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異世界転生したら学園となりのゴーストタウンでした~怖がらない俺がハロウィンの街を作ったら世界一の観光地になりました~  作者: eccen.
第1章 出会いと開拓

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第6話 お化けたちとのティータイム

「それじゃあ、お茶にしよう!」

ヨイがパチンと手を叩くと、それまでおずおずとしていたゴーストたちが一斉に動き出した。


「ココ、お茶淹れて! パンプはお菓子。アルさんは……」

「分かっている」

白髪の男――アルが静かに息を吐き、上着の袖をまくる。

その流れるような連携に、ルミナは呆気に取られて立ち尽くすしかなかった。さっきまでお互い怯え合っていたはずなのに、今の彼らはまるで、何年も同じ屋根の下で暮らしてきた家族のようだ。


荒れた庭に置かれた古い丸テーブルに、いつの間にか白いクロスが広げられる。

ココが湯気の立つティーポットを慎重に運び、パンプが大きな籠に山盛りの焼き菓子を抱えてやってきた。


「できたー!」

「ありがとう。助かるよ」

ヨイが受け取った籠からは、香ばしいバターの匂いが漂っている。

ルミナは鼻をくすぐる甘い香りに、思わず尋ねた。


「そのお菓子……どうしたの? こんな場所で」

「街の倉庫に眠ってた小麦粉と砂糖。アルさんが魔法みたいに美味しく仕上げてくれたんだ」


「料理人だったからな」

アルは少し決まり悪そうに視線を逸らし、コップを並べる。

「この屋敷がまだ、屋敷として機能していた頃の話だ」

ルミナは彼を凝視した。


「あなた……本当に吸血鬼なの?」

「半分だけだ。血よりも、丁寧に淹れた紅茶の方がよほど口に合う」

「あと、トマトジュースもね!」

パンプが横から身を乗り出す。


「……それは言わなくていい」

冷徹そうに見えたアルが、目に見えて狼狽えてみせる。そのギャップに、ルミナの口元からつい小さな笑いがこぼれた。

吸血鬼が紅茶とトマトジュースにこだわっているなんて、魔法学園の古い教科書には一行も載っていなかった。


「あ、あの……どうぞ」

ココが両手で震えながら、ルミナにカップを差し出す。

「ありがとう」

受け取ろうと手を伸ばした、その時。

ココの足元がもつれ、体が前のめりに傾いた。


「あっ!」

手から離れたティーカップが、宙に放り出される。

反射的に、ルミナの口から呪文がこぼれていた。

「《ウィンド・キャッチ》」


柔らかなつむじ風がカップを包み込み、軌道を受け止める。カップは空中で一度だけふわりと回り、一滴もこぼさずにテーブルの上へ着地した。

「わあ、すごいです!」

「魔法だ! かっこいい!」

パンプとココが目を輝かせて拍手を送る。当のココは、すぐに耳まで赤くしてうつむいた。


「ご、ごめんなさい……また失敗しちゃって」

「いいのよ。割れなくてよかった」

ルミナはしゃがみ込み、ココと視線を合わせる。

「怪我はない?」

「……怒らない、んですか?」

「どうして? 誰にでも失敗はあるわ」


ココは驚いたように、それから泣きそうなのを堪えるように小さな肩をすくめた。その様子に、ルミナは胸の奥が少しだけ、きゅっと締め付けられる。この小さなゴーストが、これまでどんな目で見られてきたのかが、言葉にせずとも伝わってきた。


「いただきます!」

パンプが我慢できないといった様子でクッキーを口に放り込む。

それにつられるように、半透明の白いゴーストも手を伸ばしたが、指先がすり抜けてクッキーは落ちてしまった。


「あ……」

「またやってる。魔力を指先に集中させるんだよ」

ヨイが苦笑しながら教えると、白いゴーストはうんと頷いて目を閉じる。

しばらくすると、その手に淡い光が宿り、今度はしっかりとクッキーを掴み上げた。


「できた!」

パチパチと、小さな拍手が庭に広がる。ただそれだけのことなのに、乾いた空気が少しずつ、温かいものに変わっていくのが分かった。


ルミナは紅茶を口に運ぶ。

品のある渋みと、ほのかな甘み。

「……美味しい」

「口に合ってよかった」


アルの口元が、わずかに和らぐ。

「こんなに美味しい紅茶、久しぶりに飲んだわ」

「茶葉だけは、当時の上質なものが手に入っていたからな。ただ、ずっと使う機会がなかった」


「みんな、自分たちだけで楽しむのが申し訳なかったんだって」

ヨイがカップを傾けながら、少し寂しげに笑う。

「どうして?」

「誰も来なかったから」

パンプがクッキーをかじる手を止め、ぽつりと言った。


「ぼくたち、お化けだから。人間が来ても、みんな叫んで逃げちゃうんだ」

「だから」

ヨイは全員を見渡し、力強く微笑んだ。

「これからは、その『当たり前』を変えるんだ。学園の生徒も、町の人も、いつかは王都の人たちだって。ここを『お化け屋敷』じゃなくて、『また遊びに行きたい場所』にする」


無茶苦茶な夢だ。

常識的に考えれば、ただの子供の絵空事。

けれど、ヨイの迷いのない瞳を見ていると、ルミナの胸にも不思議な熱が宿っていく。この少年なら、本当に世界を変えてしまうかもしれない。


「ねえ」

袖を小さく引かれ、ルミナは我に返った。パンプが不安そうに彼女を見上げている。

「お姉ちゃん、また来る?」

「え……私?」

「うん。もっとお話したい」

「また、お茶……淹れさせてください」


ココもエプロンの端を握りしめながら、じっとルミナを見つめていた。

そんな顔をされて、断れるはずがない。

「ええ、もちろん」


ルミナは柔らかく微笑み、二人の頭をそっと撫でた。

「また来るわ。今度はお土産を持ってね」

「やったー!」

パンプがその場で飛び跳ね、ココが嬉しそうに顔を綻ばせる。

その様子を少し離れた場所から見守りながら、ヨイは胸の内で小さく息を吐いた。

(よし。まずは第一歩、大成功だ)


しかし、ヨイの安堵が続くことはなかった。

その日の夕暮れ。

赤く染まった空を切り裂くように、一羽の黒い伝書コウモリが屋敷の窓枠に舞い降りる。

その細い足に結びつけられていたのは、王都の紋章が刻印された、重々しい封書だった。

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