第25話 本物のゴースト、演技指導を受ける
「怖すぎる。」
ヨイは腕を組みながら、完成間近のお化け屋敷を見つめていた。
その隣では、学園から来た生徒たちが震えている。
「いや、本当に怖いって!」
「心臓が止まるかと思った!」
「最後までたどり着けない!」
「……。」
ヨイは少し考えた。
「よし。」
「もう一回やろう。」
「なんで!?」
生徒たちから悲鳴が上がる。
「問題点を見つけないと改善できない。」
「僕たちは問題点じゃなくて被害者です!」
「大丈夫。」
ヨイは笑顔で親指を立てた。
「次はもっと安全にする。」
「その言葉、信用していいんですよね!?」
ルミナが慌てて割って入る。
「ヨイ!」
「分かってる。」
「まずゴーストたちに説明しましょう。」
「そうだな。」
ヨイは屋敷の中へ入った。
そこには十数体のゴーストが集まっている。
白い布を被ったゴースト。
半透明の老人。
宙に浮く少女。
壁から顔だけ出しているゴースト。
みんな楽しそうに笑っていた。
「みんな。」
ヨイが声をかける。
「本番では、お客さんを怖がらせすぎないようにしよう。」
「えー?」
一体のゴーストが不満そうな声を上げる。
「もっと怖くしていい?」
「駄目。」
「なんで?」
「お客さんは、戦いに来るんじゃない。」
「楽しみに来るんだ。」
ゴーストたちは顔を見合わせる。
ヨイは紙に簡単な図を書いた。
「怖さを十段階にすると――。」
「最初は二。」
「次は三。」
「その次は五。」
「最後に七。」
「いきなり十にしない。」
「なんで?」
「ずっと怖いと疲れるから。」
「怖い。」
「安心。」
「怖い。」
「笑う。」
「この繰り返しが大事。」
ゴーストたちは真剣に聞いている。
パンプも隣で腕を組んでいた。
「つまり、驚かせたあとに休ませるんだね。」
「そう。」
「じゃあ、ぼくもやってみる!」
パンプが壁の後ろに隠れる。
「いくよ!」
生徒の一人が歩いてくる。
パンプが飛び出す。
「わっ!」
生徒が驚く。
その直後。
パンプは頭を下げた。
「ごめんね!」
「……。」
生徒が固まる。
「なんで謝るの?」
「怖かった?」
「いや……。」
「可愛い。」
「え?」
パンプは首をかしげる。
「怖がらせたのに?」
「うん。」
「なんで?」
「そのカボチャ頭が可愛いから。」
「……!」
パンプの顔が真っ赤になる。
「か、可愛い……。」
その場にいたゴーストたちが笑い始めた。
ヨイも笑う。
「それだ。」
「え?」
「パンプは怖がらせるだけじゃなくて、可愛さを入れた方がいい。」
「ぼく、可愛いの?」
「うん。」
「じゃあ、可愛いお化けになる!」
パンプが張り切る。
その様子を見ていたココも手を挙げた。
「私も!」
「ココは最後の担当だ。」
「怖がらせる?」
「いや。」
ヨイは首を横に振った。
「お客さんを安心させる役。」
「安心……。」
「怖い場所を通り抜けた最後に、ココが笑顔で迎える。」
「それならできます!」
ココは嬉しそうに頷いた。
「お菓子も渡します!」
「完璧。」
こうして、ゴーストたちの演技指導が始まった。
しかし――。
「次!」
ヨイが声をかける。
壁からゴーストが飛び出す。
「うおおおおお!」
「大きすぎる!」
「声!」
「もっと小さく!」
「うおお!」
「まだ大きい!」
「うお……。」
「今度は小さすぎる!」
「難しい!」
ゴーストたちは大混乱。
ルミナはその様子を見て笑っていた。
「本当に演技指導をしているみたい。」
「そうだよ。」
「ゴーストにも個性があるから。」
「誰がどこで何をするか決めれば、もっと面白くなる。」
「なるほど。」
ルミナは配置図を作り始めた。
「じゃあ、入口はパンプ。」
「最初に軽く驚かせる。」
「二番目は壁抜けゴースト。」
「三番目は……。」
「いいね。」
二人は顔を見合わせる。
「これならいけそう。」
その時。
屋敷の奥から――。
「うわああああああ!」
突然、大きな悲鳴が聞こえた。
「!?」
全員が振り返る。
「何!?」
ヨイが走る。
屋敷の一番奥。
そこには――。
宙に浮いた巨大なゴーストがいた。
「……。」
ヨイは固まる。
ルミナも固まる。
パンプも固まる。
巨大ゴーストは、ゆっくり口を開いた。
「……いらっしゃいませ。」
「怖い!」
全員が叫んだ。
巨大ゴーストはしょんぼりする。
「駄目?」
ヨイは少し考えた。
「いや。」
「逆に使える。」
「え?」
「この人は最後のボス役。」
「ボス?」
「そう。」
ヨイの目が輝く。
「お客さんが最後まで進んだら、この人が登場する。」
「そして――。」
ヨイはニヤリと笑った。
「『お菓子をくれなきゃ、通さないぞ』って言う。」
巨大ゴーストは目を丸くした。
「……怖くない?」
「そこがいい。」
「怖いのに、言ってることは可愛い。」
「ギャップだ。」
パンプが笑う。
「面白い!」
ココも拍手する。
「お菓子を渡したら通してあげるんですね!」
「そう。」
ヨイは頷いた。
「これがハロウィン。」
「怖がらせる。」
「笑わせる。」
「最後はお菓子。」
みんなの顔に笑顔が広がった。
そして夕方。
お化け屋敷の入口に新しい看板が取り付けられた。
『ドキドキお化け屋敷』
その下には――。
『怖がりさんも大歓迎!』
と書かれている。
ヨイは完成した看板を見上げた。
「よし。」
「第一アトラクション完成。」
ルミナも笑う。
「でも、まだまだ作るんでしょう?」
「当然。」
「次は?」
ヨイは街の中央広場を指差した。
そこには、大量の木材とカボチャが運び込まれている。
「カボチャ料理の屋台。」
「ランタン広場。」
「それから――。」
ヨイは夜空を見上げた。
「夜のパレード。」
アルが静かに笑った。
「空の出番だな。」
ハロウィンの街は、少しずつ形になっていく。
しかしその頃。
畑では――。
魔力を吸収したカボチャが、また一回り大きくなっていた。
そしてその中の一つに――。
小さな亀裂が入っていた。
ピシッ。
誰も、その音には気づかなかった。




