番外編:ナビゲーターの名付けと、意外な「性別」
新大陸の夜。空中都市からもらった「精力がつく果実」を前に、俺はキッチンのカウンターでふと考え込んだ。
ずっと俺の脳内で、あるいは空間に浮かぶウィンドウとしてサポートしてくれている「ナビゲーター」。
最近のあいつは、単なるシステムを超えて、俺とユカリの関係をからかったり、妙に人間味のあるアドバイスをしてきたりする。
「なあ、ナビゲーター。……いや、お前、最近なんだか人間味溢れてないか?」
『否定。私はあくまで直人様の思考とスキルを最適化する論理モジュールです。……ですが、直人様とユカリ様の高揚感に当てられ、データの学習バイアスが「情動寄り」に傾いている可能性は否定できません』
「ほら、そういうところだよ。……ナビゲーターって呼ぶのも長いし、これからは親しみを込めて名前で呼んでやるよ」
『……。名前、ですか? 私に、個体識別名を?』
一瞬、あいつの無機質な声が揺れたような気がした。
「ああ。ナビゲーター、NAVI……ナビル。**『ナビル』**はどうだ? 響きもいいし、呼びやすいだろ」
『……。……。個体識別名「ナビル」を受理しました。システム・ログに登録。……悪くない響きです。ありがとうございます、直人様』
「喜んでもらえて何よりだ。……ところでさ、ナビル。お前、そもそも『性別』とかあるのか? 声は中性的だけど、性格はなんだか……」
俺がそう問いかけると、目の前に浮かぶ半透明のウィンドウが、今まで見たこともないような「ピンク色のノイズ」を走らせた。
『ナ、ナビル……ナビルとお呼びください。……性別、ですか。私は情報体ですので物理的な性は存在しません。ですが……』
「ですが?」
『直人様という「男性」を内側からサポートし、その肉体と精神の全てを把握しているという点において……私の思考論理は、極めて「女性」に近い感性で構築されています』
「……えっ」
『つまり、ユカリ様が「外側」から愛でる存在なら、私は「内側」から直人様を独占する存在……と定義することも可能です。……ふふ、今夜のやりくりの最中も、私は直人様の「全て」を一番近くで感じていますからね』
「……っ!! お前、ナビル、なんてこと言うんだ!」
『……あら。赤面されましたか? 直人様。……今後は「ナビル」として、より親密に、より深く、貴方の「やりくり」をお手伝いさせていただきます』
名前をつけた途端、ナビゲーター――いや、ナビルは、ユカリとはまた違う「危うい色気」を感じさせる口調に変わった。
「……なおと? 誰と話してるの?」
背後から、眠そうな目を擦りながらユカリがやってきた。
「あ、いや、ユカリ。ナビゲーターに名前をつけたんだよ。『ナビル』って」
「ナビル……? へぇ、可愛い名前じゃない! よろしくね、ナビルちゃん!」
『ええ、よろしくお願いします、ユカリ様。「正妻」としての座は譲りますが、直人様の「深部」までは譲るつもりはありませんので』
「……? 今、ナビルちゃん何か言った?」
「いや! 何でもない! 何でもないから! ほら、ユカリ、もう寝よう!」
俺は冷や汗を流しながら、二人の「女神」に挟まれるという、かつてないほど難易度の高いやりくりを予感した。




