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第10話:魔王城に異世界シェフ降臨。隠し味は「魔王の涙」?


甘い夜から一夜明け、俺たちは魔王の使いが用意した漆黒の竜車に揺られていた。

行き先は魔界の最深部、魔王城『パンデモニウム』。

「……ねえ直人、本当にカレー教えるだけでいいのよね? 暴れたりしないわよね?」

「ああ。ナビゲーターの解析によれば、あの招待状に敵意はなかった。……たぶん、よっぽど腹が減ってたんだろうな」

城へ到着すると、そこには禍々しい鎧を纏った魔族の軍勢が整列していた。

だが、彼らが掲げていたのは槍や剣ではなく――**『歓迎:伝説の料理人(と嫁)御一行様』**という横断幕だった。

魔王との対面

玉座の間。そこに座っていたのは、恐ろしくも美しい、銀髪の魔王ルシファーだった。

だが、その表情はどこか疲れ果て、目の下にはクマがある。

「よく来た、田中直人。……さっそくだが、作ってくれ。我が魔界には『刺激』が足りぬのだ。何を煮込んでも、ただの泥のような味にしかならぬ……!」

俺は神のナイフを抜き、魔王が用意した山のような魔界スパイスの前に立った。

『解析完了。魔界のスパイスは個々の魔力が強すぎて反発し合っています。スキル【さばく者】により、魔力の衝突アクを切り離し、調和のルートを構築します』

「よし。魔王様、エプロンを貸してくれ。ここからは俺の戦場だ」

異世界シェフ、魔界をさばく

俺は『神のナイフ』を高速で振るい、猛毒を持つ魔界芋や、火を噴く火炎鳥の肉を瞬時に解体していく。

新スキル『満たす者』により、反発し合っていたスパイスの魔力を、俺自身の魔力で強引にまとめ上げ、一つの「旨味」へと変えていく。

「ユカリ、ちょっと火力を手伝ってくれ。中火で、聖属性の魔力を10%だけ混ぜて」

「わかったわ! ……これくらい?」

ユカリが指先から放つ聖なる業火が、鍋を包み込む。

聖と魔の融合。本来なら大爆発を起こすはずの組み合わせを、俺のナイフが『さばいて』、究極のコクへと昇華させていく。

仕上げに俺は、魔王の隣へ歩み寄った。

「魔王様。仕上げに隠し味が足りない。あんたがこれまで、誰にも理解されずに孤独に魔界を統治してきた、その『苦労』を少しだけ分けてくれ」

「な……何を……」

「あんたの流した孤独の涙、一滴でいい。それがこのカレーに、深みを与えるんだ」

魔王の目から、一筋の光る雫がこぼれ落ち、鍋の中に吸い込まれた。

『隠し味【魔王の涙】を吸収。スキル【満たす者】により、全魔族に有効な「ソウルフード」が完成しました』

カレーがもたらす平和

「……っ!? な、なんだこれは……。辛い、だが、温かい……。まるで、失われた母性を思い出すような……!」

魔王はボロボロと涙をこぼしながら、カレーを貪り食った。

その背後では、屈強な魔族の幹部たちが「美味すぎる……」「もう人間と戦うのなんて面倒だ……」と、皿まで舐める勢いで完食している。

「直人、大成功ね!」

「ああ。これでしばらくは、世界征服なんて誰も言い出さないだろうな」

『報告。魔王の胃袋を完全に「解体・制圧」しました。報酬として、魔界全域の特産品を自由に「やりくり」する権利を獲得。……直人様、これで今晩の献立がさらに豪華になりますね』

俺は、満足げに眠り始めた魔王を横目に、ユカリの手を引いて城を後にした。

伝説の料理人として魔界の歴史に名を刻んだ俺だが、本業はあくまで『最強の嫁を支える主夫』だ。

「さあユカリ、帰ろう。明日の朝食は何がいい?」

「直人の作ったものなら、なんだって最高よ!」

俺たちの異世界夫婦無双。

どうやら次は、このカレーの噂を聞きつけた隣国の王様たちが、行列を作って屋敷にやってくることになりそうだ。


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