第十五章「義肢列車と追跡者“月見草”――生体密輸ルートの交差点」
――列車は走る。
人を運ぶのではなく、“身体”を運ぶために。
東北の旧鉱山地帯から名古屋の地下市場へと続く、違法義肢輸送専用ルート。
通称、「義肢列車」。
***
凛子と惇は、秋田県某所にある廃線跡にたどり着いた。
線路は腐食し、積雪と枯草に覆われていたが、その下には冷たい鉄の響きが確かにあった。
「本当に、ここに……」
凛子の義足が、線路に触れるとカチリと反応する。
その瞬間、地下へと続く階段が、自動的に開いた。
***
地下には、改造された列車車両群が連結されていた。
車内は、手術台、冷却保存カプセル、3Dスキャナ、そして各種義肢が並ぶ。
ある車両では、**“脚だけの人形”**が複数吊るされていた。
それぞれにタグが付けられ、「モデルM5/出所:青森大腿義肢センター」「H2・未登録個体」などと記されている。
「これ……全部、人間から……?」
惇が息をのむ。
「いや、“合法モデル”と“オリジナル採型体”が混在してる。区別が曖昧にされてるのが問題だ」
凛子は、Z-9の脚に似た義肢を見つけた。
だがそのタグには、「Z9-PROT(台湾製レプリカ)」と記されていた。
「これが……商品になってる。あの子の“記憶”が」
***
突如、非常灯が灯り、構内に電子音が鳴り響いた。
「侵入者発見。列車接続区画ロックを開始します」
その声とともに、細身のシルエットが凛子たちの前に現れた。
銀の義足を装着した長身の人物――顔の半分はマスクに覆われ、瞳は緑色に光っていた。
「“月見草”よ。あなたたち、Z-9の記録を盗ったわね?」
月見草――それは、かつて名古屋で高精度義肢設計士として天才と呼ばれた人物。
しかし、生体義肢に“執着”しすぎたあまり、自身の身体を複数分割・義体化した末に姿を消した伝説の義体中毒者だった。
「脚を持たない人間より、脚しか持たない人形の方が、美しいと思わない?」
彼女はそう言って、スカートの下から両脚を取り外して見せた。
機械と骨が融合したようなその義足は、Z-9のデータを基に自作されたものらしい。
「Z-9は、“最初の贈与者”だった。彼女の脚は、理想のフォルムと信仰を備えていた。あれこそ、人間を超える身体」
惇が叫ぶ。
「……お前、Z-9の脚を“信仰”してるのか? ただの商品じゃない。あれは……誰かの、命だったんだぞ!」
月見草は微笑んだ。
「命ね。じゃあ聞くわ。あなたたちは、自分の身体にどれだけの意味を与えられる? 意志のない脚より、意志を与えられた人工物のほうが、価値があるんじゃない?」
凛子は静かに前へ出る。
「違う。私はこの義足で、生きようとしてきた。
誰かの記憶を踏みしめて。だから、私にとってそれは、“罪”じゃなく“赦し”なの」
その言葉に、月見草の瞳が揺れた。
「あなた、Z-9の意志と“同化”したのね……面白い。でも、それが“呪い”かもしれないってこと、忘れないで」
そう言い残し、彼女は煙のように姿を消した。
***
列車が再び動き出す音が聞こえる。
凛子と惇は、まだ確かめていない“後方車両”へと向かった。
そこには、まだ誰にも使われていない“義肢”が百体以上、冷凍保存されていた。
いずれも、過去に消えた失踪者たちのDNAがベースになっているという。
「ここは、ただの“密輸ルート”じゃない……これは、“身体の墓地”だ」
惇の言葉に、凛子は静かにうなずいた。
そして心に誓う――
「Z-9の記憶を、ここで終わらせてはいけない。必ず、記録の“本体”を探し出してみせる」




