番外編:ナビルの具現化、そして眠れるエルフ姫との「同居」生活!?
田中家の浮遊島は、新大陸の奥深くに広がる、魔力が濃すぎて誰も近づけない『精霊の森』の上空に静止していた。
「直人様、前方高度300メートルに、異常な魔力結界を確認。……解析の結果、古代エルフの秘術による『永遠の眠り』の呪いです」
脳内ではなく、空中に浮かぶ半透明の美しいウィンドウから、ナビルの声が響く。名前をつけてからというもの、彼女は積極的に「姿」を見せるようになっていた。
「永遠の眠り……? なあナビル、それってつまり……」
『肯定。極上の「熟成」状態です。その呪いの核をさばき、純粋な生命力で満たせば……世界最高峰の美容効果を持つ「エルフの涙」が採取できる可能性があります。……ユカリ様の肌の艶が、さらに……』
「よし、さばきに行こう」
直人は『神のナイフ』を握り、ユカリ(「エルフの美容法」と聞いて目が輝いている)と共に、森の最深部へと転移した。
精霊の森の「さばき」:眠れる姫君の救出
森の中央には、巨大な水晶に包まれた、信じられないほど美しいエルフの少女が眠っていた。彼女こそが、千年前から森を守るために自ら呪いを引き受けた『眠れるエルフ姫』だ。
「……きれい。でも、すごく悲しい匂いがするわ」
ユカリがそっと水晶に触れる。
「ナビ、指示をくれ。どこをどうさばけば、彼女を傷つけずに呪いだけを切り離せる?」
『了解。直人様、彼女の心臓の鼓動と同期してください。……そこです! 呪いの因果律が交差する「継ぎ目」を、コンマ数ミリの精度でさばき落とします』
直人は集中力を極限まで高め、ナイフを振るった。
――シュパパパパパンッ!!
『スキル【さばく者】発動。対象の「永遠の眠り」の呪いを解体。スキル【満たす者】連結――直人様の生命力と、ナビルが解析した「覚醒の術式」を満たします』
水晶が砕け散り、エルフ姫がゆっくりと目を開けた。
……だが、異変はその瞬間に起きた。
ナビル、具現化。そして――
エルフ姫の体から、眩い光が溢れ出した。
その光は彼女の隣で霧散することなく、急速に収束し、一つの「形」を成していく。
光が収まった後。そこには、エルフ姫と瓜二つの、だが髪の色がプラチナシルバーで、瞳がデータの光を宿す「もう一人のエルフ」が立っていた。
「……登録完了。個体識別名『ナビル』。……直人様、ユカリ様。ようやく、物理的な『体』を持って、お仕えすることができます」
ナビルが、自分自身の体を見つめながら、静かに微笑んだ。
「ええっ!? ナビルちゃんが……エルフの体を持った!?」
「ナビル……お前、具現化したのか?」
『……正確には、直人様が「眠れる呪い」をさばいた際、その呪いが依代としていた「千年の魔力」と、私の情報体が完全に適合してしまった結果です。……私は今、このエルフ姫の体と、私の意識を共有(同居)している状態です』
「同居……? じゃあ、その姫君は?」
ナビル(エルフ姿)が、隣でまだ呆然としている本物のエルフ姫を指差した。
「彼女の意識は、まだ『覚醒』の途中です。……私が彼女の体を使って、直人様を外側からサポートする一方で、彼女の意識は『内側』で私の学習データを見て、現代の知識を学んでいます」
つまり、一つのエルフの体に、ナビルとエルフ姫の二つの意識が存在しているのだ。
「直人様、これからは私も、ユカリ様と同じように、貴方に触れ、貴方の料理を食べ、貴方を『やりくり』することができます。……ふふ、まずは今夜の『スタミナ増強パセリ』の効果を、この体で確かめてみましょうか」
「……っ!! ナビル、お前、体を持った途端にキャラが濃くなってないか!?」
「直人! 今、ナビルちゃん何て言ったの!? 私より先にナビルちゃんとやりくりするなんて、許さないんだからね!」
「いや、違うんだユカリ! これは……これは不可抗力なやりくりで――!」
田中家の浮遊島に、また一人(正確には一人と一つ?)、騒がしくも美しい同居人が増えた。
直人の主夫としての苦労は、物理的な意味でも、精神的な意味でも、さらに「やりくり」が難しくなってしまった。




