第4話 まずは街をきれいにしよう!
「さて。」
俺は屋敷の前でパンッと手を叩いた。
「今日から本格的に街づくりを始める!」
「おおー!」
パンプが元気いっぱいに拳を突き上げる。
ココもアルも、屋敷から集まってきたゴーストたちも期待に満ちた表情だ。
「まず最初にやることは……。」
俺は人差し指を立てた。
「掃除!」
「…………え?」
一同の動きが止まった。
「掃除?」
「そう。」
「お化け屋敷なのに?」
パンプが不思議そうに聞く。
「汚れているのと、雰囲気があるのは違うんだ。」
「違うの?」
「全然違う。」
俺は近くの窓を指差した。
ガラスは泥だらけで、中が見えない。
「例えば、この窓。」
パンプが首をかしげる。
「汚い。」
「そう。」
「でも、きれいに磨けば?」
ココが答える。
「ぴかぴか?」
「そう。」
「それじゃ怖くなくなる……。」
「いや。」
俺はニヤリと笑った。
「夜になったらどうなる?」
アルが窓を見つめる。
「あ……。」
「外のランタンの灯りが映る。」
「その向こうにゴーストが立っていたら?」
パンプが目を丸くした。
「こわい!」
「だろ?」
「なるほど!」
アルも静かにうなずいた。
「演出のための掃除か。」
「その通り!」
俺は嬉しくなって親指を立てる。
「きれいだからこそ映える。」
「なるほど……。」
ゴーストたちは感心したように頷いた。
「よし!」
俺は腕まくりをする。
「みんな、仕事開始!」
「はい!」
返事が返ってきた。
すると、ゴーストたちは思い思いに動き始める。
……が。
パンプはホウキを逆さまに持っている。
ココは雑巾を頭に乗せている。
白いゴーストは雑巾を持とうとして、手がすり抜けてしまった。
「あ。」
「持てない……。」
「……。」
俺は苦笑する。
「そうだった。」
幽霊だから物が持てない。
「どうしよう……。」
困っていると、アルが口を開いた。
「社長。」
「ん?」
「彼らは魔力を少しだけ物に流せば触れられる。」
「え?」
「普段は面倒だからやらないだけだ。」
ゴーストたちは顔を見合わせる。
「できるの?」
「やったことない……。」
「じゃあ練習だ!」
俺は笑う。
「イベントスタッフなんだから、新しいことにも挑戦!」
白いゴーストは恐る恐る雑巾へ手を伸ばした。
ふわっ。
指先が淡く光る。
すると。
「持てた!」
雑巾が宙に浮いた。
「すごい!」
「社長!」
「持てる!」
他のゴーストたちも次々と挑戦し始める。
ホウキを持つ者。
バケツを運ぶ者。
窓を拭く者。
街のあちこちで歓声が上がった。
「仕事って楽しい!」
「みんなでやると楽しい!」
「もっと掃除したい!」
俺は思わず笑ってしまう。
「なんて前向きなスタッフだ。」
その頃、屋敷の外れではココが一生懸命草を抜いていた。
「うーん……。」
力いっぱい引っ張る。
「えいっ!」
スポン!
勢い余って後ろへ転がった。
「きゃあ!」
その拍子に頭がまた飛んでいく。
ころころころ……
パンプが大笑いする。
「ココ、また取れた!」
「わ、笑わないでぇ!」
ココは真っ赤になって頭を拾いに走る。
アルは思わず口元を押さえた。
「……ふっ。」
「アルさん!」
俺は見逃さなかった。
「今、笑いましたね?」
「笑っていない。」
「笑いました。」
「……少しだけだ。」
それだけで十分だった。
最初は無表情だったアルの表情が、少しずつ柔らかくなってきている。
仲間になり始めている証拠だ。
昼過ぎには、街の入口が見違えるほどきれいになっていた。
石畳から雑草がなくなり、割れた看板も立て直された。
屋敷の窓は光を反射し、黒い壁にはどこか品のある雰囲気が戻っている。
「すごい……。」
パンプが街を見渡した。
「ぼくたちの街じゃないみたい。」
「いや。」
俺は首を横に振る。
「もっと良くなる。」
「もっと?」
「入口ができた。」
「うん。」
「次は花を植える。」
「花?」
ゴーストたちが驚く。
「お化け屋敷に花?」
「もちろん。」
俺は満面の笑みで答えた。
「オレンジ色の花、紫色の花、黒い葉っぱの植物。」
「全部ハロウィンカラーだ。」
パンプの目が輝く。
「きれい!」
「昼は可愛く。」
「夜は幻想的に。」
「それが俺の目指す街だ。」
ゴーストたちは、その光景を想像したのだろう。
みんな目を輝かせていた。
誰も愛してくれなかった街。
誰も来なかった街。
そんなゴーストタウンに、少しずつ笑顔と希望が増えていく。
そしてその様子を、街の入口から一人の少女が静かに見つめていたことに、この時の俺たちはまだ気付いていなかった――。




