつくと、ノックスはベッドの上で寝ていた。ルナが横でノックスの手を握り、椅子に座りながらうとうとしているようだった。
(そうか、ルナがずっと手を握っていてくれたんだな......)
ノックスはルナの頭を優しく撫でる。ルナが顔をあげた。
「ノックス、起きましたか。よかった......あなた、民の前で倒れてしまったのですよ」
「そうだったのか...…光の世界で半殺しにされたからな...…」
ノックスはぼやけた視界で周りを見る。王宮の医務室のようだ。
「ノックス、起きた? 具合どう? ずっと起きなかったから心配したよ」
ポリマが心配そうに様子を見に来た。
「なんとか生きてるよ。まぁ、帰ってきた時よりはマシかな」
「そう、よかった。でも無理せずしばらく休んでね。光の世界で色んな魔術食らったんだろうね、身体中、傷だらけよ。あとね...…」
ポリマがばつの悪そうな顔で、言いにくそうに切り出す。
「色んなお医者様が来てくれたんだけど……光の世界で焼けた目の治療法が分からないんですって。あなたのその目……一生治らないかもしれないって......」
「…………そう、か」
少し目を伏せて、無言の時間が流れた。
「……やっぱりな。薄々気づいてたんだ。光はもう戻らないんだって」
太陽を見た時から、覚悟はしていた。
思っていたより冷静に受け入れられたことにノックス自身も驚きだった。
その言葉を隣で聞いていたルナの瞳には、強い意志が宿っていた。
そのことにノックスは気がついていなかった。
「また後で来るわね...…」
ポリマが気まずそうにカーテンを閉めて去っていった。
「あっそうだ。ルナ、これお土産だぞ」
ノックスはポケットから太陽の花の種が入った瓶を取り出す。
「これは...…太陽の花の種ですか?」
「そうだ。まぁ、これ買う時に影人だってバレちゃったんだけどな…...」
それを聞いたルナは真っ青になり、わなわなと震えだした。
「なんですって……!あなたがこんな目に遭ったのは……全部わたくしのせいですわ……わたくしのために、光の世界へ行ったから……!」
人前で絶対に感情的にならないルナが珍しく取り乱している。
大声を上げ、その声は震えている。
「こんなもののために目を焼かれて……命まで危険にさらすなんて……!!!」
「『こんなもの』なんてひどくないか!? 俺、命がけで手に入れてきたんだぞ!!」
「だからですよ……!! あなたは自分のことも顧みずに、わたくしのために……どうしてそこまでするのですか!! 死んでいたかもしれないのですよ?!」
そう言うとルナは子供のようにわんわん泣き出した。
ノックスはそんなルナを優しく抱きしめてなだめる。
「ルナ、絶対に君のせいじゃない。 俺は自分の意志で光の世界に行って、この種を手に入れてきたんだ。それに、この花は闇の世界の希望だろう? これがあれば闇の病を治せる。民の命を救うことができるんだ」
「わかっています......でも、ここまで、あなたにさせてしまって申し訳なくて……」
ルナの表情はよく見えないが、声が震え、嗚咽を上げている。ノックスの肩が濡れてきた。涙を流しているようだ。
「俺は、君がこの闇の世界でも、笑って生きていけるようにしたいんだよ」
ノックスはルナの銀色のつややかな髪を優しく撫でながらなだめる。
「わたくし、あなたが帰ってこなかったらどうしようと、ずっと心配でした......」
ルナがノックスを強く抱きしめる。ルナのぬくもりで体中の傷が癒されるような気がした。
「ちゃんと帰ってきただろ? それに君は目を奪われることもない。それにもう次の天女が送られてくることもない。 やっとこの闇の世界で安心して暮らせるな……」
「本当に、あなたって人は......でもお願いだから、もう無茶はしないでください......」
天女と影人は互いを強く抱きしめあい、涙と笑顔が入り混じる。
まるで、世界は二人だけのように――。
――その一部始終を、少し離れた扉の影から見ている影人がいた。
ポリマだ。
(……ふふ、やっぱり想像通り、あの二人、恋仲だったのね。ミンタカのお見舞いのときから、なーんか怪しいと思っていたのよね......)
腕を組んで、まるで弟の成長を見守る姉のように微笑む。
見られていることに全く気がついていない二人。
(あの子、天女様のために光の世界に行ったのね……今までちょっと頼りないと思ってたけど、やるじゃん、ノックス)
そーっと静かに扉を閉めると、ポリマはそのまま月明かりの廊下を去っていった。
――満月の夜まで、あと一ヶ月。




