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仲直り、居室点検

22、仲直り


 

 さやかはついさっき寝室を出て行った。私は居ても立ってもいられなかった。様子を見に行きたいとも思ったが、それでは弥生や真美と同じになってしまう。

 しかし、時計が時を刻むごとにじっとはしていられなくなってしまった。

 ちょっと観てくるだけ。ほんの一瞬だけなら、さやかと武の様子を見に行ってもいいよね。ただの好奇心からではないよ。だって、心配じゃないか。さやかはもしかしたら武を殴るかもしれないよ……。

 ありえるはずの無い言い訳を頭の中に浮かべながら、私は理科室前へ歩んだ。

「頼む! さやか!」

 武の悲痛な声が聞こえてきた。

「一度裏切っておいて、今更何よ!」

 さやかはぶち切れている。

「やり直したいんだ! 本当なんだ!」

「信用できない!」

 私は人気のない理科室前にこの二人を呼んでおいて正解だったと思った。でなければ、大変な騒ぎになってしまう。

「さやかが怒るのは俺にもわかる! だけど……」

 武がさやかの肩に手を置いた。それは致命的なミスだった。

「触らないでよ!」

 と叫ぶと、さやかは素早く武の腕を掴み、武の巨体を背中に担ぎ上げ、床に投げつけた。

 一本! 勝負あり! と、思わず叫びたくなるような見事な背負い投げが決まる。

 さやかは柔道部員だ。

 冷たい廊下に叩きつけられてのびている武を見捨てて、さやかは寮に戻ろうときびすを返した。

「待ってくれ! さやか!」

 武が起き上がる。

「俺が悪かった。だけど許して欲しい! その為に、お前の気が済むようにしてくれ!」

 さやかが振り向いた。そして、武の胸倉を掴みあげる。

「今言った言葉、忘れないでね」

「え?」

 間抜けな声を武が出した瞬間、彼はすでに宙に浮いていた。慌てる武。

「ちょっと、待ったー! ここ、タイルだし! そうだ、道場に行こう! 道場へ!」

 再び廊下に激しい振動が響き渡った。

 まったくもう。やはり私は見に来て正解だったよ。これではすぐに人が集まってきてしまうだろう。

「一本! 勝者、さやか!」

 私は叫び、二人の前に駆け寄った。

 武もさやかも気まずそうに私を見つめた。


22、教室


 

ユタが私に向かって頭を下げるのは、とても珍しいことだ。というか、今までそんな事は一度も無かった。きっと明日は大雪が降る……大雪ならもうすでに降って外に積もっていたが……。

「頼む! あゆみしか頼める奴はいねー! これを今夜だけ預かってくれよ!」

 ユタはそう言って大きなスポーツバッグを私に渡す。かなり重い。

「何が中に入っているの?」

「聞くなよ! それから、絶対に開けるなよ!」

 かなり自分勝手な頼み方で腹が立った。

しかし、バッグの中身はだいたいの予想がついていたので、渋々と、

「いいよ。その代わり『お礼』を払ってね」と言ってやった。

「わかったよ。何で払えばいい?」

「ぶつぶつ苺ポッキーを三箱」

「三つも?! お前、そんなに食ったら太るぞ!」

「うるさいな! 預からないよ」

「わかったよ……その代わり、バックの中は絶対に見るなよ!」

 怖い顔をしてユタが言う。私は「わかった、わかった」と気の無い返事をした。

 


23、部屋点検


 

 男子寮では、時々抜き打ちで「部屋点検」が行われる。女子寮は点検されない。これは、女子よりも男子の方が酒、タバコなどの未成年者に不釣合いなものを所持している確率が高いという事実に基づく差別だった。「抜き打ち」で行われるはずの点検も、必ず何処からか情報が漏れてくる。

 今夜、点検が行われるらしいという確かな情報を得た男子達は「お宝」の隠し場所として女子寮に眼をつける。男子と女子の連携プレイによって、校則と法律はいとも簡単に破られる。

 


24、女子寮では、


 

 私はユタから渡されたスポーツバックを肩にかけて自習室へと向かう。

 それにしてもこのバックは重い。まあ、中に入っているものを考えたら、それは当然なのだけれども……。

 自習室の扉を開けると、珍しく全員がそろっていた。期末テストが近いので、当然なのだけれども、あまり集中して勉強しているようには見えない。

 私の抱えた大きなスポーツバックを見ると、千絵はわかりきった顔をして、

「誰から?」と聞いてきた。

「ユタ」

「開けた?」

「まだ」 

「さやかは武からバッグを預かって来るし、男子が考える事は皆同じなんだね」静香が笑いながら言う。

 さやかは机の下の紙袋をつま先で軽く蹴った。

「まったく、彼女にこんなものを預けるなんて……、恥知らずなんだから!」と言いつつも、さやかの顔は怒ってはいなかった。

 早苗の机の下にも同じように、怪しげな男物のバッグが置いてある。

一体、誰から預かったものだろう……。

「それ、早く開けてみようよぉ」と早苗が言う。

「『開けるな』って、言われたけど?」私が一応注意すると、

「まあ、いいじゃない。どうせ中身はわかっているんだし」とさやかが言った。

 酒、タバコ、そして男子のお宝と言えば……、

「エロ本でしょ? どうせ」

 バックのチャックを開ける。ご名答。安っぽいピンクがかかった本、雑誌、漫画、VHS、DVDが、大判小判のようにザクザクと出てきた。

「しかし、たくさん持っているな……、あゆみ、このバッグはいつユタに返すの?」と千絵。

「明日には返すよ」

「全部は見られないよ。どれにする?」静香はDVDを一つ一つ丁寧に出していた。

 早苗が「面白いの、発見!」と言って一枚のDVDを私に見せた。

「『貧乳童顔美女勢ぞろい』だってぇ。男って絶対に巨乳が好きなのかと思っていたけど、そうでもないんだねぇ。あゆみ、良かったねぇ」とニヤニヤ笑いながら言う。

「貧乳で悪かったね! でも私は童顔じゃないし、美女じゃないよ!」と、ふてくされる。

「あ、私、これを見たい」とリカがバッグから取り出したのは、

「『もっと、絡み付いて! ―ロングヘアプレイ―』……へえ、リカは実践できそうだね」千絵が感心する。

「エロ業界の市場は広いな」私は呆れながら言った。

 それにしても、ユタのエロコレクションには統一性が全く無い。普通はもっと趣向が似たものを集めるはずなのだが……。

「あ、このエロ漫画、貸し出しカードが付いているぞ」と千絵が言った。

 見ると手作りのカードが漫画の最後のページに貼られている。

「ユタの奴、エロ本を男子寮内で貸し出して『お礼』を稼いでいるんだよ、きっと」と静香は言った。

 だから、ジャンルを超えた様々なエロを持っているのか……。

「せこい奴!」千絵が笑って言った。

 


25、学校の怪談


 

「やめてぇ! そういう話は嫌い!」早苗が怯え声で弥生に言った。

 耳を両手でシッカリと塞ぎ、「あ~!」と大声を発して何も聞くまいと努力している。

「煩い! 聞きたくないなら自習室から出ていきなよ」と、静香が好奇心をむき出して弥生と真美を見つめている。

「私は怪談話って、結構好きだよ」

 早苗は諦めたようだ。耳から手を離し、黙り込んだ。部屋を出て行く気はないようだ。

 夕食後、スタディメイト全員が集まって期末テストに向けて、勉強をしていたところ……いや、本当は、皆でユタのエロ本を読んでいたところ、弥生と真美が訪ねに来た。ドアをノックする音に、皆、素早い反応を見せる。私は漫画を引き出しの中に投げ込み、歴史の教科書を読み始めた。二秒も立たぬ間に客を招きいれる態勢が整う。

彼女達が持ち込んだ「特種」とは、男子寮に毎夜の如く現れる髪の長い女の幽霊のことだった。

「もう何人も目撃者がいるんだって!」

弥生はオーディエンスの反応が良いので、機嫌が良いらしい。嬉々としてしゃべりだす。

「でも、どうして男子寮にだけ現れるの? この学校の土地、全てが昔は神社の土地だったのでしょう? だったら、女子寮や教室にも現れてもおかしくは無いのに……」リカは少し不満げな反応を見せた。きっと、「髪が長い」ということで、噂の幽霊に親近感が湧くのかもしれない。それに、無理矢理髪を切られた女達にも同情しているのかもしれない。自分の髪に手をあて、愛しそうに梳く。

 真美がリカの質問に「待っていました!」とばかりに答える。

「それはね、男子寮の建物があった場所が、神社の倉庫があった場所だからだよ。供養の儀式は一年のうち数回しかしないから、倉庫に供養の為に預かったハサミをまとめて置いておいた。供養前のハサミから女の怨念が漏れて、倉庫内に充満したんだよ。だから、男子寮にだけ、幽霊が出るの」

 リカの顔はまだ納得していないように見えた。

「武は白い着物を着た身の丈ロングヘアの幽霊を見たと言っていたけど?」と、さやかが言う。

「赤いチェックのスカートを履いた幽霊を見た男の子もいるんだよね?」と、私は確認の為に弥生たちに聞いた。

 不思議なのは、どの幽霊も身の丈ほどのロングヘアを持つという共通点がありながら、ファッションだけが毎回変わるのだ。白い着物、赤いプリーツスカート、時にはジーンズを履いていて表れたこともあるという。

「着物を着ていた幽霊は、きっと神社が昔ここにあったころの幽霊だと思えるけど、現代風の服を着た幽霊達は、どう考えても神社が無くなった後の時代の幽霊だよ」と千絵が言った。

 弥生はそれに反応した。

「そうなの! 私も変だなって、思ったの! で、考えたんだ。もしかしたら、神社が無くなった今でも、ハサミの供養をこの場所でやっているんじゃないのかな?」

「まさか!」

静香が叫ぶ。

「きっと弥生の言うとおりだよ! 今でも男子寮の何処かに供養を待つハサミが保管されているんだよ!」

真美が弥生と顔を合わせ、お互いに大きく頷いた。

「まさか……ねぇ?」

私は自分のスタディメイトたちの顔を見回した。皆、半信半疑の様子だ。リカだけは凍りついたような表情で、自分達の話に興奮するパパラッチたちを見つめている。

 今でもハサミの供養を行っている? だから幽霊が出る? 

もし、それが真実なら幽霊の数と同じだけ、無理矢理髪を切られて悲しい思いをした女性達が何処かにいるという事だ……。

私は貞子先輩が更衣室の中で、リカの髪を切ろうとして振り上げたハサミのことを思い出した。もし、あの時、リカの髪があのハサミで切られていたら、リカの悲しみの魂が、ハサミに宿ったのだろうか……?


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