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第17話:田中家に弟子入り志願!? 若返り王の家出と、ユカリの熱血(物理)指導

甘すぎる夜が明け、俺がいつも通り朝の「庭のやりくり(聖獣たちのブラッシング)」を終えた頃。

屋敷の正門前に、見覚えのある「超絶イケメンの若者」が土下座していた。

「直人殿! 私を……私を、今日からこの屋敷の『丁稚でっち』として雇っていただきたい!!」

「……陛下? いえ、今は第二王子(仮)でしたっけ。何やってるんですか」

そこにいたのは、俺のジャムで若返りすぎた国王、ゼウス13世だった。

ボロボロの旅装束を纏い、背中には「初心」と書かれた風呂敷を背負っている。

「王の座など、若返った私には退屈すぎる! 私は、あなたの包丁捌きと、あのユカリ殿の厳しくも温かい生活魔法を学び、真の『生きる力』を手に入れたいのだ!」

田中家の新入生

結局、国王(若)の熱意に押し切られ、彼は「ゼウス」という名で見習いとして働くことになった。

だが、世間知らずの元国王に、田中家の家事は甘くない。

「ゼウス君、まずは洗濯よ! 聖獣たちの毛が付いたシーツを、魔法を使わずに手で洗って!」

ユカリが、昨夜の甘い雰囲気とは打って変わった「熱血教官モード」で仁王立ちする。

手にはなぜか、指導用のハリセン(自作・聖属性付与)が握られていた。

「ええい、こうか! 『王者の波動』で汚れを――」

――パコォォォン!!

「魔法に頼らない! 生地を痛めないように、力加減を『やりくり』するの!」

「ひ、ひぎぃっ!? 洗濯板が……洗濯板がこんなに手強い相手だったとは……!」

かつて軍隊を指揮した王も、ユカリの「物理的」な熱血指導の前では形無しだ。

俺はキッチンで、その様子を眺めながら昼食の仕込みをしていた。

直人の「さばき」の授業

「よし、ゼウス。次は包丁の使い方だ。このジャガイモを、すべて同じ厚さの輪切りにしてみろ」

「はっ! 剣聖と呼ばれた私の腕前、お見せしましょう!」

ゼウスが包丁を握り、凄まじい剣気でジャガイモに斬りかかる。だが……。

「……ゼウス。ジャガイモが粉砕されてるぞ。それは料理じゃない、ただの粉だ」

『解析。対象は「破壊」の概念に囚われすぎています。スキル【さばく者】を部分的に共有レクチャーし、素材への慈しみを教え込むことを推奨します』

俺はゼウスの後ろに回り、その手を取った。

「いいか、力を抜くんだ。ナイフを押し込むんじゃない。素材が『自分から分かれたがっているライン』を見極めて、そこを滑らせる。……ほら」

俺が手を添えて引くと、吸い付くようにジャガイモが綺麗な輪切りになっていく。

「こ、これは……。刃が素材と対話しているかのようだ……! 直人殿、あなたはもしや、この世界の理そのものを料理しているのでは……?」

「大げさだって。ただの晩飯の準備だよ」

襲い来る「王奪還部隊」

その時、屋敷の周囲を不穏な気配が囲んだ。

若返った王を連れ戻し、その「若返りの秘術」を独占しようとする強硬派の近衛騎士団だ。

「ゼウス陛下をお返し願おう! 田中直人、王を拉致した罪で捕縛――」

「……うるさいわね。今、ゼウス君は大事な修行中なのよ!」

ユカリが洗濯桶を置いたまま、門の方へ向かった。

その手には、先ほどのハリセン。

「直人、ここは私が『物理』で片付けてくるわ!」

「ああ、頼んだよ。ゼウス、お前は手を止めるな。あと50個だぞ」

外から聞こえる「ギャアァァァ!」「ハリセンでドラゴンスレイヤーが折れたぁ!?」という悲鳴をBGMに、俺たちの「家事指導」は続く。

『報告。ユカリ様の指導により、近衛騎士団が「家事の尊さ」に目覚め、次々と武装を放棄して庭の草むしりに参加しています』

どうやら田中家は、国王すらも丁稚奉仕させる、世界最強の「花嫁・花婿修業の場」へと進化してしまったらしい。


「……ゼウス、見てみろ。君が切ったジャガイモだ。完了だね! こんなにたくさん……よく頑張ったじゃないか」

俺は、ゼウスが必死の形相で切り分けたジャガイモの山を見て、満足げに頷いた。最初は粉砕していたが、最後の方はなかなかの精度だ。

「はぁ、はぁ……。直人殿、これほどまでに集中力を使い果たすとは。剣の修行よりも遥かに過酷な戦いでした……。しかし、このジャガイモたちは、これからどうなるのですか?」

不安そうに尋ねるゼウスに、俺はニヤリと笑って『神のナイフ』を鞘に収めた。

「大丈夫! このジャガイモ、無駄にはしないよ。せっかくだし、自分で料理してみるかい?」

【主夫の伝授:黄金のポテト・ガレット風】

俺はゼウスにフライパンを持たせ、横で細かく指示を出す。

「まず、その皮付きの輪切りを水にさらし、デンプンを落とすんだ。そう、水気をしっかり取るのがコツだぞ。……よし、次にこのオリーブオイル(魔界産・特級)を熱して……」

「こ、これを揚げるのですか?」

「ああ。両面がカリッとするまでじっくりだ。慌てるなよ、火加減を『やりくり』するんだ」

ゼウスは真剣な眼差しでフライパンを見つめる。かつて戦場で敵の隙を伺っていた時のように。

やがて、キッチンに香ばしい、たまらない匂いが立ち込めてきた。

「……今だ、引き上げろ! 油を切りつつ、間髪入れずに塩コショウ。仕上げにこのパセリ(世界樹の麓に生えていた香草)を散らせば……完成だ!」

王の涙と、最高のおやつ

皿の上に盛られたのは、黄金色に輝くカリカリのポテト。

ゼウスはおずおずと、自分が作った料理を口に運んだ。

「……っ!! な、なんだこれは……! 外は驚くほどクリスピーなのに、中はホクホクとして、ジャガイモの生命力が口の中で爆発するようです……! 私が……この私が、これほどまでに素晴らしいものを生み出したというのか!?」

若返った王の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「直人殿……私は今まで、誰かに作らせた豪華な食事ばかりを食べてきた。だが、自分で素材を『さばき』、火を通し、完成させたこの一枚のポテト……。これこそが、真の贅沢というものなのですね!」

『報告。ゼウス君の「料理レベル」が1から15に急上昇しました。スキル【自炊の喜び】を獲得。……直人様、彼はもう二度と、贅沢三昧の生活には戻れないでしょう』

「あ、ずるい! 美味しそうな匂い! 私にも一枚ちょうだい!」

外で騎士団をハリセンで壊滅させてきたユカリが、汗を拭きながら戻ってきた。

ゼウスが作ったポテトをパクリと食べると、パッと顔を輝かせる。

「美味しい! ゼウス君、才能あるじゃない! これなら次の『田中塾』の試験も期待できるわね」

「はっ! 師匠! ありがとうございます!!」

元国王が、今やポテト一枚で少年のように喜んでいる。

田中家の平和(?)は、今日も美味しい料理と、ユカリの熱血指導によって守られていた。

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