立待月 影人の帰還
「ノックス!!」
気がつくとノックスは薄暗い王宮の床に座り込んでいた。
ルナがノックスに駆け寄る。ずっと鏡の前で待っていてくれたようだ。
土と鉄が焼け焦げたような、懐かしい匂いがする。
「ノックス! ボロボロじゃないですか! その目はどうしたのですか!」
手袋をしたルナがノックスの目を覆う布を外す。
ノックスの焦げた黒い瞳をみて言葉を失う。
「瞳が...…焦げている…...」
「あぁ…...ノックス...…太陽を見てしまったのですね...…」
ノックスは周りを見渡す。光の世界にいたときは眩しくて目が開けられなかったが、今こうして見てみると視界がぼやけていてはっきりと見えない。
「全然見えなくはないけど、あんまりはっきり見えないな……でも何とか、エリオス王に鍵を返したぞ」
「ノックス...…こんなに傷だらけになって…...おまけに目まで..….」
ルナの声が震えている。泣いているような雰囲気を感じたが、ぼやけてしまってよく見えない。
「鍵を返したことを、伯父上に伝えないと...…」
「一緒に行きます。さぁ、手を……」
ノックスは力を振り絞り、ルナの手を借りて歩き出す。
「ノックス!!」
王の会議室では長老達とアストライオス王、候補者三人が話し合っていた。
満身創痍のノックスを見て、全員言葉を失う。
「なんてことだ……光の民の奴らにやられたのか?」
「そうです、でも無事に鍵を返すことができました...…これでもう影人たちが光の世界へ行くことはありません」
アストライオスは険しい顔をしてノックスを見つめる。
「民達が広場にすでに集まっている。皆、お前の帰還を待っていたのだ。ノックス、立てるか? 門を閉じたことを発表することにしよう」
見張りの兵が鐘を鳴らし、「ノックスが戻ったぞ!」と叫ぶ。
民衆のざわめきは歓喜に弾け――しかし次の瞬間、彼の焼かれた目を見て悲鳴と怒号に変わった。
王と長老メラクが壇上に立ち、声を張り上げる。
「皆の者、聞け! 光の世界への門は閉ざされた! ノックスが命をかけて光の王に謁見し、鍵を返してきたのだ!」
「だが見よ、この姿を! 英雄であると同時に、光の暴力の犠牲者でもある!」
「見よ、この暴力の跡を! 焼かれた目を! 目を持たなくても、目を手に入れても、光の民達は我らを受け入れることはないのだ! !」
民達は悲鳴をあげる。
「なんてこと……ひどい……」
「光の民が……?」
「そんな……!」
涙と怒号が夜空に混じった。
「目を持とうと、持たずとも、光の民は決して我らを受け入れはしないのだ!」
「もう、天人の目にすがるのはやめにしよう!!」
「我々に光は必要ない! この闇と共に……皆で生きていこう!」
その声を聞いて、民たちは雄たけびをあげる。怒りと悲しみが波のように広がっていく。
群衆は一斉に叫び、夜空に憤怒の声がこだまする。
ノックスはだんだん、その声が遠くなっていくような気がした。瞼が重くなり、視界が真っ暗になっていく。次第に闇の中へと意識が落ちていった。




