第8話 異世界のみんなにハロウィンを教えよう
「ハロ……ウィン?」
パンプが舌をかみそうになりながら言った。
「変な名前!」
「確かに、この世界では聞いたことがありませんね。」
ルミナも首をかしげる。
今日は授業が終わるとすぐにゴーストタウンへやって来ていた。
本人は「様子を見に来ただけ」と言っているが、パンプたちはすっかり仲間だと思っている。
「それで社長。」
アルが腕を組む。
「そのハロウィンとは何だ?」
「一言で言うと――」
ヨイは大きく息を吸い込んだ。
「世界中が笑顔になるお祭りだ!」
「おおー!」
パンプだけが勢いよく拍手した。
ルミナは苦笑する。
「説明になってないわ。」
「そうか?」
「全然。」
「じゃあ詳しく説明しよう。」
ヨイは地面に木の枝で大きな丸を描き始めた。
「まず、ハロウィンは秋のお祭りなんだ。」
「秋?」
「収穫祭でもある。」
「収穫祭なら、この国にもあります。」
ルミナがうなずく。
「でも、ハロウィンはちょっと違う。」
「どう違うの?」
ココが首をかしげた。
「仮装する。」
「かそう?」
「好きな格好になること。」
パンプがカボチャ頭をぽんぽん叩く。
「ぼくは?」
「そのままで優勝。」
「やった!」
パンプは飛び跳ねた。
「ココもゾンビだからそのままでいい。」
「えへへ。」
「アルさんも。」
「そのまま吸血鬼役。」
「役ではない。」
アルはため息をつく。
「でも社長。」
パンプが不思議そうに聞いた。
「なんで変な格好するの?」
「悪いお化けを仲間だと思わせるため。」
「え?」
「だから仮装するんだ。」
「なるほど……。」
ルミナは感心したようにうなずく。
「面白い発想ね。」
「だろ?」
ヨイはさらに地面へ絵を描いていく。
大きなカボチャ。
丸い目。
三角の鼻。
大きく笑う口。
「これは?」
ココが目を輝かせた。
「かわいい!」
「ジャック・オー・ランタン。」
「じゃっく?」
「カボチャのおばけ。」
パンプは興味津々で絵をのぞき込む。
「これ作りたい!」
「作ろう!」
「いっぱい!」
「街中に並べよう!」
「うわぁ!」
パンプの想像はもう止まらない。
「お屋敷にも!」
「入口にも!」
「屋根にも!」
「屋根は危ないかな。」
「そっか!」
ルミナは思わず笑ってしまった。
「楽しそうかも。」
「だろ?」
ヨイはうなずく。
「昼は収穫祭。」
「夜はランタン。」
「仮装大会。」
「お菓子。」
「パレード。」
「お化け屋敷。」
「全部まとめてハロウィン。」
アルが静かにつぶやく。
「聞いているだけで祭りだな。」
「そう!」
「しかも主役は君たち。」
その言葉に、ゴーストたちは一斉に顔を上げた。
「ぼくたち?」
「そう。」
ヨイはパンプたちを見回す。
「パンプは案内係。」
「うん!」
「ココは看板娘。」
「わ、私?」
「アルさんは夜のパレード隊長。」
「……隊長か。」
「ゴーストのみんなは、お化け屋敷のスター。」
白いゴーストが嬉しそうに浮かび上がる。
「スター!」
「人間は怖がる。」
「でも最後には笑って帰る。」
「それが最高のお祭りなんだ。」
静かな風が吹き抜ける。
ゴーストタウンに差し込む夕日が、少しだけ街を明るく照らした。
ルミナはその景色を見つめながら、小さくつぶやく。
「本当に……できるのかしら。」
「できる。」
ヨイは迷わず答えた。
「でも、人が来なければ始まらない。」
「確かに。」
ルミナもうなずく。
「ゴーストタウンには誰も近づかないもの。」
「だから最初のお客さんは学園のみんなだ。」
「え?」
「学園祭みたいに宣伝する。」
「体験会を開く。」
「口コミを広げる。」
「少しずつ人を増やす。」
ヨイは一本一本指を折りながら説明する。
「イベントは最初から大成功しない。」
「少しずつ育てるものなんだ。」
その言葉にルミナは目を見開いた。
ただ勢いだけで突っ走る人だと思っていた。
でも違う。
ちゃんと順番を考えている。
「えっ、すごい。」
思わず本音が漏れた。
「え?」
「い、今のは独り言!」
慌てて顔をそむけるルミナ。
ヨイは首をかしげるだけだった。
そんな二人を見て、パンプはココの耳元でこっそりささやく。
「社長。」
「うん?」
「ルミナ、お顔赤い。」
「風邪かな?」
「違うと思います。」
ココはくすっと笑った。
その頃、街の外れの森では、一人の黒いローブの男がゴーストタウンをじっと見つめていた。
「うん。面白い。」
男は不気味に笑う。
「呪われた街を祭りの街に変える、か。」
フードの奥で赤い瞳が細く光る。
「少し、様子を見るとしよう。」
誰にも気づかれないまま、その男は森の闇へと姿を消した。
ゴーストタウンに、新たな波乱の足音が近づいていた。




