↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『無能』と追放され奴隷に落とされた最強召喚師 ~前世の心理術で伯爵令嬢を手なずけ、裏から世界を支配する~  作者: ラレイラ
第一章:甘い毒は、暗闇に蠢く――お人形執事の覚醒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/52

第10話 密やかな夜と、開かれた扉

冷ややかな家族との晩餐が終わり、夜の静寂が伯爵邸を包み込む頃。


部屋には、シルクのナイトウェアを纏ったエレノアと、執事服の上着を脱ぎ、薄手のシャツを身にまとったヴェルスだけ。

エレノアの寝室の鍵が、内側から静かに下ろされた。


「……ヴェルス」


エレノアが小さく名前を呼ぶ。

お人形ではなく、初めて口にした少年の名。

昼間、両親や兄姉から存在を無視され続けた彼女の瞳は、いまや激しい孤独と、目の前にいる少年への異様なまでの執着で揺れていた。


「はい、エレノア様」


ヴェルスが静かに一歩を踏み出すと、エレノアは耐えかねたようにその胸元へ飛び込み、細い腕でヴェルスの首に強く抱きついた。


「私を見て……! お父様も、お母様も、ジュリアス兄様もクラリス姉様も、誰も私を見てくれない! 私を泥臭い無能だってバカにするの! ……私を見てくれるのは、あなただけなのよ……!」


「ええ、分かっています。僕はいつでも、あなた様だけを見ています」


ヴェルスの耳元への囁き。

その甘い声に、エレノアの胸の奥が熱く痺れる。

彼女はヴェルスの顔を両手で挟み込むと、縋り付くようにしてその唇を重ねた。


――昨夜までの、戯れのような軽い口づけではない。


「ん……っ」


エレノアは抑えきれない欲求のままに、ヴェルスの息を奪うような激しい口づけで、彼を強く求め合ってきた。

熱い体温、触れ合う唇から伝わる振動、そして少女の必死なまでの依存の感情が、ダイレクトにヴェルスの全身を駆け巡る。


――その、瞬間だった。


(……ッ!?)


ヴェルスの脳裏で、何かが激しく弾けた。


過酷な奴隷道中や、お人形としての屈辱的な日常の中で、かすかに蠢いていた「謎の感覚」。

それらが、この強烈な感情と身体の刺激をトリガーとして、一気の濁流となって溢れ出したのだ。


――輝く街のネオン。

――グラスに注がれる琥珀色の液体と、甘い香水の香り。

――どんな高慢な女性であっても、たった一言の揺さぶりと仕草で底なしの依存へ叩き落としてきた、夜の世界での日々。


(……そうか。僕は……)


頭痛とともに、バラバラだったパズルのピースが完璧に噛み合っていく。

ただの無垢な少年だったヴェルスの意識に、前世のNo.1ホストとしての記憶と、人間を支配するための「傾城術(けいせいじゅつ)・心理術」のノウハウが、映像と知識として定着した。……なぜ自分が死んだのか、その記憶の欠落を置き去りにしたまま。


「……ふぁ……っ」


やがて息が続かなくなり、エレノアが名残惜しそうに唇を離す。

彼女の顔は熟した果実のように赤く染まり、その瞳はすっかり自分だけの「お人形」を得た喜びに潤っていた。


「……ふふ。これであなたは、絶対に私から逃げられないわ……」


満足そうに息を吐き、ヴェルスの胸に顔を埋めるエレノア。


だが――その肩を抱きかかえるヴェルスの瞳からは、少年の幼さは消え去っていた。


深く、冷たく、そしてどこまでも妖しく冴え渡る光。


(まさか、こんな我儘な小娘の歪んだ執着が、俺の扉を開けることになるとはな……)


ヴェルスは前世で培った「人の心を狂わせる笑顔」を口元に浮かべた。

これまでは無意識の直感でエレノアの隙間を突いていたが、これからは違う。計算し尽くされた心理術によって、彼女の心を完全に掌上で転がすことができる。


「ええ……逃げたりしませんよ、僕の――俺の愛しいお嬢様」


ヴェルスはエレノアの黄金色の髪にそっと指を滑らせ、彼女の耳元で甘く、毒のように低く囁いた。


主従の逆転が、いよいよ本物となる瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。