第3話 廃墟のお屋敷は最高のお化け屋敷でした
「社長!」
パンプがぴょんぴょん跳ねながら俺の服を引っ張った。
「見せたいものある!」
「おっ、案内してくれるのか?」
「うん!」
パンプを先頭に、ゴーストたちと一緒に街の奥へ歩いていく。
石畳はところどころ崩れ、雑草が伸び放題だ。
街灯は折れ、家々の窓ガラスは割れている。
それでも俺はワクワクが止まらない。
「雰囲気が最高だな……。」
「社長?」
「この朽ちた感じ、作ろうと思っても作れないぞ。」
「そうなの?」
「芸術だよ。」
ゴーストたちは顔を見合わせる。
今まで「気味が悪い」としか言われてこなかった街を褒められて、みんな照れくさそうに笑っていた。
しばらく歩くと、巨大な屋敷が見えてきた。
黒いレンガ造りの三階建て。
壁一面をツタが覆い、大きな門は半分壊れている。
風が吹くたびに、
ギィ……
と不気味な音が鳴った。
「ここ!」
パンプが得意げに胸を張る。
「ぼくたちのおうち!」
「えっ?」
俺は思わず屋敷を見上げた。
「この屋敷に住んでるのか?」
「うん!」
「みんなで!」
「最高じゃないか!」
思わず叫んでしまった。
パンプたちはきょとんとしている。
「え?」
「こんな立派なお屋敷があるなんて!」
俺は勢いよく門を押し開けた。
ギギギギ……
重い音を立てて開いた扉の向こうには、広いホールが広がっていた。
赤い絨毯。
大きな階段。
天井からぶら下がる古いシャンデリア。
壁には肖像画が並び、あちこちにクモの巣が張っている。
「うわぁ……!」
思わず感嘆の声が漏れる。
「本物だ……。」
文化祭では何度も廃屋風のお化け屋敷を作った。
だが、ここは違う。
年月を重ねた本物の空気がある。
木の軋む音。
少しひんやりした空気。
差し込む夕日。
全部が演出ではなく、本物だった。
「社長?」
パンプが心配そうに見上げる。
「泣いてる?」
「いや……。」
俺は笑った。
「感動してる。」
「感動?」
「こんな場所が俺のものになるなんて。」
前世だったら、この屋敷を借りるだけでも莫大な費用がかかっただろう。
それが今は、自由に使える。
夢みたいだ。
「よし!」
俺は拳を握る。
「ここをメイン会場にしよう!」
「めいん?」
「お化け屋敷!」
「おおー!」
パンプが歓声を上げる。
「まずは入口。」
俺はホールを歩きながら指を差した。
「あそこに受付。」
「うん。」
「ここで並んでもらう。」
「うん。」
「階段を上がって……。」
ギシッ。
木が鳴る。
「この音、最高。」
「ほめられた。」
ゴーストが嬉しそうに笑う。
「二階はゴーストゾーン。」
「ぼく!」
白いゴーストが元気よく手を挙げる。
「そうそう。」
「驚かせる!」
「でも、急に飛び出すだけじゃダメ。」
「え?」
「緩急が大事なんだ。」
パンプもココも真剣に聞いている。
「例えば、お客さんが『何も出ないな』って油断した瞬間に……。」
「うらめしやー!」
白いゴーストが飛び出す。
「そう!」
俺は拍手した。
「今のタイミング!」
「やった!」
「あと驚かせたら終わりじゃない。」
「え?」
「笑顔で手を振る。」
「手を?」
「怖かったあとに安心すると、もっと楽しくなる。」
「なるほど!」
パンプは一生懸命メモを取る真似をしている。
「社長、先生みたい!」
「イベントは勉強だからな。」
そのときだった。
ギィ……
二階の奥の扉が、ゆっくり開いた。
冷たい風が吹く。
パンプたちが一斉に姿勢を正した。
「あ。」
「館長だ。」
「館長?」
俺が振り返ると、階段の上に一人の男性が立っていた。
黒い燕尾服。
銀色の長い髪。
青白い肌。
赤い瞳。
絵本から飛び出してきたような吸血鬼だった。
「……人間。」
低い声が響く。
「また肝試しか。」
「違います。」
俺は笑顔で頭を下げた。
「スカウトに来ました!」
「…………。」
吸血鬼は黙った。
「あなた、とても雰囲気があります。」
「……は?」
「ぜひ、この屋敷のお化け屋敷で働いてください!」
「……働く?」
「はい!」
「給料は?」
「お菓子付きです!」
「…………。」
吸血鬼は何とも言えない顔をした。
「私は吸血鬼だぞ。」
「知ってます。」
「人間を襲う存在だ。」
「設定として最高です!」
「設定?」
「衣装も完璧!」
「衣装ではない。」
「その立ち姿も素敵です!」
「……。」
吸血鬼は初めて困ったように眉をひそめた。
「怖くないのか?」
「全然。」
「なぜだ。」
「カッコいいから。」
その一言に、吸血鬼は目を丸くした。
今までそんなことを言われたことがなかったのだろう。
「そういえば。」
俺は首をかしげる。
「お名前は?」
少し沈黙したあと、吸血鬼は小さく答えた。
「……アル。」
「よろしく、アルさん。」
俺は右手を差し出した。
「一緒に世界一のハロウィンを作りましょう。」
アルはその手を見つめる。
そして、小さくため息をつきながら、その手を握り返した。
「……変わった人間だ。」
「よく言われます。」
「だが……悪くない。」
その瞬間、パンプが飛び上がった。
「やったー!」
「館長も仲間!」
ココも満面の笑みで拍手する。
「これで三人目です!」
俺は仲間たちを見渡し、大きくうなずいた。
「いや、違う。」
「え?」
「もう四人だ。」
そう言って、自分の胸を指さす。
「俺も含めて、この街を作る仲間だから。」
その言葉に、パンプもココもアルも、そしてホールのあちこちからこちらを見守っていたゴーストたちも、自然と笑顔になった。
誰も近づかなかったゴーストタウンに、初めて楽しそうな笑い声が響いた。




