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番外編:新大陸の月夜に、抗えない情動

新大陸の夜は、王都にいた頃よりもずっと静かで、そして濃密だ。

「ブレッドケース」と化した古代の宝箱がキッチンで静かに輝き、破壊神デス・アビスも庭の片隅で(ふて寝に近い形で)静まり返っている。

直人は、バルコニーで夜風に当たっていたユカリの姿を見つけ、息を呑んだ。

新大陸の巨大な月が二つ、空に並んでいる。

その青白い光を浴びたユカリの横顔は、もはやこの世の造形とは思えないほどに神々しく、そして――ひどく艶やかだった。

「……直人? どうしたの、そんなにじっと見て」

ユカリが振り返る。少しだけ開いた唇、月光に透ける白い肌。

彼女が纏うのは、寝支度のために着替えたばかりの薄手のネグリジェだった。

『警告。直人様のバイタルに異常を確認。脳内物質【エンドルフィン】および【ドーパミン】が理論上の上限値を突破しようとしています。……直人様、これ以上の視覚情報の摂取は、理性の「完全解体」を招きます』

(……分かってる。分かってるんだが……!)

直人の脳裏に、昼間のハツラツとした「教官」としてのユカリや、メイド服で赤面していたユカリの姿がフラッシュバックする。

だが、今目の前にいるのは、ただ一人の「女」としてのユカリだ。

新大陸の未開のエネルギーに当てられたのか、それとも彼女の美しさが更新され続けているせいか。

直人の内側で、いつもは『さばく者』として冷静に制御しているはずの衝動が、どろりと熱く溶け出していく。

「ユカリ……。……ダメだ、今日はもう、我慢できそうにない」

「え……っ」

直人が一歩踏み出し、彼女の腰を引き寄せた。

ユカリの体がビクンと跳ね、熱を帯びた瞳が直人を捉える。

「直人……目が、すごく怖い……。でも、なんだか……熱い」

「……お前が美しすぎるのが悪いんだ。……このまま、ここで『満たして』もいいか?」

「……バカ。……部屋まで、待ってよ」

ユカリの細い指が、直人の胸板を強く掴む。

彼女の体から溢れる女神の香気と、直人の抑えきれない欲情が混ざり合い、夜の空気を甘く、重く変えていく。

直人は彼女を逃がさないように、そして壊さないように、力強く抱き上げた。

新大陸の未知なる夜。

理性をさばききれなくなった主夫と、それを全て受け入れる覚悟を決めた女神の、秘められた時間が始まろうとしていた。

『……システム・ログ停止。これよりプライベート・ドメインに移行。……直人様、明日の朝食は「スタミナ重視」の献立にすることをお勧めします』

ナビゲーターの最後の助言も、熱い抱擁の中に消えていった。

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