第15話:王立アカデミーから特別講師の依頼!? 嫁は魔法、俺は「家庭科」の担当です
聖獣たちが庭でゴロゴロと喉を鳴らし、もはや「神界の楽園」と化した田中家。
そこへ、一人の老人が息を切らして駆け込んできた。王立魔導アカデミーの学長だ。
「直人殿! ユカリ殿! お願いだ、我が校の生徒たちに『真の力』を教えてやってはくれぬか!」
聞けば、最近のエリート学生たちは「強力な魔法さえ使えればいい」という慢心に溢れ、基礎や生活魔法を疎かにしているらしい。
「魔王をカレーで黙らせ、女王をナイフ一本で更生させた夫婦」として、俺たちに白羽の矢が立ったのだ。
アカデミー登校:女神と主夫の対比
数日後、俺たちはアカデミーの演習場にいた。
集まったのは、国中から選りすぐられた生意気盛りの天才児たち。
「えー、あんなヒラヒラしたドレスのお姉さんと、包丁持ったお兄さんが先生?」
「魔法騎士団でもないのに、何を教えるってんだよ」
ヒソヒソと聞こえる陰口。だが、ユカリが一歩前に出た瞬間、その場が凍りついた。
「じゃあ、まずは私からね。――『お掃除』」
ユカリが指先を鳴らす。
次の瞬間、演習場の巨大な石畳の隅々にまで「聖なる光」が駆け抜け、数百年分の汚れが一瞬で消滅。石畳は鏡のように磨き上げられた。
「な……ッ!? 生活魔法のはずの『クリーン』で、結界魔法並みの純度だと!?」
「あのお姉さん、魔力が測定不能だぞ!」
学生たちが腰を抜かす中、ユカリはニコリと笑った。
「基礎ができてないと、大きな魔法なんて制御できないんだからね?」
直人の授業:家庭科(解体と再構築)
次は俺の番だ。俺は調理台の上に、巨大な岩石の魔物の死骸を置いた。
「えー、今日の家庭科の授業は『素材のやりくり』だ。これを、食べやすく、かつ役に立つ形に『さばいて』いくぞ」
学生たちはポカンとしている。「岩を食うのか?」という顔だ。
「……いくぞ」
――ズバババババッ!!
『神のナイフ』が唸る。
ゴーレムの「不純物(泥)」と「魔力核」と「純粋な鉱石」を、コンマ数ミリの精度で切り分けていく。
『スキル【さばく者】発動。対象:硬質鉱石。不必要な抵抗を解体し、原子レベルで整列させます』
俺が手を止めると、そこには三つの山ができていた。
最高級の研磨剤(不純物から精製)
純度100%の魔力結晶(核から抽出)
そして……岩の中に閉じ込められていた「塩の化石」
「これ(塩)をな、先ほどの魔力結晶で軽く炙ると……最高の調味料になるんだ。はい、味見してみろ」
一人の学生が恐る恐る口にする。
「……う、美味い!? なんだこれ、岩の中からこんな甘美な塩気が!?」
『【満たす者】により、学生たちの「好奇心」を吸収。スキル【教育的指導(強制理解)】を習得しました』
「魔法は戦うためだけにあるんじゃない。生活を豊かにし、無駄な争いを減らすための『やりくり』に使うもんだ。……分かったか?」
俺の言葉に、さっきまで生意気だった学生たちが一斉にノートを取り始めた。
「包丁一つで世界を解体する主夫」の凄まじさを、彼らは身を以て理解したらしい。
影の視線
授業が大成功に終わろうとしたその時、校舎の影から冷徹な視線が俺を射抜いた。
「……なるほど。あの男、ただの料理人ではない。万物を構成する『法』そのものを斬り、書き換えているのか」
そこにいたのは、王立アカデミーを影から操る、戦争狂の天才魔導師。
彼は俺の『さばく者』の力を、究極の兵器転用を目論んで狙いを定めていた。
「直人様……。そのナイフ、次にさばくのは『私の欲望』にしてもらいましょうか」
田中家の平穏(と家庭科の授業)を脅かす新たな敵。
だが、その背後でユカリが「……なんか、変な視線が直人に刺さってるわね。焼き払っちゃおうかしら」と呟いているのを、彼はまだ知らない。




