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クリスマス会の準備★ 健太郎の告白2

30、クリスマス会準備


 

 クリスマス会は体育館で行われる。

 体育館には備え付けの舞台があるが、(当然のことながら、)花道が付いていない。文化祭で野外ステージとして使われた組み立て式の舞台で長い道を作らなくてはならない。この作業は多くの労働力を必要とする。

 暇な男子生徒たちを総動員するべく、私はオダセンと共に男子寮に向かっていた。

「しかし……誰か手伝ってくれる奴がいるかな……」

オダセンは自信なさ気に言った。

 私は彼の言葉に相槌を打った。

 そうなのだ。テストが終わった今、生徒達の多くは町に遊びにでかけるか、退寮準備をするかして忙しいはずだ。皆、何だかんだと理由をつけて手伝おうとはしてくれない。

 男子寮の近くに来た時、寮から健太郎が出てきた。

 健太郎は私に気が付いて手を振る。私も振り返した。

 寮から続々と男子達が出てくる。

 健太郎は私達に走りよると、オダセンに向かって、

「俺達に、手伝わせてください」と小さな声で言った。

 私はびっくりした。次から次へと寮から出てくる男の子達。中学生男子のほとんど全員と数人の高校生男子達が集まって来たのだ!

 

 体育館に戻ると照明のチェックをしていた朝子先輩が驚いたように言う。

「よくこれだけ助っ人を集められたね。どうせ二人か三人くらいしか来てくれないと思っていたのに……」

 花道を作る作業は順調に進んだ。男の子とは言え、多くの子は中学生だ。舞台の部品一つを数人で力を合わせて運んだ。

「あのう……」

 組み立てた舞台が崩れないように、金具でとめる作業にかかっている最中、私と同じ作業をしていた俊介君が、遠慮がちに声をかけてきた。

「健太郎先輩のことなんですけど……」

 興味を引かれた私はネジを回す手を止めた。

「どうしたの?」

「健太郎先輩がゲームに負けたのはワザとなんです」と俊介君は言った。

 ゲーム? 何のこと? ……あ、罰ゲームのことか!

「先輩は、本当は将棋がすごく強いんです。多分、この学校で一番強いですよ。だから、あの時負けたのは、ワザとなんです。僕にはわかります」

「なんで? なんで健太郎はワザと将棋で負けたの?」

「それは……」と言いながら俊介君は顔を赤くした。そして、

「それは、南先輩に告白する良いチャンスだったからです!」と言い切った。

 私は恥ずかしくなって、大げさに笑いながら、

「まさか! そんなわけないじゃん! 私に告白するのは『罰』にあたるような嫌な事だったはずだよ。……私は今でも健太郎が私のことを本当に好きになってくれたとは思っていないよ。罰ゲームの後に、私に同情したか、もしくは自分が仕出かしたことに対する事後処理のつもりで私と付き合うなんて言い出したんだと思う」と言った。

 その証拠に、停電のあった教室内での告白の後、健太郎から「会おう」と言ってきたことは無かった。

「それは違います!」俊介君が強い調子で言う。

「健太郎先輩はそんな無責任な理由で南先輩と付き合っているわけではないです。先輩は無口だし、普段は他の先輩達のせいであまり目立たないから、勘違いをされやすいんですよ。でも、ああ見えて、周りに流されない人です。だから、自分が嫌だと思ったことは絶対にしません!」

 そうかな……? でも……、

「何で私なの? 私は多分、この学校で一番のブス女だよ」

 俊介君はキョトンとした表情で私を見つめた。

「さあ……? 先輩は変わり者ですから……」

 私は少しがっかりした。俊介君が「そんなことないですよ。南先輩だって『キレイ』ですよ」とフォローしてくれることを少し期待していたのだ。

正直者め……。

「南先輩は健太郎先輩のことをどう思いますか?」

 突然、予期せぬことを聞かれて私は焦った。

 そう言えば、私って、健太郎のことを好きなのだろうか? 健太郎に二度目に告白された時、自分の意思とは無関係に健太郎に流されるように付き合いを承諾してしまったのではないか? その後、私は健太郎を妙に意識するようになった。が、その前まではただの友達だったし、一時は心底憎んだ。

 リカの言葉を私は思い出した。

「いつも周りに従うか流されるかしかできない人」「自分自身のことすら自分で決められないということが問題なの!」

 私は……私自身は本当に健太郎が好きなのだろうか……、こんな気持ちのまま彼と付き合ってしまって良いのだろうか……。決めるのは私だ。

 返答に困っている私を見た俊介君は言った。

「今日、これだけの助っ人が集まったのは健太郎先輩が男子寮で暇人を募って生徒会を助けようとしたからですよ」

 私は体育館中を見渡して健太郎を探した。彼は倉庫から舞台備品を運び出している途中だった。

 


31、点呼時間


 

 夕食後の生徒会が終了したのは九時五分前だった。

 九時には男子は男子寮へ、女子は女子寮へ戻らなければならないという「ルール」がある。各寮の代表生徒が「点呼」を行い、全員寮内に戻ってきているか確認する。

 高校一二年生女子寮の代表は朝子先輩なので、私と先輩は余裕をもって生徒会室を出たが、男子寮の代表は島先輩だったのでオダセンは部屋を飛び出すなり走って寮へ戻った。

 朝子先輩と一緒に学校の廊下を歩きながら、私はつぶやいた。

「小田先輩は島先輩と仲が悪いんですか? 島先輩を言いくるめて『点呼』を見逃してもらえばいいのに……」

「どうもあの二人はそりが合わないようだよ。小田は生徒会長をやっていて先生受けも良いから、学校内ではリーダーシップを発揮できるけど、男子寮では目立たない奴らしいよ。男子全員の本物のリーダーは島だろうね」朝子先輩は淡々としゃべる。

「学校内と男子寮内で男子生徒の勢力図が変わるんですね? 複雑だな……」

「私達、女子だって学校にいるときと女子寮内とでは、皆、微妙に態度が違うと思わない?」

「……わかりません」

 今まで意識したことが無かった。学校にいるときの私と寮内にいる私は違うのだろうか? でも、もし態度が違うとしたらそれはリカが言うように「男子に媚びている」ことになるのではないか?

 校舎の玄関まで来ると、扉の前に一つの影が立っていた。

 健太郎だった。

 朝子先輩は私の肩に手を置き、

「十五分以内の遅刻なら許す」と言い、にんまり笑いながら出て行った。

 私は健太郎に近寄ると、

「ここで何してるの? 『点呼』は?」と言った。

 もう、とっくに九時になっている。

 健太郎が島先輩と仲良しとは思えない。

「ユタがなんとかしてくれる」と独り言のように彼は答えた。

 そうか、ユタなら島先輩からいろいろ特権を貰っていそうだ。友人の点呼をごまかしてもらうくらい簡単なのだろう……友人?

 私は日ごろ、食堂や学校で見るユタと健太郎を思い出した。

 二人の仲は「友達」と言うよりも「主人と下僕」のような関係に見える。

「本当にユタが何とかしてくれるの?」

私は疑い深げに聞いた。

「するよ。前にもごまかしてもらった事があるし」

当然の事を説明するように健太郎は言った。

 私は、ついさっき朝子先輩と話していたことを思い出した。

 健太郎とユタも、学校にいるときと男子寮にいるときでは微妙に違うのだろうか?

「…お疲れ様」

ボソボソと聞き取りにくい声で健太郎は言った。

「え? あ、ありがとう」

「じゃあ」と言って、健太郎は校舎の扉に手をかけた。

 どうやら寮に帰るらしい。

「え? じゃ、じゃあね。おやすみ……」

 健太郎は一人で出て行ってしまった。

 ん? あいつはここで何をしていたんだ?

 私は気になったので、すぐに扉を開けると、建物の影に沿って歩く健太郎に向かって叫んだ。

「ちょっと待ってよ! 何でこんな所にいたの?」

 健太郎は驚いた顔をして、

「……待っていたんだけど」と言った。

「私を?」

 健太郎は頷いた。

「なんで?」私は彼の側まで歩み寄った。

「えーと……、」

健太郎は曖昧に言った後、派手なくしゃみをした。しかし、かなりわざとらしい。これはきっと、「それ以上は質問しないで!」というサインだろう。

私は黙った。

ふと、昼間に俊介君から聞いたことを思い出した。

「ねえ、健太郎は何で私と付き合うことにしたの?」

 大きなくしゃみを立て続けに三回した健太郎は、

「……風邪、ひいたかも……」とつぶやいた。

 女の子なら誰でも持っている「体内嘘発見器」、別名「女の直感」は私に警告サインを送った。気をつけろ! 目の前の男はお前に嘘をついている!

「風邪なんて嘘でしょ? 何で嘘つくの?! 言いにくいことなの?」

「……うん、ちょっと言いにくいかも……」

 やはり、私に後ろめたい気持ちがあったから付き合うなんて言いだしたのだ! 最低!

私は健太郎を睨みつけたが、視界が見る見るうちに涙で曇って見えなくなってしまった。

私、泣いてる……?かっこ悪い。こんな事で泣くなんて、かっこ悪いよ、私。

健太郎は、大きく目を見開いて、涙が止まらない私を見ながら、放心している。

「なんで…?なんで、泣いてるの?」

低く、曇った、聞き取りにくい声で、健太郎は聞いた。

「だって!!」

泣いてることを知られて、急に恥ずかしくなり、健太郎に背を向けながら答えた。

「だって、きっと嘘だって思うから!……やっぱり、健太郎が私と付き合いたいと言ったのは『罰ゲーム』の責任を取るためで、健太郎の本心からじゃないからって思うから…。」

「…………。」

長い、長い沈黙。

ん?あれ?もしかして、健太郎は、もう男子寮に帰ったのではないか?

と思って、振り返ると、健太郎はまだ居た。

口を大きく開けて、目を見開いて、まだ放心している。

私と目が合うと、やっと「…びっくりした。」と、呟いた。

「びっくりした。南さんでも泣くことがあるんだ…!?」と、とんちんかんな事を言ってひどく感心している様子だ。

いや……、私だって女の子だし!泣くことはあるし!って、ツッコミたい。

健太郎は深く一度、深呼吸をすると私の目を見た。そして、

「俺は、ずっと南さんに憧れてたよ。だって、南さんは強いから。」と、さらりと言った。

「へ?強い?」驚きすぎて、一オクターブくらい高い声が出る。

健太郎はうなづいて「クラスのまとめ役もやるし、俺と同じ学年なのに生徒会の仕事もするし、自分の意見とかもちゃんと皆の前で言えるから、なんか凄いなって、思ってて……。」と言いながら、恥ずかしいのかだんだんと声が小さくなっていく。

そして、小さいが、はっきりとした声で「……傷つけて、ごめんなさい。」と言った。

「ちゃんと、告白するべきだったのに、俺、勇気が無くて……。本当にごめん。……俺、弱くてごめん。」

健太郎の小さな声が、だんだんと震えた声になる。もしかして、健太郎も泣いてるの?

「私、強くないよ?」

「……うん。ごめん」

健太郎はうつむいたままだ。

困った。

私は、強くはない。強がってはいるかもしれないけど、決して強くはない。

そんな事より、「南さんも可愛いよ。とか、美人だよ」って、言われたかった。

なんだか、涙がすっかり止まってしまった。

まさか、健太郎に好かれた理由が「強いから」だったとは!

「…………。」

また、沈黙になった。

なんか、健太郎に自分の頑張りを認めてもらったみたいで、褒められたみたいで嬉しい。嬉しいけど、気まずい。何か言わなくちゃ…、と思っていたが、ふと、思い出して、「あ!点呼!」と叫んでしまった。

その瞬間、健太郎も、「あ!やばい!」と叫んで顔を上げた。

健太郎はひどい顔だった。涙で目は充血し、鼻水が垂れている。

突然笑いが止まらなくなった。健太郎もつられて笑う。

そして、私たちは、お互い、女子寮と男子寮のある方に向かって走り出した。

「健太郎!」と、私は呼び止める。

彼が振り向いた。

「ありがとう!なんか、元気出た」と言って私は笑った。

健太郎も笑って、手を振り、また走って行った。

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