第23話:海を渡る巨大な影。新大陸の海産物は「クラーケン」の姿をした高級食材!?
昨夜の「熱いやりくり」の余韻が残る朝。
田中家の浮遊島は、新大陸の東側に広がる未知の海域『母なる紺碧』の上空に差し掛かっていた。
「……ふわぁ。直人、おはよう。なんだか腰が少し重いわ……」
ネグリジェにカーディガンを羽織ったユカリが、少し赤らんだ顔でバルコニーに出てくる。
「おはよう、ユカリ。……無理させて悪かったな。今日はゆっくり休んでていいぞ」
「もう、誰のせいだと思ってるのよ……って、きゃあ!? 直人、海に変な島があるわ!」
ユカリが指差す先。穏やかだった海面に、突如として山のような巨大な影が浮上した。
それは島ではなかった。うねる無数の触手が空を裂き、巨大な吸盤が海水を巻き上げる。
『解析。伝説の超巨大軟体生物【極光のクラーケン】です。一艘の軍艦を一口で飲み込み、その墨は海を百年腐らせると言われる災厄の化身ですが……』
「墨が海を腐らせる……? なあナビゲーター。それって裏を返せば、**『超濃厚な旨味成分の結晶』**ってことじゃないか?」
直人の主夫としての直感が、かつてないほど激しく警鐘(晩飯の献立)を鳴らした。
海鮮の「さばき」:クラーケン漁
「ユカリ、洗濯物は取り込んだか? これからちょっと、活きのいいのを一杯釣り上げるぞ」
「ええっ、あんなに大きいの食べるの!? ……でも、確かにイカ焼きにしたら美味しそうね」
直人はバルコニーから身を乗り出し、『神のナイフ』を構えた。
「――スキル【さばく者】、遠隔展開。――『一本釣り・活け締め』」
――シュパパパパパンッ!!
直人の振るったナイフの軌跡が、真空の刃となって数千メートル下の海面を切り裂く。
クラーケンの急所である魔力核を傷つけることなく、巨大な触手の付け根と、墨袋の神経だけをピンポイントで「さばき」分けた。
「グルゥゥゥ!?」
クラーケンは戦う術を失い、完全に脱力して海面にぷかぷかと浮き上がった。
「セバス、破壊神! 下に降りて回収だ! 鮮度が落ちないうちに、甲羅の上に引き上げるぞ!」
「畏まりました。……デス・アビス殿、何を呆然としているのです。その触手で、同業(?)を抱え上げなさい」
「……我が……伝説の海神を、ただの食材として……」
破壊神はもはや抵抗する気力もなく、虚無の力でクラーケンを屋敷の庭へと運び込んだ。
新大陸の特製シーフード・パーティー
庭に横たわる、ビルほどもあるクラーケンの足。
直人はさっそく、特大の鉄板(遺跡で見つけた熱伝導率の良い魔法金属板)を準備した。
「よし、まずは『触手のバター醤油焼き』だ。ユカリ、火力を強めにお願い!」
「まかせて! ……これ、絶対ビールが欲しくなる匂いね!」
ユカリの聖なる炎で熱せられた鉄板の上で、クラーケンの身がキュッと締まり、香ばしい匂いが立ち込める。
さらに直人は、クラーケンの「腐敗の墨」を『満たす者』で浄化し、極上の「超濃厚パスタソース」へと再構築した。
「さあ、みんな、食べよう。新大陸の海の幸だ!」
一口食べたメイドたちが、あまりの旨味に昇天しかける。
「な、なんですかこれ!? 噛めば噛むほど、海のエキスが溢れ出してきます!」
「パスタソースが濃厚すぎて、脳が溶けそうですわぁ!」
『報告。極光のクラーケン、完食。……直人様、クラーケンの吸盤に含まれていた高純度コラーゲンにより、ユカリ様の肌の艶がさらに300%上昇しました。今夜の「やりくり」は、さらに激しいものになると予測されます』
「……ナビゲーター。お前、たまに余計な解析するよな」
直人は赤面するユカリと視線を合わせ、そっと目を逸らした。
新大陸の恵みは、田中家の食卓を(そして夫婦仲を)どこまでも豊かにしていく。




