↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/7

ep.4 それぞれの帰り道

「……すまん。落ちた」


 中型竜は、少し気まずそうにそう言った。


 ミリアはすぐに右の翼へ回る。


「翼を見せてください」


「頼む」


 付け根を強く打っている。表面の傷は大きくないが、動かそうとすると身体がわずかに強張った。


 竜を治療するのは初めてだったが、傷の見方まで変わるわけではない。


 ミリアは手を当て、回復魔法を流した。


「骨は折れていないと思います。ただ、今すぐ飛ぶのはやめた方がいいです」


「そうか」


 竜は素直に翼を下ろした。


 アルノーが倒木の向こうへ目をやる。


「どちらから来られたんです?」


「街道の向こうだ。いつもの航路を戻っていた」


「なら、ここはだいぶ外れていますね」


「ああ。風に持っていかれた。空荷だったのが幸いだ」


 アルノーが森の上を見る。


「竜運の方々は、航路沿いを探しているでしょうか」


「たぶんな。帰着していなければ、まずそこを辿る」


「こっちまで来るには時間がかかりそうですね」


 ブルーノが空を見上げた。


「狼煙でも上げますか?」


「そうだな」


 アルノーが頷く。


 セラが辺りを見回した。


「ここでは、燃え移りが心配ですね……」


 少し考えて、杖を地面につく。


「念のため、近くの水脈を寄せておきましょうか?」


 その声に、竜がセラを見た。


「……お前、竜泉士か?」


「はい」


「ならば、竜脈も動かせるな?」


「少しなら」


「俺の下へ寄せてくれ。傷の治りも早くなる。それに、仲間へ合図が出せる」


「分かりました」


 セラは杖の先を地面につけた。


 目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整える。


 やがて周囲の魔力が濃くなった。


 ミリアの手のひらを通る回復魔法にも、はっきりとした変化がある。


「……さっきより通ります」


「竜脈が集まってるからな」


 竜の呼吸も、少しずつ落ち着いていった。


 やがて地面の奥で、低い響きが走る。


「今のが合図ですか?」


「ああ。届けば分かる」


 ミリアは治療を続けた。


 少しして、アルノーが街道の方へ目をやる。


「あのままにはしておけないな」


 ブルーノがそちらを見る。


「また街道へ出る可能性がある。あの場所からは排除するしかない」


 ブルーノは少し黙った。


「……仕方がないですね」


 竜が首を上げた。


 ブルーノはそちらへ向き直る。


「実は、街道で馬車が一台事故を起こしています。おそらく、岩角猪が森から逃げ出した時にぶつかったものかと」


 竜がアルノーを見る。


「俺が落ちたせいか?」


「おそらくは。この辺りにいたところへ、落ちられたんでしょう」


「ならば、俺のせいだ」


 竜は少し間を置いた。


「できるなら、戻してやってくれ」


 ブルーノが頷く。


「分かりました。しかし、どうしたものか……」


「罠を仕掛けるか」


 アルノーがミリアを見る。


「ミリア、睡眠薬を調合できるか?」


「……やってみます」


 ミリアは少し考えた。


「ノエルさんがいれば、魔法で眠らせる方法もあったかもしれませんけど」


「いないものは仕方ないな」


 眠らせるだけなら、薬でもできる。


 難しいのは、きちんと目を覚ます量にすることだった。


 翼の腫れが少し引き始めた頃、上空から翼音が聞こえた。


 木々の上から、小型のワイバーンが姿を見せる。


 背には二人の竜人が乗っていた。


「来たか」


 竜が首を上げる。


 ワイバーンは、竜が倒した木々の間へゆっくりと降りた。


 一人が手綱を取り、もう一人が大きな道具袋を抱えて飛び降りる。


「ご無事ですか」


「翼をやった」


 道具袋を持った竜人が、すぐに傷を確かめ始めた。


 ミリアは場所を空けながら説明する。


「右の翼の付け根を痛めています。骨折はないと思います。回復魔法で応急処置をしました」


「ありがとうございます。ここからはこちらで見ます」


「お願いします」


 ミリアは場所を譲った。


 セラはまだ杖を地面につけている。


「竜脈は、もうしばらく維持します」


 ブルーノが頷いた。


「では、自分もここに残ります」


 アルノーがミリアを見る。


「暗渠に戻ろう」


「はい」


 ブルーノが二人へ声をかける。


「アルノーさん、そちらをお願いします」


「分かった」


◇


 暗渠へ戻ると、自警団の二人は入口から離れた場所で見張っていた。


「何か分かりましたか?」


「ああ。森に中型竜が落ちていた」


「竜が?」


「風に流されて、不時着したらしい。岩角猪はそれに驚いて逃げてきたんだろう」


「なるほど……」


 アルノーは暗渠へ目をやった。


「眠らせて森へ戻す。荷車を一台、手配できるか?」


「分かりました」


 自警団の一人が村へ向かい、もう一人が見張りに残った。


 ミリアは荷物を広げ、薬の調合を始める。


 成獣用を一つと、子が出てきた時に備えて、それより弱いものをいくつか。


 頭数はまだ分からない。


「これでいけると思います」


「子が多かったら?」


「多めに作ってあります。出てきた数に合わせます」


「分かった」


 調合を終えると、アルノーが暗渠の入口を見た。


「その前に、近くの竜威香を止めた方がいいな」


 見張りに残っていた自警団の男へ声をかける。


「街道の竜威香、ここに近いものだけ火を消してもらえるか」


「分かりました」


 自警団の男が街道へ向かった。


 しばらくして戻ってくる。


「消しました」


「ありがとう」


 アルノーは餌をいくつかに分けた。


 成獣用を一つ。その周囲に、子が出てきた時のための小さな餌も置く。


 ミリアはそれぞれに薬を混ぜた。


 二人は十分に距離を取った。


 しばらくすると、暗渠の奥から大きな鼻先が現れた。


 岩角猪だ。


 周囲を警戒しながら、ゆっくりと餌へ近づいていく。


 その後ろから、小さな影が一つ。


 もう一つ。


「二頭ですね」


「ああ」


 用意しておいた分で足りる。


 親が先に餌へ口をつけ、子も少し離れた餌を食べ始めた。


 やがて親の脚がふらつく。


 地面へ横になると、子も少し遅れてその場に伏せた。


「効きました」


「もう少し待とう」


 ミリアは三頭の呼吸を確かめた。


 問題ない。


 これなら、目を覚ますまでには十分な時間がある。


 ちょうどその頃、街道の方から足音がした。


 ブルーノとセラだった。


「うまくいきましたか」


「今のところはな」


 ブルーノが眠った岩角猪を見る。


「竜は?」


 ミリアが聞いた。


「短い距離なら飛べるところまで回復したそうです。竜運の方々と一緒に出発しました」


 セラがミリアとアルノーを見る。


「お二人にも礼を、と言っていました」


 そこへ、自警団の男が荷車を引いて戻ってくる。


「持ってきました」


「助かる」


 成獣は、近くで見るとさらに大きかった。


 自警団の二人が前脚側へ回る。


「せーの」


 わずかに浮いて、すぐに落ちた。


「重いな……」


 ブルーノが横へ回った。


「手伝いましょう」


「お願いします」


 三人で縄を掛ける。


 ブルーノが前側を持ち上げた。


「今です」


 自警団の二人が縄を引く。


 岩角猪の身体が荷台へずり上がった。


 最後に大きく荷車が揺れ、成獣が荷台へ収まる。


 子の二頭は、アルノーたちも手伝って載せた。


 荷車で、街道から十分離れたところまで森へ入る。


 やがて地面が悪くなり、それ以上は進めなくなった。


 アルノーが周囲を見回す。


「ここでいい」


 三頭を荷車から下ろした。


 目を覚ませば、そのまま森の奥へ戻っていくだろう。


 暗渠へ戻ると、セラが入口の前で杖を地面についた。


 しばらく目を閉じる。


 やがて杖を上げた。


「暗渠の中には、もう大きな反応はありません」


「なら、大丈夫そうだな」


 アルノーが言った。


 ブルーノは自警団の二人へ向き直る。


「このあと周囲をもう一度確認して、問題がなければ街道の封鎖を解いてください」


「分かりました」


 アルノーが付け加える。


「竜威香も忘れずにな」


 ブルーノが続けた。


「荷車も、ありがとうございました」


「いえ。こちらこそ助かりました」


 気がつけば、日はかなり傾いていた。


 街道沿いの木々が長い影を落としている。


 四人は装備を整えた。


 自警団の二人に見送られ、街道へ出る。


 ブルーノが息をついた。


「さて、歩いて帰りますか」


 ミリアは小さく肩を落とした。


 正直、もうあまり歩きたくなかった。


 隣で、セラも深いため息をつく。


 夕方の街道を歩き始めた。


 しばらくして、アルノーが腹をさする。


「腹減ったな」


「お昼も簡単に済ませましたからね」


 ミリアもそろそろ夕食のことを考えていた。


 三十分ほど歩いた頃、後ろから馬車の音が聞こえた。


 定期の街道馬車だった。


 セラが振り返る。


「乗りましょうよ。もうくたくたです」


「私も賛成です」


 ミリアもすぐに答えた。


 ブルーノは少し考える。


「規定上、大丈夫でしょうか」


 アルノーが馬車を見る。


「貸し切りの申請が通らないだけだろ。たぶん大丈夫だ」


「たぶん、ねぇ……」


 馬車が四人の横で速度を落とした。


 御者が顔を出す。


「王都方面なら乗っていくかい?」


 アルノーが聞いた。


「領収書は出るのか」


「出るよ」


「乗ろう」


 四人の声が揃った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。