第32話 小さな魔女ルナ、ハロウィンスタッフになる
「それで――」
朝の広場。
ヨイは集まった仲間たちを見渡した。
パンプ。
ココ。
アル。
ルミナ。
そして、昨日生まれたばかりの小さな魔女、ルナ。
「今日からルナもハロウィンスタッフだ!」
「おー!」
パンプたちが一斉に手を上げる。
ルナは少し驚いた顔をした。
「私も……?」
「もちろん。」
「何をすればいいの?」
「それを今から決める。」
ヨイは腕を組んだ。
「ルナは魔法が使える。」
「うん。」
「でも、まだ生まれたばかりだから、無理はさせない。」
ルナが少し残念そうな顔をする。
「……役に立ちたい。」
「もう十分役に立ってるよ。」
「え?」
ヨイは笑った。
「君が目覚めたことで、この街の古い魔法が動き始めた。」
「それに――。」
ヨイは街を指差す。
昨日まで普通のランタンだったものが、今朝は淡い紫色の光を放っていた。
「街が綺麗になった。」
「私が?」
「うん。」
ルナは嬉しそうに笑った。
「じゃあ……何をすればいい?」
「簡単な仕事から。」
ヨイは小さな帽子を取り出した。
黒い三角帽子。
ルナの頭にちょこんと乗せる。
「案内係。」
「案内係?」
「お客さんが迷わないように、道を教えてあげる。」
「魔法を使って?」
「魔法は使ってもいいけど、ほどほどにな。」
「分かった!」
ルナは元気よく返事をした。
するとパンプが近づいてきた。
「ぼくも案内する!」
「じゃあ二人で組んでみるか。」
「うん!」
ルナとパンプは並んで歩き出した。
「お客さんはこちらです!」
「こっち!」
「お化け屋敷は右!」
「パンプキンパイは左!」
二人は楽しそうに街を走り回る。
「……。」
ルミナが微笑んだ。
「なんだか、ずっと前から一緒にいたみたいね。」
「相性いいな。」
ヨイも笑った。
その時。
「ヨイ!」
アルが駆け寄ってきた。
「どうした?」
「ランタン飛行の準備が終わった。」
「もう?」
「俺を誰だと思っている。」
アルは胸を張った。
「吸血鬼だ。」
「自称だけどな。」
「そこは言うな。」
アルが肩を落とす。
ヨイは笑いながら空を見上げた。
夜になれば、無数のランタンを空へ飛ばす。
この世界では初めての光景になる。
「絶対に綺麗だ。」
「でしょう?」
アルが嬉しそうに笑う。
「ただし。」
ルミナが割り込む。
「安全確認は?」
「完璧。」
「本当に?」
「……たぶん。」
「たぶんは禁止。」
「はい。」
アルが素直に頷いた。
そんな中。
ルナが突然立ち止まった。
「……。」
「どうした?」
ヨイが近づく。
ルナは街の中央にある古い噴水を見つめている。
「ここ。」
「何かある?」
「分からない。」
ルナは噴水に手を触れた。
すると――。
ぽうっ。
紫色の光が浮かび上がった。
「!」
ヨイが目を見開く。
噴水の表面に、古い文字が浮かび上がる。
『収穫の夜』
『笑顔の灯り』
『仮面の祭り』
『そして、魔女の目覚め』
ルミナが駆け寄る。
「これ……昨日の地下の石碑と同じ魔力ね。」
「つまり、この街には昔からハロウィンの祭りがあった。」
ヨイが呟く。
「そう。」
ルナが静かに答えた。
「私、少し思い出した。」
「何を?」
「昔……。」
ルナは胸元に手を当てる。
「この街には、たくさんの人がいた。」
「人間も。」
「魔物も。」
「みんな一緒に、お祭りをしてた。」
「でも、ある日……。」
ルナの表情が曇る。
「祭りがなくなった。」
「どうして?」
「分からない。」
「そこから先は、思い出せない。」
ヨイは無理に聞かなかった。
「じゃあ、今度は俺たちが続きを作ろう。」
ルナが顔を上げる。
「続きを?」
「昔のハロウィンの続き。」
ヨイは笑った。
「昔がどうだったとしても、明日は俺たちのハロウィンだ。」
「……うん。」
ルナは笑った。
その時だった。
ゴーン……。
街の時計塔が鳴った。
「……。」
全員が時計塔を見る。
「まだ昼なのに。」
ルミナが不安そうに呟く。
ゴーン……。
二度目。
ゴーン……。
三度目。
昨日と同じだ。
ヨイは時計塔へ視線を向ける。
「まただ。」
そして。
昨日の出来事を思い出す。
地下の石碑。
眠れるもの。
ハロウィンの夜。
そして、ルナの誕生。
「……まさか。」
ヨイは街の地面を見る。
「この鐘……。」
「何?」
ルミナが尋ねる。
「ルナが生まれる前から鳴ってた。」
「それが?」
「目覚まし時計みたいなものだったんじゃないか?」
「目覚まし時計?」
「地下に眠っていた魔法を起こすための鐘。」
ルミナの顔が険しくなる。
「つまり……。」
「ルナが目覚めたのは、鐘が鳴ったから?」
「たぶん。」
「じゃあ、どうして今も鳴っているの?」
「……。」
ヨイは答えられなかった。
その時。
ルナが小さく呟いた。
「まだ、誰かが眠ってる。」
「え?」
「この街には――。」
ルナは目を閉じる。
「私以外にも、眠ってるものがいる。」
「どこ?」
「分からない。」
ルナが首を振る。
「でも……。」
突然。
ルナの杖が淡く光った。
「地下。」
ヨイとルミナの顔が同時に変わる。
「地下って……。」
「昨日の石碑があった場所?」
ルナは頷いた。
「たぶん。」
ヨイはしばらく考えた。
そして。
「今から行くのは危険だ。」
「でも――。」
「明日が本番だ。」
ヨイは街を見渡した。
「今日の仕事を全部終わらせる。」
「そして、夜になったら地下を調べる。」
「その前に問題を片付ける。」
ルミナが頷く。
「賛成。」
パンプが手を上げる。
「ぼくも行く!」
ココも続く。
「私も!」
アルもマントを翻す。
「もちろん。」
ルナも小さく手を上げた。
「私も……。」
ヨイは笑った。
「もちろん、一緒に行こう。」
その頃。
ゴーストタウンの地下深く。
古い扉の向こうで――。
また。
ドン。
大きな音が響いた。
ドン。
ドン。
そして。
扉に刻まれていた古いカボチャの紋章が、ゆっくりと赤く染まっていく。
「……。」
さらに、その奥から――。
低い声が響いた。
『……祭りを……。』
『もう一度……。』
『始めよう……。』
そして。
地上では。
ハロウィン・フェスティバル開幕まで、あと一日。
ヨイたちはまだ知らない。
明日の祭りが、単なるイベントではなく――。
この街に眠る「本当のハロウィン」を呼び起こす祭りになることを。




