↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『無能』と追放され奴隷に落とされた最強召喚師 ~前世の心理術で伯爵令嬢を手なずけ、裏から世界を支配する~  作者: ラレイラ
第二章:因果逆流の神威――侵食される過去と、裏の支配者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/51

第47話 朱の狂宴と、狂いゆく救済

――『甘美なる閉鎖夢(エンクロージャー)』の霧が、戦場を完全に支配した。


逃げ場を失い、精神を麻痺させられた数千人の盗賊たちは、いまや獲物として固定されただけの「肉塊」に過ぎない。


「……始めろ」


ヴェルスの冷徹な一言が、処刑の合図となった。


その言葉に応え、ナアマが薄桃色の唇を吊り上げ、残酷な愉悦を込めて囁く。


「ふふ……。絶望の旋律を奏でましょう」


『――‡‡ΨΨ……†‡Ψ……Ψ‡†‡ΨΨ‡†――』


それは聴く者の理性を容易く粉砕するほど重厚で、かつ抗い難い妖艶さを孕(はら)んだ禁忌の調べ――。常人が触れれば一瞬で精神の均衡を奪われ、狂気の中にひれ伏す他ない、四柱の夢魔(サキュバス)の女王が――その一柱、ナアマの原初より紡がれる異界の音律であった。


『――肢体砕きの深紫茨《ディスメンバー・バイオレット》』


同時に、虚空から妖しく波打つ深紫色の茨が、飢えた蛇のように音もなく飛び出した。 狙いは急所ではない。茨は、正確に、そして残酷に男たちの四肢を絡め取り、行動の自由を奪い去る。


ズチュッ! メキメキッ!!


「ぎ、ぎゃああああああッ!!!」


耳をつんざく絶叫が、夜の闇を切り裂いた。容赦なく締め上げられる四肢に、男たちの顔面は苦痛と絶望に歪む。地面は瞬く間に噴き出した鮮血で深く染まり、戦場を支配したのは、男たちの咽び泣きと生温い血の腥臭(せいしゅう)だった。


――わずかな時間のうちに、数千人の男たちは手足の自由を奪われ、冷たい地面の上に転がる「無力な存在」へと成り果てていった。


逃げることも、抗うこともできず、ただ激痛に身を悶えさせる男たち。その絶望に満ちた顔を、ヴェルスは冷ややかに見下ろした。


「――さあ、待たせたな」


ヴェルスは、悪夢のような拘束から解放され、打ち震える女性たちへと視線を向け、甘く、残酷な微笑を浮かべる。


「長く、暗い夜だったが、もう怯える必要はない。……君たちの尊厳を踏みにじったそのゴミどもに、お前たちの手で存分に報いを。骨の髄まで、美しく壊すがいい」


その言葉は、彼女たちの内なる復讐心の導火線に火をつけた。最初の一歩を踏み出したのは、かつて騎士としての誇りを無残に踏みにじられ、最も激しく蹂躙された女性騎士であった。彼女は足元に転がる、自分を陵辱した男の顔面に、傍らに落ちていた剣の柄(つか)を、容赦なく叩きつけた。


グシャッ!!


鈍い衝撃音とともに男が呻いた瞬間、彼女は迷いなく剣を突き立てた。 鋭い刃が男の視界を奪い、昏い絶望へと叩き落とす。 「ひ、ぎ……っ」 男の口から血が溢れ出したとき、澱んでいた彼女の瞳に、狂おしくも鮮烈な光が宿った。


それは、恐怖に震えていた被害者の目ではない。 冷たい刃越しに、かつての加害者をいたぶることを悦びとする、純粋な「捕食者」の眼差しであった。


「あ……ああ……っ!」


その光景を見た他の女性たちが、呼応するように狂い始めた。 彼女たちは、転がっている盗賊たちが持っていた剣を次々と拾い上げた。 直接触れることなど、死んでも御免だ。だが、冷たく鋭い刃を介して相手を屈服させる感触は、何よりも甘美な快楽となって她的な脳を焼いた。


「死ね! 死ねッ!!」

「もっと、もっと叫べよ!!」


絶叫と嘲笑が、血の湖(ちのうみ)の中で混ざり合う。 容赦なく振るわれる刃が、男たちの誇りと肉体を徹底的に踏みにじっていく。 かつて高潔だった淑女たちは、いまや血に染まった狂戦士へと変貌していた。


そして、この狂乱の絶頂に、一人の年若い侍女が静かに歩み出た。 彼女の目の前には、自分を、その若く柔らかな身体を徹底的に蹂躙し、汚した男たちが、茨に肢体を縛られ、無様に喘いでいた。


彼女の目の前には、自分を、その幼く柔らかな身体(からだ)を徹底的に汚した男たちが、茨に縛られ、無様に喘いでいた。


(……殺す。一人残らず、絶望の中で、じっくりと壊してあげる……っ!)


彼女の瞳から、涙は完全に消えていた。代わりに宿ったのは、底知れないほどに冷たく、深い憎悪。 彼女はまず、自分を最も激しく汚した主犯格の男の前に膝をついた。 そして、冷徹な微笑を浮かべながら、手にした刃を容赦なく振るい、男からあらゆる抵抗の手段を奪っていく。


「ぎゃああああああッ!!!」


絶叫が響き渡る。だが、彼女は止まらなかった。慈悲のかけらもなく、男の尊厳と肉体をずたずたに引き裂いていく。


「あは……っ、あははははっ!!」


快楽に酔いしれた彼女は、次々と獲物を変えていく。自分を抑えつけていた男たちの前に立ち、その精神と肉体を極限まで追い詰めていく。その残酷なまでの手際こそが、彼女にとって最高のカタルシスであった。


一人、また一人と。 彼女を汚した男たちが、その数だけ、絶望の叫びとともに無残な姿へと変えられていく。 最後の一人の前に立ち、彼女は耳元で、甘く、呪いのような声を囁いた。


「さようなら。地獄へ行って、私の分まで、永遠に悔みなさい」


ジュブッ!!


迷いなく振り下ろされた刃が、男の命の灯火を断ち切る。 だが、彼女は飛び散った返り血を拭おうともせず、恍惚とした表情で、死にゆく男の絶望を見つめていた。


自分を壊した男たちを、自分の手で、より残酷に壊し尽くす。 その瞬間、彼女の中で何かが決定的に壊れ、同時に、言いようのない万能感が胸を満たした。 純真だった少女は消え、血に染まった残酷な捕食者が、そこに誕生していた。


やがて、戦場には異様な空気が流れ始めた。 激しい殺戮に没頭していた女性たちの間で、ふっと、お茶会でもしているかのような、穏やかで上品な雑談が交わされ始めたのである。


「あら、思ったよりも脆いのね。……こうして、刃を突き立てるのかしら」

「ふふ、そんなところじゃダメよ。もっと深く、絶望を叩き込まなくちゃ」

「ねえ、この剣……どうやって使うのかしら」

「こうするのよ。ほら、こうして容赦なく、すべてを奪うの」

「ふふ、怖いわね……でも、なんだか、すごく気持ちいいわ」


絶叫と、淑女たちの可憐な囁き。 血の湖(ちのうみ)の中で、その不協和音が不気味に混ざり合う。 かつて高潔だった彼女たちは、血に染まったドレスのまま、優雅な処刑人のような狂笑を響かせていた。壊れてしまった彼女たちが、嬉々として獲物を解体していく、最悪の宴。


「助けてくれ……! 頼む、俺は命令に従っていただけだ!!」


逃げ場のない結界の中で、震えながら命乞いをする幹部たち。 だが、血に酔いしれた女性たちに、もう慈悲などという言葉は通用しなかった。


「ふふ……っ。いい声で鳴くわね。でも、まだ足りないわ」


一人の女性が、幹部の腕を固定し、冷酷に刃を振り下ろしていく。 響き渡る悲鳴のたび、女の顔には恍惚とした笑みが浮かぶ。 彼女たちは、もはや救われた被害者ではなかった。 冷たい刃を通じて得た「暴力という名の万能感」に酔いしれ、絶頂に達した殺人鬼へと昇華していたのだ。


(……ふむ。予想外だが……素晴らしい)


ヴェルスは、目の前で繰り広げられる、想像を絶する虐殺の宴を眺め、静かに口角を上げた。 被害者がこれほどまでに強烈な破壊衝動を抱えていたとは。だが、それはむしろ好都合であった。


正気を失い、血に染まり、ただヴェルスとナアマだけがこの狂気を与えてくれたという事実にのみ依存する。 完全に壊れた魂こそ、最も扱いやすく、最も忠実な配下となる。


(……見事な変貌だな)


そしてヴェルスは、血の湖(ちのうみ)の中で、恍惚とした表情で復讐を遂げているシェリル・アクアローザを見た。 彼女の青林檎色(アップルグリーン)の瞳は、もはや絶望に染まっていたあの頃の少女ではない。 白青《ベビーブルー》の髪を血に染め、殺戮の快感に目覚めた彼女は、まさに美しき捕食者そのものであった。


戦場に、静寂が訪れる。 数千人の男たちは、文字通り一人残らず断罪され、地面には血の湖が広がっていた。


血塗られた身体のまま、女性たちが一斉にヴェルスたちの方を向き、跪いた。 彼女たちの瞳には、救い主への感謝ではなく、自分たちをこの絶頂(ぜっちょう)へと導いた主への、狂信的なまでの渇望が宿っている。


「あなた様こそが、私のすべて……」

「どうか、私を……あなたの道具として使い潰してください……っ」


血の臭いと、ナアマが纏う甘い香りが混ざり合う中、彼女たちは競い合うようにヴェルスとナアマの足元へすがりつき、その足に口づけを捧げた。


足元でひれ伏す者たちの姿を、ヴェルスは隣に寄り添うナアマと共に静かに見下ろしていた。ナアマは、満足げに目を細め、ヴェルスの肩にそっとしなやかな指を添えて、耳元で甘く囁く。


(……見てください、ヴェルス様。絶望が快楽に塗り替えられ、魂が完全に壊れた美しい姿を。これこそが、至高の芸術ですね)


「あぁ、まったくその通りだ。……これほどまでに美しく、気高い狂気が他にあるか」


救済という名の残酷な儀式。 絶望を快楽で塗り潰した少女たちは、いまや、逃れられない忠誠という名の鎖に、自ら進んで繋がれたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。