第31話 誕生! カボチャから現れた小さな魔女
パキィン――!
巨大カボチャが、大きく割れた。
紫色の光がゴーストタウンを包み込む。
「まぶしい!」
「何が起きてるの!?」
ルミナが腕で顔を覆う。
パンプとココも目を閉じる。
ヨイだけは、光の中心を見つめていた。
「……。」
やがて光が弱くなる。
そして――。
巨大カボチャの中から、小さな影が現れた。
黒い三角帽子。
紫色の髪。
大きなマント。
そして、まだ幼さの残る顔。
少女だった。
少女はふわりと地面へ降りる。
「……。」
誰も声を出せない。
少女はゆっくり目を開いた。
そして――。
「お腹……空いた。」
「第一声それ!?」
ルミナのツッコミがゴーストタウンに響いた。
少女はきょとんとする。
「……お腹空いた。」
「聞き間違いじゃなかった。」
ヨイは思わず笑った。
「何か食べる?」
少女は小さく頷いた。
「カボチャ。」
「やっぱりカボチャなんだ。」
ヨイは屋台からパンプキンパイを持ってきた。
「これでいい?」
少女は目を輝かせた。
「……!」
両手で受け取る。
そして。
ぱくっ。
「……おいしい。」
「よかった。」
少女は夢中で食べ始める。
パンプも隣から覗き込む。
「君、名前は?」
「……。」
少女は少し考えた。
「分からない。」
「名前がないの?」
こくん。
「ずっと眠ってたから。」
ヨイは少し驚いた。
「じゃあ、起きたばかりなんだな。」
「うん。」
「ここがどこか分かる?」
少女は周囲を見渡す。
ゴースト。
ゾンビ。
カボチャモンスター。
そして、色とりどりのランタン。
「……ハロウィン?」
「そう。」
ヨイが笑う。
「今、ハロウィンの街を作ってるんだ。」
少女の目が輝いた。
「ハロウィン……。」
「知ってるの?」
「知らない。」
「え?」
「でも……。」
少女は街を見渡す。
「懐かしい。」
ヨイとルミナが顔を見合わせた。
「懐かしい?」
少女は胸に手を当てる。
「昔、ここで……。」
「みんなで、お祭りをした。」
「……。」
ヨイの表情が変わった。
「昔って、いつ?」
少女は首を横に振った。
「分からない。」
「でも、覚えてる。」
「笑い声。」
「カボチャ。」
「仮装。」
「お菓子。」
「夜の灯り。」
ヨイは息を呑んだ。
「それって……。」
ルミナも気づいた。
「ハロウィン……?」
少女は頷いた。
「この街は昔から、ハロウィンの街だった。」
その言葉に、ヨイは驚いた。
「じゃあ、ゴーストタウンになったのは――。」
少女は少し寂しそうに目を伏せた。
「みんな、いなくなったから。」
「……。」
「お祭りをする人がいなくなって。」
「街は眠った。」
「私も眠った。」
ヨイは黙って少女を見る。
そして。
ふっと笑った。
「じゃあ。」
少女が顔を上げる。
「また始めればいい。」
「……え?」
「昔のお祭りがなくなったなら。」
「今度は俺たちが作ればいい。」
ヨイは街を指差した。
「ここには、ゴーストもいる。」
「ゾンビもいる。」
「カボチャモンスターもいる。」
「学園の生徒もいる。」
「それに――。」
ヨイは少女を見る。
「君もいる。」
少女は目を丸くした。
「……私も?」
「もちろん。」
「でも、私は何者なのか分からない。」
「それなら、これから決めればいい。」
ヨイは手を差し出した。
「この街で一緒にハロウィンを作ろう。」
少女はしばらく手を見つめた。
そして。
そっと握る。
「……うん。」
その瞬間だった。
少女の胸元から、淡い紫色の光が漏れた。
ヨイが驚く。
「魔力……?」
ルミナが目を見開く。
「ものすごい魔力よ。」
「この子、普通の魔法使いじゃない。」
少女自身も驚いている。
「私……魔法が使えるの?」
「たぶん。」
「やってみる?」
ヨイが聞く。
少女は小さく頷いた。
「……うん。」
少女が手を前に出す。
「えい。」
ぽんっ。
小さな魔法陣が浮かんだ。
その瞬間――。
街中のランタンが、一斉に紫色に輝いた。
「わあ!」
「綺麗!」
パンプたちが歓声を上げる。
少女は嬉しそうに笑った。
しかし。
ヨイだけは気づいていた。
「……待って。」
ランタンだけではない。
畑のカボチャ。
建物の壁。
地面。
そして――。
街の地下。
すべてが同じ紫色の魔力で繋がっている。
「これ……。」
ヨイが呟く。
「街全体が魔法陣になってる。」
ルミナが息を呑む。
「つまり、この子が目覚めたことで……。」
「ゴーストタウンそのものが、昔の力を取り戻した?」
少女が不安そうにヨイを見る。
「……怖い?」
「まさか。」
ヨイは笑った。
「むしろ最高じゃないか。」
「この街そのものが、ハロウィンを覚えてるんだ。」
少女の顔が少し明るくなる。
その時。
少女のお腹が――。
ぐううう。
「……。」
「……。」
パンプが吹き出した。
「お腹空いたんだ!」
少女は真っ赤になる。
「……うん。」
ヨイは笑った。
「じゃあ、名前を決めよう。」
「名前?」
「いつまでも『君』じゃ呼びにくいからな。」
ヨイは少し考える。
紫色の魔法。
カボチャから生まれた少女。
そして、ハロウィン。
「パンプキンの『パン』。」
「魔女の『ウィ』。」
「ハロウィンの『ハ』。」
「……。」
ルミナが呆れた顔をする。
「それ、全部混ぜるつもり?」
「いや、さすがに冗談。」
ヨイは笑った。
そして少女を見る。
「君は――。」
少女の紫色の瞳を見る。
「ルナ。」
「ルナ……。」
「月明かりの下で生まれたから。」
少女はその名前を何度も口にした。
「ルナ。」
「うん。」
「私、ルナ。」
そして。
ルナは嬉しそうに笑った。
「よろしくね。」
「こちらこそ。」
こうして。
ゴーストタウンに、新しい仲間が加わった。
小さな魔女――ルナ。
しかし。
ヨイはまだ知らなかった。
彼女が目覚めたことで、ゴーストタウンの地下に眠っていた古い魔法も目を覚ましていたことを。
そして――。
昨夜から続いていた地震の原因も。
ハロウィンの街そのものが、昔の姿を取り戻し始めていたからだった。
さらに。
あの巨大カボチャが、なぜ大量の魔力を求めていたのか。
理由は一つ。
ルナを眠りから目覚めさせるためだった。
「……。」
ヨイは畑を見る。
巨大カボチャの残骸。
そこには、一本の蔓だけが残っていた。
その蔓が、ゆっくりと地面へ潜っていく。
まるで役目を終えたかのように。
「ありがとう。」
ヨイは小さく呟いた。
そして。
「明日は――。」
街を見る。
「いよいよ本番だ。」
ハロウィン・フェスティバル当日まで。
あと一日。
だが。
誰も気づいていなかった。
地下深くで目覚めた魔法が――。
まだ、完全には止まっていないことに。




