第37話 地下の祝祭! 封印されていたハロウィンの秘密
ゴゴゴゴゴ……。
巨大な石の扉が、ゆっくりと開いていく。
その向こうから、冷たい風が吹き抜けた。
「……。」
ヨイは目を細める。
「行くぞ。」
「待って。」
ルミナがヨイの腕をつかんだ。
「危険かもしれないわ。」
「分かってる。」
「だったら――」
「でも、明日のハロウィンを成功させるためには、知っておきたい。」
ヨイは開き始めた扉を見る。
「この街で何が起きていたのか。」
ルミナはため息をついた。
「……分かったわ。」
「ただし、無茶はしないこと。」
「了解。」
パンプが元気よく手を上げる。
「ぼくも行く!」
「もちろん。」
ココも続く。
「私も!」
アルはマントを整えた。
「夜の地下探索か。吸血鬼らしくなってきたな。」
「自称吸血鬼だけどな。」
「そこはもういいだろ!」
ヨイが笑う。
そして最後に――。
ルナが一歩前へ出た。
「私も行く。」
「うん。」
ヨイは頷いた。
「みんなで行こう。」
五人と一匹の仲間たちは、地下へと足を踏み入れた。
階段を下りる。
一段。
また一段。
地上の明かりが遠ざかっていく。
代わりに、壁に埋め込まれた紫色の魔法灯が、ひとつずつ灯っていった。
「……綺麗。」
ココが呟く。
「怖い場所だと思ってたのに。」
「この街は昔から、こうだったのかもしれないな。」
ヨイが壁を見る。
そこには、古い絵が描かれていた。
人間の子供。
ゴースト。
ゾンビ。
小さな魔物。
みんながカボチャを持って笑っている。
「やっぱり。」
ヨイが足を止める。
「昔のハロウィンだ。」
ルナが絵に触れる。
「うん。」
「ここは……私の知ってる場所。」
「思い出してきた?」
「少しだけ。」
ルナは目を閉じた。
「ここで、みんなに魔法を見せてた。」
「私がランタンに火をつけると――。」
ルナが杖を振る。
ぽうっ。
壁の絵の中に描かれていた小さなランタンが、淡く光った。
「わあ……!」
パンプが驚く。
すると。
絵の中のゴーストたちが、まるで動いているように見えた。
笑っている。
踊っている。
お菓子を配っている。
「これ……記録魔法ね。」
ルミナが目を見張る。
「昔の出来事を、魔力で保存してあるんだわ。」
ヨイは頷いた。
「つまり、この街はずっと昔から――。」
「ハロウィンを忘れてなかった。」
ルナが答えた。
「でも……。」
彼女の表情が曇る。
「途中で、何かがあった。」
「何かって?」
「分からない。」
その時。
地下の奥から――。
ドン。
音が響いた。
全員が固まる。
ドン。
もう一度。
「……。」
パンプがヨイの後ろに隠れる。
「何の音?」
「分からない。」
ヨイは慎重に進む。
すると、長い通路の先に大きな広間が見えてきた。
その中央に――。
巨大なカボチャが置かれていた。
「……あれ。」
ヨイが目を見開く。
「さっき逃げたカボチャ?」
しかし、少し違う。
巨大カボチャは三メートルどころではない。
五メートル。
いや、十メートル近い。
まるで小さな家ほどの大きさになっている。
「なんで、こんなに……。」
ルミナが息を呑む。
巨大カボチャには、無数の蔓が絡みついていた。
その蔓は地下の壁へ伸び、ゴーストタウン全体へと繋がっている。
「街の魔力を吸ってる?」
「違う。」
ルナが首を振る。
「街に魔力を返してる。」
「返してる?」
「うん。」
ルナが巨大カボチャへ近づく。
すると。
カボチャの表面に、一つの顔が浮かび上がった。
「……。」
目。
口。
そして――。
穏やかな笑顔。
『久しぶりですね。』
ルナが驚く。
「おばあちゃん……。」
「え?」
ヨイたちは顔を見合わせた。
『ルナ。』
『そして、新しい祭りを始める者たちよ。』
ヨイが前へ出る。
「あなたは誰なんですか?」
『私は、この街で最初にハロウィンを始めた魔女。』
『そして、ルナの祖母です。』
ルミナが驚く。
「最初に……?」
『ええ。』
巨大カボチャの顔が笑う。
『この世界では、昔からハロウィンという言葉はありました。』
『けれど、それは恐ろしい魔物を封じるための儀式として扱われていた。』
「儀式……?」
『人々は魔物を恐れ、魔物も人間を恐れた。』
『だから私は考えました。』
『恐怖を、笑いに変えればいい。』
ヨイの目が輝く。
「……。」
『仮装をする。』
『お化けの真似をする。』
『お菓子を配る。』
『カボチャに灯りをともす。』
『そして――。』
『人間も魔物も、同じ場所で笑う。』
「それが……ハロウィン。」
『そうです。』
ヨイは静かに頷いた。
自分が前世で大好きだったハロウィン。
その本当の意味が、この異世界にも存在していた。
しかし。
『けれど、ある事件が起きました。』
巨大カボチャの笑顔が消える。
『祭りの途中で、魔力を持った巨大カボチャが暴走したのです。』
「……!」
ヨイの顔が変わる。
『人々は恐れました。』
『ハロウィンそのものが危険なのだと。』
『そして、祭りは封印されました。』
ルミナが呟く。
「それで……この街はゴーストタウンになった。」
『ええ。』
『人々は去り、魔物だけが残りました。』
『そして、最後に残った魔女が――。』
ルナを見る。
『ルナです。』
「私……。」
『あなたは、いつか祭りが復活する日のために眠りました。』
ルナの瞳に涙が浮かぶ。
「私……ずっと待ってたの?」
『そうです。』
『そして、あなたを目覚めさせたのが――。』
巨大カボチャがヨイを見る。
『あなたです。』
「俺?」
『あなたが、この街をもう一度ハロウィンの街にした。』
『あなたが、忘れられた祭りを蘇らせた。』
『だから、ルナも目覚めたのです。』
ヨイは驚いた。
「じゃあ……。」
「俺がこの街に来たのも――。」
『偶然ではないのかもしれません。』
ヨイはしばらく黙った。
そして。
「……なるほど。」
ヨイは笑った。
「だったら、やることは一つだ。」
ルミナが苦笑する。
「またその顔ね。」
「もちろん。」
ヨイは巨大カボチャを見上げる。
「明日のハロウィン。」
「絶対に成功させる。」
「でも……。」
ルナが不安そうに言う。
「またカボチャが暴走したら?」
「その時は――。」
ヨイはニヤリと笑った。
「イベントにする。」
「また!?」
ルミナが頭を抱えた。
「あなた、本当にそれしか考えてないの!?」
「だって、俺の得意分野だから。」
パンプが笑う。
「さすがヨイ!」
ココも頷く。
「頼もしいです!」
アルが腕を組む。
「ならば、俺も協力しよう。」
ヨイは仲間たちを見る。
「明日は――。」
「この街で一番楽しいハロウィンにする。」
その瞬間。
巨大カボチャが大きく震えた。
ゴゴゴゴゴ……!
「何!?」
床が揺れる。
巨大カボチャの表面に、無数の魔法文字が浮かび上がった。
『祝祭開始まで――』
『残り十二時間。』
「十二時間……。」
ヨイが時計を見る。
明日の夕方。
ちょうどハロウィン・フェスティバルが始まる時間だった。
そして。
巨大カボチャの奥から――。
ドクン。
強い魔力の鼓動。
ドクン。
もう一度。
ドクン。
三度目。
「……。」
ルナが青ざめる。
「始まる。」
「何が?」
「昔、暴走したカボチャ。」
「……!」
ヨイの顔から笑顔が消える。
巨大カボチャの奥で――。
何かが目を覚まそうとしていた。
そして。
最後に祖母の声が響く。
『ヨイ。』
『明日の祭りを成功させたいなら――。』
『この街を、もう一度笑顔で満たしなさい。』
『それが、暴走を止める唯一の方法です。』
ヨイは拳を握った。
「分かった。」
「だったら――。」
「明日は、絶対に笑わせてやる。」
地上では。
ハロウィンの街が、静かに夜を迎えていた。
そして地下では――。
封印されていた「本当のハロウィン」が、ゆっくりと目を覚まし始めていた。




