第13話:隣国の女王、若返りを求めて求婚(アタック)!? 修羅場と化す田中家の食卓
王都が「若返った王」の噂でもちきりになって数日。田中家の広大な屋敷に、かつてない豪華な馬車が乗り付けてきた。
現れたのは、隣国・レムリア王国の女王、イザベラ。
自称「永遠の熟女」だが、実年齢は……おっと、誰かが命を落とすので深くは言及しないでおこう。
「あなたが、あの奇跡のジャムを作ったという『聖夫』直人様ね?」
女王イザベラは、ゆったりとしたドレスから芳醇な大人の香りを漂わせ、俺の目の前まで歩み寄った。その後ろには、山のような貢ぎ物(主に高級食材と宝石)が積まれている。
「……はい、そうですけど。何か御用で?」
「単刀直入に言うわ。私の『夫』になりなさい。あなたの技術と、私の権力。これがあれば世界を永遠の美しさで支配できる……。報酬は私のこの『体』と、王国の半分よ?」
女王が俺の胸元に指先を這わせ、妖艶な笑みを浮かべる。
『警告。対象:女王イザベラ。強烈な「権力欲」と「美への執着」により、精神構造が歪んでいます。……直人様、それ以上に背後の「魔圧」が臨界点を超えています』
(……ああ、言われなくても背筋が凍ってるよ)
「……直人? ちょっと、その女から離れてくれるかしら」
いつの間にか背後に立っていたユカリ。
その瞳は笑っているが、足元の芝生が凄まじい魔圧で消滅している。
「あ、あら、あなたが噂の『嫁』さん? 若いだけが取り柄の小娘に、直人様はもったいないわ」
「……なんですって?」
イザベラの挑発的な言葉。それが、ユカリの数少ない地雷――「直人を奪おうとする女」に完璧に触れた。
「――直人はね、私の旦那様なの。あんたみたいなシワをジャムで隠そうとしてるおばさんにあげるわけないでしょ!!」
ドゴォォォォォォン!!
ユカリの怒りに呼応して、逆鱗のドレスが真紅の輝きを放ち、周囲の空間が震えだした。
「失礼ね! これは熟成された魅力よ! 直人様、さあ、早くそのジャムを私に……!」
女王が強引に俺の腕を掴もうとしたその瞬間、俺の『さばく者』のスキルが自動発動した。
『スキル【さばく者】および【満たす者】の連結起動。対象の「傲慢な欲望」を解体し、「謙虚な主婦(?)の心得」として再構築します』
俺は反射的に、神のナイフの「峰」で女王の肩を叩いた。
「悪いけど、女王様。俺のジャムは、大切な人を笑顔にするためのもので、私欲のために使うもんじゃないんだ。……あんたのその歪んだ美意識、きっちり『さばかせて』もらうぞ」
――シュパァァァンッ!
一閃。
俺のナイフが女王の周囲の「淀んだ魔力」だけを切り裂いた。
するとどうだろう。女王の顔から厚化粧のような魔力が剥がれ落ち、代わりに憑き物が落ちたような、穏やかな表情に変わったのだ。
「……あら? 私、何を……? 美しさなんて、内面から滲み出るものでしたわね……」
『【満たす者】成功。女王の「美への執念」を抽出。スキル【肌ツヤ補正:料理限定】を獲得しました』
「直人! そんな女どうでもいいから、早くこっち来て! 消毒よ、消毒!」
ユカリに強引に抱き寄せられ、俺は女王の求婚から物理的に救出された。
女王はそのまま「一から花嫁修業をやり直しますわ」と、憑かれたように自分の国へ帰っていった。
「……ふぅ。ユカリ、落ち着けって。俺にはお前しかいないんだから」
「当たり前よ! ……もう、今日の晩御飯は直人の特製オムライスじゃないと許さないんだからね!」
『補足。ユカリ様の独占欲が上昇。主夫として、今夜はより一層の「やりくり(夜の)」が求められます』
「ナビゲーター、お前は少し黙ってろ!」
隣国の女王さえも戦意喪失(更生)させた田中家の食卓。
だが、この騒動は「直人の料理には人の心さえも書き換える力がある」という、新たな誤解を世界に広めることになってしまった……。




