第41話 王都からの使者! ハロウィンは国に認められるのか?
翌朝。
「……。」
ヨイは一枚の手紙を見つめていた。
差出人は――王都。
昨日まで、ゴーストタウンと呼ばれていたこの街に、まさか王都から手紙が届くとは思っていなかった。
「何が書いてあるの?」
ルミナが横から覗き込む。
「えっと……。」
ヨイは手紙を読み上げる。
「『昨夜、ゴーストタウンにて開催された祭典について、王都は重大な関心を示している』」
「重大な関心……。」
ルミナの顔が少し引きつる。
「嫌な予感がするわ。」
「続き。」
ヨイは読み進める。
「『ついては、王都より調査官および観光振興担当官を派遣する』」
「観光振興?」
「そう書いてある。」
「つまり……。」
ルミナがヨイを見る。
「視察に来るってこと?」
「たぶん。」
ヨイは手紙を裏返した。
「今日の午後。」
「早っ!」
ルミナが叫んだ。
その声を聞きつけ、パンプが飛んでくる。
「どうしたの?」
「王都から人が来るんだって。」
ココもやってくる。
「王都の人?」
「うん。」
アルが腕を組む。
「昨日の祭りが、王都まで伝わったのか。」
「たった一晩で?」
ヨイは苦笑する。
「それだけ派手だったってことだろ。」
すると。
街の入口から――。
「来たぞー!」
ゴーストが叫んだ。
「王都の馬車だ!」
「もう来たの!?」
ルミナが慌てる。
「まだ午後じゃないわよ!」
ヨイたちは急いで街の入口へ向かった。
そこには――。
豪華な馬車が三台。
王家の紋章が描かれている。
その前には、立派な服を着た男性が立っていた。
年齢は四十代くらい。
眼鏡をかけ、細い杖を持っている。
「私は王都観光振興局の――」
男性が名乗ろうとした、その時。
「ようこそ!」
ヨイが勢いよく手を差し出した。
「ハロウィン・タウンへ!」
「……。」
男性はヨイの手を見る。
「……。」
そして。
ゆっくり握手した。
「随分と元気な領主殿ですな。」
「ありがとうございます!」
「褒めていません。」
「え?」
ルミナが頭を抱える。
「すみません。この人、こういう人なんです。」
「存じています。」
「え?」
「昨夜の報告書に、あなたの名前が何度も出ていました。」
「俺の?」
「はい。」
男性は書類を取り出した。
「『巨大カボチャが突然暴走したにもかかわらず、イベントを中止せず、参加型アトラクションへ変更』」
「……。」
「『危険極まりないが、参加者からの満足度は極めて高い』」
「……。」
「『本人は終始楽しそうだった』」
ルミナがヨイを見る。
「全部当たってるわね。」
「うん。」
「反省しなさい。」
「善処します。」
王都の男性は咳払いをした。
「私はセドリック・グランツ。」
「王都観光振興局の調査官です。」
「よろしくお願いします!」
ヨイが頭を下げる。
セドリックは街を見渡した。
「……。」
「ここが、噂のハロウィン・タウン。」
昨日まで、誰も近づかなかったゴーストタウン。
しかし今は――。
ランタンが残り。
屋台の看板が並び。
子供たちが走り。
ゴーストたちが掃除をしている。
「……不思議な場所ですな。」
「そうでしょう?」
ヨイは嬉しそうに笑った。
「見てください。」
「ここには、ゴーストもゾンビもカボチャモンスターもいます。」
「そして、人間もいます。」
「それがどうしたのです?」
「みんな一緒に働いてる。」
セドリックが目を細める。
「……。」
その時。
ココが転んだ。
ころん。
「きゃっ!」
頭が外れる。
「……。」
セドリックが固まる。
ココは慌てて頭を拾う。
「す、すみません!」
セドリックはしばらく黙っていた。
そして。
「……可愛いですな。」
「え?」
ココが顔を上げる。
「あなた、昨日の祭りで人気だったゾンビでしょう?」
「は、はい。」
「王都でも噂になっています。」
「わ、私が?」
「ええ。」
セドリックは笑った。
「『転ぶゾンビ娘』として。」
「そんな名前ついてたんですか!?」
ココが顔を真っ赤にする。
パンプが笑う。
「有名人だ!」
「パンプちゃんまで!」
街に笑い声が広がる。
セドリックはその光景を静かに見つめていた。
そして。
「……なるほど。」
小さく呟く。
「何か分かりました?」
ルミナが尋ねる。
「この街が人気になった理由が。」
「本当ですか?」
「ええ。」
セドリックはヨイを見る。
「ハロウィンそのものが珍しいのは当然です。」
「しかし、それだけではない。」
「では?」
「この街では――。」
セドリックはゴーストたちを見る。
「魔物が、恐ろしい存在ではなくなっている。」
「……。」
「人間と一緒に働き、一緒に笑っている。」
「昨日の祭りを見た者たちは、それを面白いと思った。」
「そして、また来たいと思った。」
ヨイの顔が明るくなる。
「じゃあ……。」
「ええ。」
セドリックは頷いた。
「観光地として十分な可能性があります。」
「本当!?」
「ただし。」
セドリックが指を一本立てる。
「問題があります。」
「問題?」
「ハロウィンが、この国では正式な祭りとして認められていないことです。」
ヨイの表情が変わる。
「……。」
「昨日は、いわば非公式の祭り。」
「王都としては、魔物が関わる祭りを正式に認めるには、安全性の確認が必要です。」
ルミナが頷く。
「確かに。」
「もし事故が起きれば、責任問題になります。」
セドリックは真剣な顔で言った。
「ですから――。」
「今日から三日間。」
「この街を調査します。」
「三日間……。」
ヨイは腕を組む。
「何をするんです?」
「安全確認。」
「施設の確認。」
「衛生面。」
「経済効果。」
「そして――。」
セドリックはゴーストたちを見る。
「人間と魔物が共存できるか。」
「……。」
ヨイは一瞬黙った。
そして。
にっこり笑う。
「全部、見てもらいましょう。」
「自信がおありですな。」
「あります。」
「なぜ?」
ヨイは街を見る。
ゴーストたち。
ルミナ。
パンプ。
ココ。
アル。
そしてルナ。
「ここには、俺たちが作ったハロウィンがあります。」
「それを見てもらえばいい。」
セドリックは微笑んだ。
「……いいでしょう。」
「では、調査を始めます。」
その瞬間。
ルナがヨイの袖を引っ張った。
「ヨイ。」
「ん?」
「王都の人が来たなら――。」
「うん。」
「この街、本当に有名になるの?」
ヨイは少し考える。
そして。
「なる。」
「絶対?」
「絶対。」
ヨイは笑った。
「だって、こんなに面白い街――。」
「誰にも知られないなんてもったいないだろ?」
ルナは嬉しそうに笑った。
しかし。
セドリックが持っていた別の書類には――。
『国王陛下への正式報告候補』
という文字が記されていた。
ハロウィン・タウンの未来は――。
この三日間の調査にかかっている。




