第5話:神のナイフ、覚醒。そして「さばく者」へ
「グオォォォォォン!!」
庭の隅でどす黒いオーラを放つ魔界樹が、無数の枝を触手のように振り回す。
メイドたちが悲鳴を上げ、ユカリが指先を向けようとしたその時――。
「ユカリ、ここは俺に任せてくれ!」
俺は無意識に、腰に差した『神のナイフ』の柄を握りしめていた。
前世の社畜生活で培った『根性』。理不尽な上司や納期という名の怪物を、心の中で切り捨て続けてきたあの精神力が、今、ナイフに宿る神気と共鳴する。
「……はぁっ!」
――ズバァァァァッ!!
抜刀。
ただの一振りだった。しかし、白銀の閃光が空を裂き、巨大な魔界樹の幹を真っ二つに両断した。
「……え?」
ユカリも、駆け寄ろうとしたセバスも絶句する。
驚くべきはその後だ。切り裂かれた魔界樹が地面に倒れることなく、霧のように形を崩し、吸い込まれるように俺の持つナイフへと収束していった。
『――レベルが上昇しました。対象の魂を調理・吸収完了』
頭の中に、どこか聞き覚えのある(おそらく転生させた神様の)声が響く。
『スキル【さばく者】を習得しました』
「な、なんだ……? 今、ナイフが喋ったのか?」
俺が唖然としていると、手元でナイフが淡い光を放ち、ステータス画面が目の前に強制展開された。
【田中直人】
固有スキル:『さばく者(裁く/捌く)』
特性1: 刃を向けた対象の「構造」を瞬時に理解し、最も効率的な解体ルートを見出す。
特性2: 斬った対象のエネルギーを吸収し、主の糧、あるいは食材へと変換する。
「……これ、戦闘スキルっていうか、やっぱり究極の『仕込み』スキルじゃないか?」
「直人様……今のは、伝説に聞く『神の抜刀』でございますか!?」
セバスが涙を流して震えている。
「あんな凶悪な魔界樹を一瞬で……しかも庭を一切汚さずに消滅させるなんて。まさに、女神を陰から支える裁定者……!」
「直人、すごーい! 私の出番なかったじゃない」
ユカリが露出度高めの鎧を揺らしながら、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「いや、たまたまだよ。それよりユカリ、今の魔界樹……ナイフが『食材』に変えたみたいなんだ」
俺がナイフをひと振りすると、空間からポロンと、最高級の「燻製ナッツ」のような香りを放つ木の実がいくつか転がり出た。
「……これ、今日の酒のつまみにしてみるか?」
「やるわね、直人! さすが私の旦那様!」
最強の嫁に守られるだけじゃない。
嫁が暴れた後の「後始末」と「栄養管理」こそが、俺に与えられた真のチート能力だったらしい。
こうして、俺の神のナイフは、魔物を斬るたびに料理のレパートリーが増えていくという、世にも恐ろしい(?)成長を始めたのだった。




