第35話 カウントダウン開始! ハロウィンの街に異変が起こる
ピシッ。
巨大カボチャに入った亀裂から、赤い光が漏れている。
「……。」
誰も動けなかった。
ヨイは巨大カボチャを見つめる。
「全員、少し離れて。」
「ヨイ……。」
ルミナが不安そうに尋ねる。
「大丈夫。」
ヨイは手を上げた。
「まだ何も起きてない。」
その直後。
ゴーン……。
時計塔の鐘が鳴った。
「五回目。」
ルミナが数える。
ゴーン……。
「六回。」
ゴーン……。
「七回……。」
鐘が鳴るたびに、街の魔力が強くなっていく。
そして。
カボチャの亀裂も広がっていく。
「これ……。」
ルナが震える。
「昨日、地下で感じた魔力と同じ。」
「地下から、このカボチャに魔力が流れてるのか?」
ヨイが尋ねる。
「うん。」
ルナは頷いた。
「でも、少し違う。」
「何が?」
「地下の魔力が……怖がってる。」
「魔力が?」
「うん。」
ルナは胸に手を当てた。
「何かが起きるのを、怖がってる。」
ヨイは眉をひそめる。
「つまり、あのカボチャの中にいる何かが原因じゃない。」
「じゃあ、何が原因なの?」
ルミナが尋ねる。
ヨイは周囲を見渡した。
ゴーストタウン。
ランタン。
屋台。
お化け屋敷。
そして――。
笑顔で集まっている仲間たち。
「……この街そのものだ。」
「え?」
「この街が、昔のハロウィンを思い出してる。」
ヨイは気づいた。
地下で見つけた古い記録。
人間と魔物が一緒に笑った祭り。
その祭りを再現するために作った、今のハロウィン。
「俺たちが作った祭りが、昔の魔法を刺激してるんだ。」
ルミナが息を呑む。
「じゃあ……。」
「ハロウィンをやめれば止まる?」
「……。」
ヨイは少し考えた。
そして。
「いや。」
首を横に振る。
「たぶん逆だ。」
「逆?」
「ここまで来たなら――。」
ヨイは笑った。
「最後までやる。」
ルミナが驚く。
「危険かもしれないのよ?」
「分かってる。」
「それでも?」
「だって。」
ヨイは街を見る。
「この街は、ずっとハロウィンを待ってたんだろ?」
ルナが顔を上げる。
「……。」
「だったら。」
ヨイは拳を握る。
「今度こそ、ちゃんと開催してやろう。」
パンプが手を上げる。
「ぼくもやる!」
ココも続く。
「私も!」
アルはマントを翻した。
「当然だ。」
ルミナはため息をついた。
「……本当に、あなたは無茶ばかりね。」
「今さらだろ?」
「そうね。」
ルミナは笑った。
「最後まで付き合うわ。」
その時。
ゴーン……。
八回目。
街の地面が大きく揺れた。
「きゃっ!」
「地震!?」
屋台がガタガタと揺れる。
ランタンが大きく振れる。
「みんな、建物から離れて!」
ヨイが叫ぶ。
カボチャモンスターたちが、すぐに動き出す。
「こっち!」
「危ない!」
小さな体で、屋台を押さえる。
ゴーストたちも建物から人を避難させる。
「こっちだ!」
「広場へ!」
ヨイはその光景を見ていた。
「……。」
誰かが命令したわけじゃない。
誰かに言われたわけでもない。
みんなが、自分で動いている。
「すごいな……。」
ヨイは思わず笑った。
「この街、もう俺がいなくても動くんじゃないか?」
「何言ってるの。」
ルミナがすぐに返す。
「あなたが始めた街でしょう?」
「そうだけど。」
「最後まで責任を持ちなさい。」
「……はい。」
ヨイが笑う。
その時。
ゴーン……。
九回目。
巨大カボチャの亀裂が大きく開いた。
中から赤い光が溢れ出す。
「まずい!」
ルナが叫ぶ。
「何か出てくる!」
「全員、下がって!」
ヨイが叫んだ。
しかし――。
カボチャから出てきたのは、怪物ではなかった。
ぽんっ。
小さな煙と一緒に――。
大量のカボチャが飛び出してきた。
「……。」
「……。」
「カボチャ?」
小さなカボチャ。
丸いカボチャ。
細長いカボチャ。
紫色のカボチャ。
白いカボチャ。
数え切れないほどのカボチャが、街中へ転がっていく。
ころころころころ。
「え?」
パンプが目を丸くする。
「増えた。」
「……。」
ヨイは呆然とした。
「何なんだよ、これ。」
すると。
街中のカボチャが、一斉に顔を浮かべた。
「……。」
そして。
ぴょん。
ぴょん。
ぴょん。
一斉に跳ね始めた。
「可愛い!」
ココが叫ぶ。
「いや、数が多すぎる!」
ルミナが叫ぶ。
「街がカボチャだらけになる!」
ヨイは頭を抱えた。
「どうするんだ、これ……。」
その時。
ルナが突然、笑い始めた。
「……ふふ。」
「ルナ?」
「これ。」
ルナはカボチャたちを見て笑っている。
「昔のハロウィンでも、こうだった。」
「え?」
「カボチャが街中を走って。」
「みんなで捕まえて。」
「最後に、大きなカボチャをくり抜いて。」
「ランタンを作った。」
ヨイの目が輝いた。
「……なるほど。」
「つまり――。」
ヨイは周囲を見渡した。
逃げ回るカボチャたち。
追いかけるゴースト。
笑う生徒たち。
「これもイベントにできる。」
ルミナが頭を抱える。
「また始まった……。」
「カボチャ捕獲ゲーム!」
ヨイが叫ぶ。
「参加者全員で、街中のカボチャを捕まえる!」
「捕まえたカボチャは、明日のランタン作りに使う!」
パンプが大喜びする。
「楽しそう!」
ココも笑う。
「やりましょう!」
学園の生徒たちも盛り上がる。
「カボチャを捕まえろ!」
「どこだ!」
「こっちにいたぞ!」
街中が一気に騒がしくなる。
ハロウィン前夜。
突然始まった、謎のカボチャ捕獲大会。
そして――。
誰も気づいていない。
逃げ回るカボチャの中に。
一つだけ。
他のカボチャより、遥かに大きなものが混じっていることに。
そのカボチャは、ゆっくりと街の外へ向かっていた。
「……。」
そして。
ゴーン……。
十回目の鐘。
その瞬間。
巨大カボチャの表面に――。
二本の足が生えた。
「……。」
カボチャは立ち上がる。
そして。
ゆっくりと歩き始めた。




