第40話 最後の祝祭! 地下から現れたハロウィンの主
ゴゴゴゴゴゴ……!
地面を揺らしながら、巨大な光の柱が夜空へ伸びていた。
オレンジ。
紫。
金色。
三色の光が混ざり合い、ゴーストタウン全体を包み込んでいる。
「……すごい。」
ヨイは空を見上げた。
「こんな魔法、見たことない。」
ルミナも呆然としている。
「学園の大魔法でも、ここまで大規模じゃないわ。」
観客たちは大歓声だった。
「最高!」
「すごすぎる!」
「これがハロウィンの最後のイベントなんだ!」
「来てよかった!」
誰も、この光が本物の魔法だとは思っていない。
むしろ、最高の演出だと思っている。
ヨイは苦笑した。
「……結果的には、最高の演出になってるな。」
「笑ってる場合?」
ルミナが言う。
「地下から何か出てくるかもしれないのよ。」
「そうだった。」
ヨイは真剣な顔に戻る。
「ルナ。」
「うん。」
「地下の様子は?」
ルナは目を閉じた。
杖を握る。
「……。」
しばらくすると、ルナの顔が険しくなった。
「近づいてる。」
「何が?」
「大きな魔力。」
「どれくらい?」
「分からない。」
ルナはゆっくり目を開く。
「でも……怖くない。」
「怖くない?」
「うん。」
ルナは不思議そうに首を傾げた。
「すごく大きな魔力なのに、優しい。」
その瞬間。
地下から――。
ポンッ。
小さな音がした。
「……?」
ヨイたちが顔を見合わせる。
そして。
地面に小さな亀裂が入った。
ピシッ。
「来るぞ。」
ヨイが身構える。
ゴゴゴゴゴ……。
亀裂が広がる。
「みんな、少し下がって!」
ヨイが叫ぶ。
観客たちは「新しい演出だ!」と大喜びで後ろへ下がる。
そして――。
地面が大きく盛り上がった。
ドン!
土と石が吹き飛ぶ。
「うわっ!」
「きゃあ!」
「すごい!」
その中から現れたのは――。
巨大な黒い影。
「……。」
ヨイは息を呑む。
しかし。
影が地上へ出てきた瞬間。
月明かりに照らされた姿を見て――。
「……え?」
ヨイは目を丸くした。
そこにいたのは。
大きな黒いマントを羽織った――。
小さな魔物だった。
身長は、ヨイの腰くらい。
頭には、とんがった帽子。
顔は丸くて、目は大きい。
そして手には、小さな杖。
「……。」
魔物は周囲を見渡す。
「……ハロウィン。」
小さな声で呟いた。
「帰ってきた。」
「……。」
ヨイは固まった。
ルミナも固まる。
パンプも口を開けたまま。
ココは――。
「かわいい……。」
「え?」
ヨイが振り返る。
「今なんて?」
「かわいいです。」
ココは目を輝かせている。
「すごくかわいいです!」
「確かに……。」
ルミナまで頷いてしまう。
「想像してた『ハロウィンの主』と全然違う……。」
すると、小さな魔物がヨイを見る。
「あなた。」
「俺?」
「はい。」
魔物はヨイの前まで歩いてきた。
「あなたが、祭りを作った人?」
「そうだけど。」
「……ありがとう。」
「え?」
小さな魔物は、ぺこりと頭を下げた。
「ずっと待ってた。」
ヨイは驚いた。
「君は誰なんだ?」
「私は――。」
魔物は杖を胸に当てる。
「ハロウィンを守る魔女。」
「……。」
ヨイはルナを見る。
ルナも驚いている。
「魔女……?」
「うん。」
小さな魔女は笑った。
「でも、昔の私は一人だった。」
「だから、ハロウィンを守れなかった。」
「……。」
ヨイは地下の記録を思い出す。
昔の祭り。
人間と魔物。
そして暴走したカボチャ。
「じゃあ、あの巨大カボチャは……。」
「私の友達。」
小さな魔女が答えた。
「ずっと私を守ってくれてた。」
「だから暴走したのか。」
「うん。」
「祭りを守りたかった。」
ヨイは巨大カボチャを見る。
巨大カボチャは、いつの間にか大人しくなっていた。
「……。」
その目から、一滴の涙が落ちる。
小さな魔女が近づく。
「もう大丈夫。」
巨大カボチャの頭を撫でる。
「今年は、みんながいるから。」
すると。
巨大カボチャが――。
ぐるぐる。
体を縮め始めた。
「え?」
ヨイが目を丸くする。
巨大だった体がどんどん小さくなる。
五メートル。
三メートル。
二メートル。
そして――。
手のひらサイズ。
ぽんっ。
小さなカボチャになった。
「……。」
パンプが駆け寄る。
「かわいい!」
小さなカボチャは、パンプの頭に乗った。
「おお!」
「仲良くなったな。」
ヨイが笑う。
その時。
小さな魔女がヨイを見る。
「ねえ。」
「ん?」
「あなたのハロウィンは、まだ終わってないよ。」
「……?」
魔女が杖を空へ向ける。
「本当のハロウィンは――。」
「これから。」
杖の先から、無数の光が飛び出した。
空へ。
街へ。
人々の手元へ。
そして――。
一人ひとりの頭上に、魔法で作られたカボチャの帽子が現れる。
「わあああ!」
「カボチャの帽子!」
「かわいい!」
「すごい!」
観客たちは大喜び。
ヨイは目を輝かせる。
「……なるほど。」
「何が?」
ルミナが聞く。
ヨイは笑った。
「最後のイベントを忘れてた。」
「最後?」
「みんなで楽しむイベント。」
ヨイはマイクを手に取った。
「みんな!」
観客が振り向く。
「ここからは予定変更!」
「今夜は――。」
ヨイは大きく笑う。
「全員参加のハロウィン・パレードだ!」
「おおおおおお!」
歓声が響く。
ゴーストたちが列を作る。
ゾンビたちが踊る。
アルが空へ飛び上がる。
パンプは小さなカボチャを抱える。
ココは子供たちと手を繋ぐ。
ルミナは苦笑しながら列の先頭へ。
そして――。
ルナも笑った。
「行こう。」
「うん。」
ヨイは頷く。
「ハロウィンの街を、一周だ!」
音楽が鳴り始める。
ランタンが空へ浮かぶ。
カボチャが笑う。
ゴーストが踊る。
人間も魔物も、みんな一緒になって歩く。
それは――。
昔、封印されたハロウィンと同じ光景だった。
地下深くで。
古い魔法陣が静かに消えていく。
封印されていた魔力も、穏やかに消えていく。
そして。
古い壁に刻まれていた文字が、ゆっくりと書き換わる。
『恐怖を忘れない。』
その文字が消える。
代わりに――。
『笑顔を忘れない。』
新しい文字が浮かび上がった。
ヨイはそれを知らない。
ただ。
街を歩きながら、隣のルミナに言った。
「なあ。」
「何?」
「この街、もっと大きくできると思わない?」
ルミナはため息をつく。
「……もう次のこと考えてるの?」
「もちろん。」
「本当に懲りないわね。」
「だって――。」
ヨイは笑う。
「ここには、まだまだ可能性がある。」
その夜。
ゴーストタウンだった街は――。
初めて、たくさんの人々の笑い声に包まれた。
そして翌朝。
王都から一通の手紙が届くことになる。
その内容は――。
「ゴーストタウンで開催されたハロウィン祭について、王都より正式な調査団を派遣する」
だった。




