56.義父
シオン視点
バートにレイを侯爵家へ迎えればと言われた瞬間、天啓を受けたかのように感じた。
それだ!
もう殿下の身代わりをしなくていいのだから。
侯爵家へと嫁ぐのだから婚約者が婚前に婚家へ来るのは一般的だ。
伯爵に頼んでレイにうちに住んでもらおう!
急いで伯爵の元に来たはいいが、伯爵は陛下の執事。陛下も一緒にいたのを忘れていた。
さすがに陛下に火急の用も無いのにいきなり行くのは憚られる。
うろうろとしていると、伯爵が部屋から出てきた。
「シオン殿?何か陛下に用?」
「いえ。伯爵に」
「私?」
「はい。・・・そのローレライ嬢のことで」
「レイの?緊急?」
「いえ。緊急ではありません」
「珍しいね。シオン殿が仕事中に緊急では無い用で来るなんて」
確かに・・・。
「いえ。その今は休憩中なのですが、思い付きで来てしまいました」
「せっかく来てくれたんだから聞こうか」
と空き部屋へ案内される。
「で?レイがどうしたの?」
「その、ローレライ嬢にうちへ住んで欲しいのです」
「・・・どうして?」
「・・・この間レイが倒れて、レイが今元気で生きているということは当たり前の事では無かったんだと思うと怖く、できるだけ一緒にいる時間を多く取りたいと思いまして・・・」
「ふむ。レイをそこまで想ってくれてるのかい?つまりはずっと一緒にいたいのだろう?」
「・・・はい」
婚約者の父にそんなにはっきり言われるとは。
「まあ私の娘は美しいし可愛いからね」
うんうんと納得している伯爵。
「でもねぇ、令嬢として娘として過ごしてからまだほんの少ししか経っていないんだよねぇ」
確かに。
今まで殿下だったし男として生活していたのだから娘の、女性の親としての時間をもっと過ごしたいと言うことだろうか。
と考えていると
「っぷ。あははははは。嘘。嘘。あのシオン殿がどんな反応するのか気になってしまってね。レイがいいならいいよ」
伯爵が腹を抱えて笑っているという珍しい光景に呆気に取られはするが揶揄われたという腹立たしさは全くない。
「そうか。そうか。レイはそこまでシオン殿に想われてるのか。
あの子には今まで我慢ばかりさせてきてしまった。
本人は楽しかったし、我慢などしてなかったと言うんだけどね。さすがに女の子に男の子の身代わりをさせるのは酷だったよね。いくらうちがそのための家門だとしてもね。私だって嫌な時もあったんだから、レイの事を思えば私は酷い親だっただろうね。
正直、結婚もレイが望まないならしなくてもいいと思ってたんだけどあの容姿だからね。
釣書は山のように届くんだ。まあレイが選べばいいと思っていたら、こんなところに優良物件が!
私とレイは似てるからね、同じように思っただろうね。シオン殿ならって。
だけど、いいの?レイが言ったかどうかわからないけど、正直子供が望めるかはわからないよ?私が毒に慣れさせておいて言うのもおかしいけどこの間も毒に充てられてしまったし」
「問題ありません。レイも初めからそこを気にはしていましたが、俺も今まで結婚願望も無く一生独身でいようかと思ってたぐらいですし、そんな俺を見てる両親ですから子供など夢のまた夢だと思っていたでしょう。子供はいなくてもいいと思っています」
「はあ。こんなにいい男が残っててくれてありがたいね」
「俺の方が、ふさわしくないぐらいだと思います。随分年上ですし」
「年を気にしてるの?レイは落ち着いてるから、きっと同年代じゃあ釣り合わないよ。それこそレイが突っ込んでいくのを止められないだろう?」
「・・・確かに。俺も止められるかと言われれば、追いかけるだけで止められるかはわかりませんが」
「その追いかけようと思ってくれてるのが親としては安心かな」
そうなのか?
「何にせよ。父としては娘の相手に君ほどふさわしい男はいないと思うから娘をよろしくね」
「はい!義父上」
「・・・何かちょっと腹立つけど、まあレイを大事にしてね。泣かしたら・・・」
「絶対にありえないと誓います!!」
何か伯爵の後ろに黒いものが見えてしまった。
怖い。
っていうか俺がレイを悲しませるはずがない!




