第44話 まさかの王女様!? ハロウィンの街へようこそ!
「お菓子をくれなきゃ、いたずらするわよ?」
王都の紋章が刻まれた馬車から降りてきた少女は、そう言って笑った。
「……。」
ヨイは固まった。
ルミナも固まっている。
パンプも口を開けたまま。
ココだけが、目を輝かせていた。
「ハロウィンの挨拶だ……!」
「そこ!?」
ルミナが小声で突っ込む。
セドリックは慌てて頭を下げた。
「エリシア殿下!」
「そんなにかしこまらなくていいわ。」
少女――エリシアは笑った。
年齢はヨイたちとそれほど変わらない。
金色の髪。
青い瞳。
王族らしい上品な服装をしているが、その目は子供のように好奇心で輝いていた。
「ここが噂のハロウィン・タウンなのね?」
「はい。」
セドリックが答える。
「昨夜の祭りの報告を受け、殿下が視察を希望されまして……。」
「希望じゃないわ。」
エリシアが言う。
「お願いしたの。」
「……。」
「だって。」
エリシアは街を見る。
色とりどりのランタン。
巨大なカボチャの門。
ゴーストたち。
魔物たち。
そして、楽しそうに歩く人々。
「こんなに楽しそうなお祭り、王都では聞いたことがないもの。」
ヨイは思わず笑った。
「だったら――。」
ヨイは一歩前へ出る。
「ようこそ!」
「ハロウィン・タウンへ!」
エリシアの顔がぱっと明るくなる。
「あなたが、この街を作った人?」
「はい!」
「名前は?」
「ヨイ・フォースターです。」
「ヨイ……。」
エリシアは少し考える。
「じゃあ、ヨイ様ね。」
「様はいらないです。」
「では、ヨイ。」
「はい。」
「案内して。」
「もちろん!」
ルミナが慌てて口を挟む。
「ちょっと待って!」
「何?」
「殿下に対して、あなたが勝手に案内役をしていいの!?」
ヨイは首を傾げる。
「ダメなの?」
「普通はもっと正式な手順が……。」
エリシアが笑った。
「いいわ。」
「え?」
「私は普通の視察をするために来たんじゃないもの。」
「この街を楽しみに来たの。」
ルミナは言葉を失った。
「……。」
そして、小さくため息をつく。
「分かりました。」
「ただし、安全第一です。」
「もちろん!」
ヨイが手を上げる。
「それじゃあ――。」
パンプが駆け寄ってきた。
「まずは、お菓子!」
「そうだった!」
ヨイは笑う。
「ハロウィンといえば、トリック・オア・トリート!」
「トリック・オア・トリート?」
エリシアが首を傾げる。
「どういう意味?」
「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞって意味。」
「なるほど。」
エリシアはパンプを見る。
「じゃあ――。」
「トリック・オア・トリート!」
パンプが胸を張る。
エリシアは笑った。
「お菓子をあげるわ。」
「やった!」
パンプが飛び跳ねる。
ヨイはパンプにパンプキンクッキーを渡した。
「はい。」
「ありがとう!」
パンプは嬉しそうにクッキーを抱える。
「……。」
エリシアはその光景をじっと見つめていた。
「どうしました?」
ヨイが聞く。
「魔物って……。」
「はい?」
「こんなに可愛いのね。」
パンプが胸を張る。
「ぼくは特別!」
「自分で言うな。」
ヨイが笑う。
すると。
「殿下!」
遠くから声がした。
王都から来た護衛騎士たちだった。
「こちらへ!」
「嫌。」
「え?」
「私は今、ハロウィンを見ているの。」
「しかし……。」
「大丈夫よ。」
エリシアは笑った。
「ここには、私を守ってくれる人がたくさんいるもの。」
騎士たちが戸惑う。
その言葉を聞いたヨイは少し嬉しくなった。
「そういうことなら。」
「まずは――。」
ヨイは指を向ける。
「お化け屋敷!」
「行きたい!」
エリシアが即答した。
ルミナが驚く。
「怖くないんですか?」
「もちろん怖いわ。」
「……。」
「だから行きたいの。」
エリシアは楽しそうに笑った。
「怖いものを、みんなで楽しむんでしょう?」
ヨイは目を輝かせた。
「その通り!」
二人は意気投合してしまった。
「じゃあ、行きましょう!」
「うん!」
ルミナが頭を抱える。
「……似た者同士だわ。」
お化け屋敷の中。
「うらめしや~!」
ココが飛び出す。
「きゃあ!」
エリシアが驚く。
「成功!」
ココが喜ぶ。
しかし。
「……ふふっ。」
エリシアは笑っていた。
「可愛い!」
「え?」
「もう一回!」
「ええ!?」
ココが困る。
「では、もっと怖くします!」
「頑張って!」
その後。
ココは五回ほど登場した。
全部、最後には転んだ。
「きゃっ!」
ころん。
ぽろっ。
「……。」
エリシアが笑い出す。
「あははは!」
「殿下、笑いすぎです!」
ココが恥ずかしそうに頭を拾う。
ヨイも笑っていた。
「やっぱりココは最高だな。」
「……もう。」
ココは頬を膨らませる。
その後も。
パンプキン料理。
ランタン作り。
魔法の迷路。
ゴーストとの記念撮影。
エリシアは次々と体験していった。
そして夕方。
中央広場。
エリシアはベンチに座って、パンプキンパイを食べていた。
「……美味しい。」
「でしょう?」
ヨイが笑う。
「このカボチャは、この街で育てたんです。」
「そうなの?」
「はい。」
「この街で、全部作っているの?」
「できるだけ。」
エリシアは街を見渡す。
「……素敵。」
その声は、とても小さかった。
「王都には、立派なお城がある。」
「大きな広場もある。」
「美しい庭園もある。」
「でも――。」
エリシアはゴーストたちを見る。
「ここには、笑い声がある。」
ヨイは黙って聞いていた。
「私は、こういう場所が好き。」
エリシアは笑う。
「誰かが作ったものを見に行くだけじゃなくて。」
「みんなで作る場所。」
「……。」
ヨイの胸が熱くなった。
「だったら。」
ヨイは立ち上がる。
「もっと大きくします。」
「え?」
「この街を。」
ヨイは街を見る。
「王都から来ても。」
「遠くの国から来ても。」
「みんなが楽しめる街にする。」
「そして――。」
「いつか、世界中の人が知ってるハロウィンの街にする。」
エリシアは目を丸くした。
そして。
「……いいわね。」
「応援してくれる?」
「もちろん。」
エリシアは立ち上がる。
「私、王女として約束する。」
「この街のことを、父上に伝えるわ。」
「本当ですか!?」
「ええ。」
「ただし。」
エリシアは人差し指を立てる。
「一つ条件があるわ。」
「条件?」
「来年も、ハロウィンを開催すること。」
ヨイは笑った。
「もちろんです。」
「約束よ?」
「約束。」
二人は手を握った。
その光景を、少し離れた場所からセドリックが見ていた。
そして。
静かに報告書へ書き加える。
『王女殿下、ハロウィン・タウンを高く評価。』
さらに――。
『次年度の継続開催を希望。』
セドリックはペンを止めた。
「……これは。」
「国の正式な祭りになる可能性が出てきましたな。」
しかし、その日の夜。
王都からさらに一通の緊急連絡が届く。
内容は――。
「国王陛下が、ハロウィン・タウンへの視察を希望されている」
というものだった。
ヨイはその知らせを聞いて――。
「……。」
しばらく固まった。
そして。
「国王様が来るの!?」
ハロウィン・タウン最大の来客が――。
いよいよやって来る。




