見ているもの
外から鳥の鳴き声が耳に届く。外から入ってくる空気は澄んでおり清々しいほど晴れている。私はいい日だと視線を窓の外に向ける。
「気持ちがいいですねヴァン?」
「そうだなすべて忘れてしまいそうだ…」
私とはヴァンは紅茶を少し飲み同時にティーカップを皿に置く。食器の甲高い音が部屋に響いていた。
「奥様も旦那様も現実逃避はそろそろおやめになってはいかがですか?」
後ろに控えていたフランがぴしゃりと告げる。その声に少し肩が下がる。
「フラン……なんで現実はこうも残酷なのかしらね」
「それは世の常でございますよ奥様」
身も蓋もなかった。しかし、現実逃避をいつまでもしているのもそろそろ限界だろう。私はテーブルの上に置いてある新聞の大きな記事に目をやる。
やはり公爵家の契約結婚は事実だった!!契約書見つかる!
新聞には大きくそう書かれていた。
「ヴァン…様……どうしてこうなったのですか?」
「すまない!謝るから様付けはやめてくれ!」
頭を下げ床に頭を擦りつけるヴァン様。そんなに様付けに戻されるのは嫌なのでしょうか…
「そもそも契約書なんてもの作りましたか?」
「忘れたのか?」
ヴァンは椅子に座りなおしながらこちらを訝しそうに見てくる。
「えーと、確か何かの書類にサインはした気はしますがあの時は急なことで動揺してましたから上の空でしたので…」
確か、契約結婚を突き付けられた後素早く書類にサインだけしろとやったような気はするのですけど…覚えていない。
「で、ですがなぜそんな重要なものをサファイアは持っていたのでしょう」
「あの契約書の準備をしたのはジュエルだ。契約書を気づかずにとられていても不思議ではないな」
確かに彼ならそんなことは容易だ。その彼の部下が持っていても不思議ではないのだろうが…
「それにしてもわざわざ情報を小出しで前の時は出さず今回改めて出してくるあたりよほど念入りに俺たちの関係を世間に知らしめたいらしいな」
確かにわざわざ小出しにしたのはおそらくいったんは私たちに疑いを払拭させて世間に一度安心をさせるまで考えていたに違いない。そのうえで逃げようのない物的な証拠を出してこれはデマなどではないと世間に広めたかったもだろう。
「ここまでされると一度払拭している分世間は私たちが何を言っても信用することはないでしょう」
「そうだな……」
二人とも今回は隠し通すことはできないと悟っている。故に現実逃避中だったというわけなのです。
「しかし、不思議ですね?」
「どういうことフラン?」
「いえ、お二人の仲が契約結婚という形だからと言って彼女に何の得があるのか私には分からなかったものですから」
「それは公爵家つまり貴族事態にそういう婚姻があるということが世間に知られればより一層貴族に対するイメージが悪くなって市民と貴族または王族の衝突が高まるからじゃないのか?」
「そうなのですが、私には契約結婚と政略結婚違いが分かりません。政略結婚があるなら契約結婚もあってもおかしくはないのではないですか?」
フランは頭を傾けて不思議そうにしていた。
「た、たしかにそうだな……」
フランの言うことはもっともだ。たしかに違いなど些細なものだ。と言うことは市民からの貴族に対するイメージも大して悪化しないはず。
「サファイアは初め私たちに宣戦布告してきました。ですが、それはフェイクだった。つまりそれまで行ったことはフェイクだとばれないための模倣行為。そう考えていましたが……」
「違うのか?」
「いえ、おそらく間違ってはいないと思っています。しかし、この契約結婚の件に関してだけは特殊だと思ったのです」
「それは相手の意図が見えないからか?」
「はい。仮に初めの記事が私たちを誘拐するためだったということにしても納得することができません。あの方法は不確かな方法でしたから」
誘拐するためだけなら新聞を出すだけでも十分効果はあったはず。それなのにわざわざ私たち二人の記事を出した。いや、元を辿ればさらにおかしい。新聞を発行普及させる。そして私たちの記事を出す。そのどちらも私たちを屋敷の外に出し誘拐するには不確かだ。
もし王子が私に新聞の出所の調査を依頼しなかったら?もし、街にデートをしに行かなければ?
そう考えるとあの記事には何か別の意図があった。そう考えるのが妥当だろう。
「どうもこの記事には何かしら意味があるのかもしれません」
「そう考えるのが妥当なんだろうが、俺たちは下手に動かないほうが得策になる。とも限らない。そうだろリア?」
「はい」
もし、何か見落としがあって行動が遅れれば私たちはその時点でもう間に合わない可能性がある。今のところ彼女の真の目的は不明のままだ。その状況の中で後手にだけ回っていればどうにかなると考えるのは危ない。
「とりあえず餌を撒いてみましょうか」
私はそう言って椅子から立ち上がり告げる。
「またデートでもするのか?危険かもしれないぞ?」
「その時は守ってくれるのですよね?」
少し上目遣いを意識してヴァンに言ってみる。すると眉がピクリと動き勢い良く椅子から立ち上がり私の肩を抱きながら言う。
「ふふ、そうだな」
よし。これで問題はない。
「で、実際のところ引っ掛かる可能性はあるのか?」
「正直、分かりません。ですが、二度もあまり意味のない私たちの個人的な記事を出すほど彼女は少なからず私たちに興味があるみたいですから可能性はあります」
二度の記事。それは意図は読めないが少なくても一番記事が出て反応があるのは私たち。まるでこちらの反応を答えを待っているようにも感じる。
もしかしたら、彼女は彼と同じく私たちに何かを見ているのかもしれない。
(なのにあなたは彼女に何も言ってあげないのですね……)
彼女が真に見ているのは……彼だけなのに。
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