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番外編:ナビルの正妻への挑戦状 —— キッチンは女の戦場!?

「ハウス・オブ・タナカ」の広大なキッチンに、バチバチと火花が散るような緊張感が走っていた。

事の発端は、具現化したばかりのナビルが放った、あまりにも大胆な一言だった。

「ユカリ様。貴方は直人様の『癒やし』かもしれませんが、私は直人様の『機能』そのもの。主夫のパートナーとしてどちらが相応しいか、一度明確にする必要があると感じます」

ナビルはエルフの体で優雅にエプロンを締め、データの光を宿した瞳でユカリを真っ直ぐに見据えた。

「な、なんですって……!? 私だって直人のために、毎日洗濯だって掃除だって、一生懸命やりくりしてるんだから!」

ユカリも負けじと、聖なる魔力が込められた(少し焦げ跡のある)ミトンをはめて仁王立ちする。

第一ラウンド:愛の朝食対決

「判定は直人様にお願いしましょう。テーマは『直人様の心と体を最も満たす朝食』です」

ナビルが提案した対決に、俺は審判として(というか板挟みの状態で)カウンター席に座らされた。セバスとメイドたち、そしてデス・アビスまでもが壁際で固唾を飲んで見守っている。

「……あの、二人とも。朝からそんなに張り切らなくても……」

「「直人(様)は黙っていてください!」」

声を揃えて一喝され、俺は静かに口を閉じた。

ナビルの攻勢:究極のロジカル料理

ナビルが動いた。その動きに一切の無駄はない。

「直人様の昨夜の心拍数、睡眠の質、および消費カロリーを逆算。今朝の胃腸の状態に最適化された、超高吸収型・薬膳リゾットです。隠し味に『精霊の森』の雫を加え、細胞レベルで活力を『満たし』ます」

差し出されたのは、宝石のように透き通ったスープに、完璧なアルデンテの米が躍るリゾット。

一口食べると、脳に直接「健康」が染み渡るような、恐るべき完成度だ。

「……すごいな。ナビル、お前の計算には狂いがない」

「ふふ、当然です。私は貴方の内側を、誰よりも知っていますから」

ナビルが勝ち誇ったように、ユカリに視線を送る。

ユカリの反撃:真心(物理)の味

「計算なんて関係ないわ! 私が作るのは……これよ!」

ユカリがドンッ!とテーブルに置いたのは、少し形が歪な、だが信じられないほど厚切りにされた「ハチミツたっぷりのフレンチトースト」だった。

「昨夜、直人が『甘いものが食べたいな』って独り言を言ってたの、私、聞き逃さなかったんだから! あとは……元気が出るように、私の魔力をこれでもかってくらい込めておいたわ!」

見た目は家庭的。だが、そこから溢れ出す多幸感と、ユカリの「直人を喜ばせたい」という真っ直ぐな想いが、湯気と共に部屋中を包み込む。

俺がそれを口に運んだ瞬間、体中の力がふわりと抜け、心の奥底が温かさに満たされた。

「……美味い。……なんだか、すごく安心する味だ」

決着、そして……?

「……。……解析不能。私のリゾットの方が栄養価は4.2倍高いはずですが、直人様の表情筋の緩み方は、ユカリ様の料理の方が上回っています」

ナビルが少し悔しそうに唇を噛む。

「当然よ! 料理は『やりくり』だけじゃなくて、『想い』なんだから!」

ユカリが胸を張る。……が、ナビルはすぐに不敵な笑みを浮かべて俺に近づいた。

「なるほど、情動的なアプローチ……学習しました。では、直人様。朝食の後の『デザート』は、私のこの体を使って、論理と情熱を融合させた特別なメニューを用意しましょうか?」

「ちょっ、ナビル!? またどさくさに紛れて!」

「ふふ、ユカリ様。正妻の座はまだお譲りしますが、今夜の『寝室のやりくり』に関するアドバイス権は、私の方が一歩リードしているようですよ?」

「……ナビル、お前、本当に性格が変わったよな」

俺は、さらに賑やか(で騒がしい)になった田中家のキッチンで、これからの新大陸生活に、胃薬が必要になるかもしれないと密かに覚悟した。

『ナビルより追記。直人様、胃薬は不要です。私がその不快感さえも、快楽へと「さばき」替えて差し上げますから』

「……もう、勘弁してくれ」

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