第18話:弟子が増えすぎて「田中塾」開講!? 卒業試験は「俺を満足させるチャーハンを作れ」
ゼウスが作ったポテトの香りが王都中に漂ったせいか、あるいは「若返り王が丁稚奉仕している」という噂が広まったせいか。
翌朝、田中家の門前には、王宮の騎士団長から隣国の料理人、さらには「俺も変わりたい」と願う暗殺者までが列をなしていた。
「直人様! 私たちにも『生きるためのさばき』を教えてください!」
あまりの熱意に押され、俺は庭の一角に青空教室を設置することにした。
名付けて**『田中塾:異世界生き残り家事専科』**。
講師は俺と、鬼教官だ。
修行、そして脱落
「いい!? 雑巾がけは下半身の強化よ! 魔法で浮いて掃除するなんて100年早いわ!」
パコォォォン!!
ユカリのハリセンが飛ぶ。
王宮騎士団長が涙目で床を磨き、暗殺者が神速の身のこなしで窓を拭く。
そんな地獄(?)の特訓を経て一週間。ついに残ったのは、ゼウスを含む数名の精鋭(家事好き)だけだった。
「さて、今日が卒業試験だ。お前たちに作ってもらうのは……**『チャーハン』**だ」
「チャーハン……? あの、米と具材を混ぜて炒めるだけの、単純な料理ですか?」
ゼウスが首を傾げる。
「単純だからこそ、誤魔化しが効かない。米の一粒一粒を『さばき』、熱と油で『満たす』。これぞ家事の極意だ。俺を満足させられた奴だけが、この塾を卒業できる」
最終試験開始
演習場(庭)に並んだフライパンが一斉に火を噴く。
ゼウスは、ユカリの熱血指導で鍛えた腕力で重い鉄鍋を振り、俺のナイフ捌きを見て盗んだ技術で具材を刻む。
『解析。ゼウス君のチャーハン、火力が強すぎます。このままでは米が「焦げの概念」に飲み込まれます。……おや、隣の暗殺者は、隠し味に毒消し草を混ぜましたね。家庭的です』
「…………」
俺は黙って彼らの背中を見守った。
やがて、香ばしい醤油とラードの香りが庭を満たす。
「できました! 我が魂の一皿、食していただきたい!」
ゼウスが差し出したのは、黄金色に輝くパラパラのチャーハン。
見た目は完璧だ。俺は一口、スプーンを運んだ。
判定:主夫の心
「…………」
俺は目を閉じ、味を「さばく」。
「ゼウス。お前のチャーハンは……美味い。だが、足りないものがある」
ゼウスの顔がこわばる。「何が……何が足りないのですか、師匠!」
「お前は『美味いものを作って俺を驚かせよう』としたな。だが、家事の本質はそこじゃない。……ユカリ、食べてみてくれ」
ユカリが一口食べる。
「うーん、確かに美味しいけど……なんだか『気合』が入りすぎてて、毎日食べるには疲れちゃうかも」
俺は自分のフライパンを握った。
「見てろ。これが『毎日帰ってきたくなる家』のチャーハンだ」
俺が作ったのは、冷蔵庫の余り物のレタスと卵だけの、何の変哲もないチャーハン。
だが、それを食べたゼウスたちは、その場で崩れ落ちた。
「な、なんだ……この、身体に染み渡るような優しさは……。食べ終わるのが惜しいのに、どんどん次の一口が欲しくなる……!」
「『食べる相手の体調と、明日の元気』をやりくりして作る。それが主夫のチャーハンだ」
『報告。ゼウス君、ついに「無償の愛」のステータスを解放。……卒業おめでとうございます。彼は今、真の王(主夫)になりました』
「師匠……! 私、もう一度一からやり直します! 王位なんて返上して、まずは町内会の炊き出しから始めます!!」
「いや、王位は戻れよ」
こうして「田中塾」第一期生は、晴れやかな顔で(一部はエプロンを誇らしげに纏って)去っていった。
「ふぅ。これでやっと静かになるわね、直人」
「ああ。さて、後片付けでもするか」
だが、二人はまだ気づいていない。
卒業生たちが各地で「田中直人こそが世界の真の主宰者である」という教義を広め始め、世界宗教『家事救済教』が誕生しようとしていることに……。




